地下牢に来た七華……
ーあれからまた数日経った後
雪乃フルエレの精神状態がそろそろ限界だという看守の報告を受けた七華リュフミュラン王女は、そろそろ頃合いだと判断して一か月を待たずに地下の牢獄に向かった。
「雪乃フルエレさん! 化けも、いえ砂緒さまっ、ご無事ですかっ! どこにいらっしゃいますか!?」
もうメンタルが限界に近付いており、ぶつぶつ独り言を言い始めていた雪乃、相変わらずマイペースで普段と変わらぬ砂緒、両人の耳に牢獄では珍しい声が聞こえ激しく反応する。
「……」
「ここです! ここです! 七華さんここですっ!」
無人島でヘリか貨物船でも近づいた様に最後の力を振り絞って大声を出すフルエレ。軽く無視をする砂緒。魔戦車を燃やしてしまいなさいと言われて以来、あまり好感は持っていなかった。
「おおお、なんという事でしょう。雪乃さん砂緒さま、どうしてこんな事に。心が痛みますわ。直ぐに出して差し上げます。看守、鍵を開けなさい!」
いつもの砕けた態度とは違い、畏まって直ぐにジャラジャラとぶら下がった、多くの鍵の中から牢の鍵を取り出し、ガチャガチャと開ける。
「うわああああん、しんどかったです。七華~~~」
「おおお、本当にごめんなさいね、どうしてこんな事に。担当の者達を厳しく罰しますわ」
「ぶち込む為の牢屋を建てた家主に出してもらったからと言って、泣いて喜ぶのはいささか腑に落ちませんが」
泣いて七華に抱き着いたフルエレと違い、砂緒は些かも感謝している様子は無い。
「……ご安心なさい、村の者達の訴えを聞いて、矢も盾もたまらず飛んでまいりました。ささっ、外に出て皆の所に行くのです。それに冒険者ギルドは当然そのままです。今では冒険者で大盛況ですよ」
「え? それはそれとして……でも本当に有難うございます。七華さんにどうやってこのお礼をすれば良いか……」
「お礼なんて良いのですよ、ただ私達の友情があれば良いのです」
「う、う、七華」
軽く砂緒を無視して感動の対面が続く。もちろん七華が部下に命令してぶち込み、そして今度はまた七華が命令して釈放したに過ぎない。そんな事など露知らずフルエレは感謝しきりだったが、砂緒は終始冷ややかな目線で見ている。
「私も長期間お日様を見ていなくてフラフラですよ。そろそろ出ても良いでしょうか」
何時まで続くか分からない感動シーンを早く切り上げたい砂緒だった。
「おお、そうですね看守、早くお二人をお連れしなさい」
砂緒はスタスタと何の余韻も無く歩き出す。フルエレはよろよろと何度も振り返りながらようやく出て行った。
「うふふふ、ふははは、勝った! また勝った! 笑えてしまうわ。あんな簡単にお涙頂戴してしまって良いものかしら。チョロ過ぎですわ」