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前世の前世Ⅳ ビジョン悲しい帰還 中 セレンとアン

「ガハハハハハ勝った! 勝ったわ! 上で勝ち誇る同盟軍共よ儂は勝ったぞ、エリゼ玻璃音女王陛下は無事に落ち延び、メドース・リガリァは存続するワハハハハハ……」


 ザーーー、パラパラ……

 岩や砂が少しずつ崩れ落ちて行く石の通路で一人貴嶋は高笑いを続けた。



「私とした事がエレガの女神様の口車に乗って、とんだマユツバ話を信じ掛けてしまいました恥ずかしい……」


 ひとしきり黒焦げた土をいじっていた砂緒はもう蛇輪に戻ろうかと立ち上がった。


「おっ?」


 立ち上がった瞬間、ただの夜の焼け野原の更地であったはずのメドース・リガリァ城跡に、忽然と真新しい白亜の城が浮かび上がった。と言っても、城だけがにょきっと建ったのでは無くて、そこの空間ごと別の世界でもあるかの様に昼間のメド国が見えた。強烈な画像過ぎて砂緒は女神が言っていたビジョンだとかそんな事もうすっかり忘れて、ありありと鮮やかに浮かぶいにしえの光景に魅入った。

 実はその城は百年と数十年前の、メド国最盛期(トウ)ウェキ玻璃音大王によって拡張工事をされ、完成したばかりのありし日の姿だった。そしてその城の正門前には大勢の人々が大王の遠征からの帰国を待ちわびていた。大王は国民からも絶大な人気があった。

 ワァーーーーーー!!

 市街地まで続く遠くの群衆から順に歓声が上がる。遂にウェキ大王が戻って来たのだった。


「イエーーイ、イエーーーーイ!!」


 人々が手を振り、美女達が花びらや紙吹雪を撒く中、派手な飾りが付いた馬鎧を着た馬に跨った、これまたド派手な格好の茶色いウエーブのかかった長い髪の毛をした、軽薄そうな美男子が笑いながらあらゆる方向に向けて異常な回数のピースサインをしながら配下の部隊達を引き連れてやって来た。


(なんだこの軽薄そうな顔、私こういうタイプが一番苦手です。それにイエーイイエーイって高○忠○ですか??)


「ウェキ大王さまーーーっ!」

「おかえりなさいませウェキ玻璃音大王ーーーっ!!」


 人々、特に若い女性達から熱烈な声が掛けられる。するとすぐに馬に乗る男はにやけた顔でまたピースサインを繰り返した。


(やっぱりコレが私の前世の前世……知的な今の私からすると、どうも信じ難いですね)


 砂緒は自分の事を知性派であると本気で信じ込んでいた……



 そんな砂緒の気持ちをよそに、映画の様に都合よくあっさりと場面は変わる。


「セレンッッ!! あいたかったよぉ~~~~~!!」


 ウェキ玻璃音大王と思われる男は、城内の豪華な自室に入るや否や、大声で愛妻の名前を呼んだ。


(トウ)~~~~~~~、あたしも会いたかったですわっ!!」


 大王の声を聞くや、とても美しい若い娘というよりもまだ少女という感じのセレンが走って飛んで来て、そのまま大王に抱き着き、大王はセレンを抱いたままくるくる回った。


(大王は三十代くらいなのに、このセレンという妻はどう見ても十代半ばくらい……青少年保護育成条例は大丈夫なのでしょうか?)


 砂緒はとても余計な事に気を回し、このセレンという美少女がセレネに面影が似ている事に全く気付いていない。


「遠征中もずっとずっとセレンの事ばかり考えていたんだぜ~~~」

「またまたあ、あっちこっちに知り合いの女性がいる癖にっ! どうせ政略結婚でいやいや結婚したのでしょう……」


 くるくる回り終わり、床にトンと足を着いたセレンが少し意地悪っぽく言った。


「そりゃ最初は政略結婚でしたよ、どんなのが来るかな~~~って、域外の帝国への道を開く為とは言え、ヤバイのが来たらどうしようかな~~っとずっとドキドキだったさ、けど実物のお前を見てこんな大当たりは無いって思ったよっ、本当にラッキーだったぜ!!」


 今度は少し身長の高いウェキ玻璃音大王が身を屈め、まだ少女のセレンの頬に熱烈にキスを繰り返す。


(ロリコンですか……はぁ見るに堪えませんね)


「あ、貴方正直過ぎです……けど、だから嘘偽りが無いと信じますわ……」


 セレンは頬を赤らめて目を閉じた。


「駄目だもう我慢出来ん、じいよ布団を敷けっ!!」


 等と言いながら大王は突然セレンという美少女を無理やりお姫様抱っこにすると寝室に向かった。


「ちょ、ちょっと貴方っまだ昼間ですよっそれに式典がっ」


 激しく赤面したセレンが可愛い手足をバタバタ振りまくるが、ウェキ玻璃音大王は無視して寝室に駆け込んで行った。


「そんなんどうでもいいやっうおーーーーーっ!!」

「や、やだっこらダメ、やめっあんっ……」


(何ですかコレはハレンチなっ! う、うらやま……いやいや完全に青少年保護育成条例に反してるでしょ、少女に淫らな行為と書いて淫行ですよ、淫行で逮捕ですな)


 砂緒は腕を組み、無理やり厳しい顔をして目を閉じ羨ましい行為を見ない様にした……



 色とりどりの花びらが舞い散り、また場面は変わった。


「貴方お帰りなさい、ほら見て私達の小さな天使がこんなに笑って喜んでいますわっ!」


 先程までの場面とさほど変わらない華奢な美少女のセレンが、もう布にくるまれた赤ちゃんを抱いている……


「おおお~~~俺にも抱かせてくれよ~~ヨシヨシ」


 ウェキ玻璃音大王は赤ちゃんを抱き寄せようとするが、愛妻のセレンはサッと奪われまいと庇った。


「だーめ、前に危うく落とし掛けたでしょう!!」

「可愛いなあ、確実にお前に似て美少女になるんだろうなあ……」

「アン、御父上に似た相手とだけは結婚しては駄目よ~~」

「結婚とか怖い事言うなよ、アンはまだ生まれたばかりじゃないかっ!」


 絵に描いた様な幸せな家庭が展開されていた……


(……何ですかコレはもう赤ちゃん出来てるじゃないですかっ完全に犯罪です。あの華奢な美少女に赤ちゃん産ませるとか即逮捕でしょ、うらやま、いやいや前世の前世とか関係ないです、私自身に実感無い訳ですし……ごくり……)


 砂緒は必死に首を振りながらも、セレネ似の美少女と相思相愛の自分の前世の前世の男に激しく嫉妬した……



 しかし突然場面は暗転する。

 ゴロゴロ……ピシャッ……ドドーーン!!

 雷鳴が鳴り響き土砂降りの雨が降る中、城内の異様な雰囲気を感じてウェキ玻璃音大王が城門から慌てて城の中に駆け込む。しかし城内のあちこちには城兵の死体が転がっていた……


「何だこれは、誰かいないのか!?」


 度々の遠征で城内に兵士が少ない時を見計らい、何者かが襲撃を掛けた様な状況にしか見えなかった。


「アンッ、セレンッッ!!」


 ウェキ玻璃音大王は、愛妻と愛娘の事しか頭に浮かばず、必死に階段を駆け上った。

 ギギッ

 警備兵が血を流し倒れる自室のドアを開けると、部屋の中には血だまりがあった。その中心には小さなアンの遺体があった……


「ああっアン」


 回復魔法を掛けようと抱き上げたが、既に息は無かった。かなりランクの高い冒険者である大王も蘇生魔法は使えなかった。


「あ……う……」

「!!」


 うめき声がして、即座にアンを抱いたまま立ち上がり、声がする方を見た。やはり血まみれで瀕死のセレンがベッドに横たわっていた。


「セ……レン……よし、回復魔法をっ!」


 そう言って、ウェキ大王は一瞬逡巡したが抱き抱えたアンを彼女に見えない様に椅子に置いた。


「回復強!!!」


 シュバッ!!!

 キラキラキラ……

 星形粒子が掌から舞い降りるが、傷付いたセレンは回復の兆しを見せない。


「何故だ!? おかしい、回復!! 回復!! 回復!!」


 とにかく回復魔法を連発するがどんどんセレンの息は小さくなって行く。


「まさかっ、呪詛性の武器か!?」


 回復魔法を受け付け為さなくする、呪詛性の武器を使った凶悪な犯行かもしれない、そんな事がふっと頭をよぎった時だった。


「……あ、なた……アンは? アンは無事??」

「……ああっ生きてるぞっ今部下が保護している! 早くお前も治れ、なっ」


 大王は背中でアンの遺体を乗せた椅子を隠した。


「うん……信じる……よかった……アンだけでも無事……」

「こらっ、お前が死んじまったらアンが……母親が居ないと……ダメだろ……おい、俺も寂しいだろ……生きてくれ……死ぬな……」


 必死に声を掛けたが、その途中で既にセレンが笑顔でこと切れたのが分かった。ウェキ玻璃音大王はしばらく動かなかったが、椅子の上に寝かせていたアンの遺体をセレンの横にそっと並べると、声を出さずに肩を震わせてずっと泣き続けた。


(……………………………………………………)


 砂緒は立っている感覚がなくなるくらいに目を見開いたまま頭が真っ白になっていた。

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