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雷 上 再びの巨大化

 ―メドース・リガリァ本城内。


「スピネル様のデスペラード改Ⅲ、突如城壁を越えて裏庭に現れ、しかしすぐにまた城壁を越えて消えて行ってしまいましたっ!」


 報告にざわつく城内……


(裏庭に現れすぐに消えた……まさか……)


 独裁者の貴嶋はすぐにそれがエリゼ玻璃音女王の帰還を意味するのではと想像した。もっともそれは自身の願望なだけかもしれないとも思った。


「本城の守りはどうか?」

「ハッ、不思議と特に本城に攻撃を仕掛ける同盟軍が現れず、どうやら同盟軍内部で混乱があるのか、散発的に市街地で小競り合いがあるばかり。今夜は本城への総攻撃は無いのかもしれません」

「そうであろうか……」


 しかし矢継ぎ早に家臣達に中心の本城の防御を指示しながらも、家臣達の会話の隙間を見計らい、貴嶋はスッと背後に後ずさり、そのまま秘密の階段に入ると振り返る事無くどんどん地下迷宮に向けて降りて行った。遂に独裁者貴嶋は戦況悪化を見て家臣達を見捨て逃走した……もちろん愛するエリゼ玻璃音女王と死ぬ前に一目会いたいと思っての行動だった。



 ガシャーーン、ガシャーーーン

 失意と怒りの雪乃フルエレ女王が操縦する蛇輪が遂には本城の前の城壁に到達し、城壁からの散発的な魔法攻撃なども全く無視してそれを乗り越え、簡単に本城の前に到達した。


「ご報告! 本城の前にメッキ野郎が現れました!!」

「メッキ野郎に魔法攻撃、魔銃攻撃を仕掛けるも、簡単に突破され、この城に向かっております!」


 城内では次々に緊急の報告が入るが、家臣達が顔を見合わせて貴嶋を探すがどこにも見当たらない。


「どうした、貴嶋さまは何処におられる??」

「どこにもいないぞっ!」

「まさかっ!! サッワ殿やスピネル殿に続き、貴嶋様も遁走されたのかっ!? なんて事だっ」

「何の為に我らは戦って来たのだ……」

「乗る船を間違えた……」


 行方不明のエリゼ玻璃音女王は仕方ないとして、独裁者の貴嶋始め主要メンバー全員から置いていかれた城内は目も当てられない惨状となった。



「フルエレどうしますか? 降伏を勧告しますか?」


 砂緒が険しい顔で操縦桿を握り締めるフルエレに一応聞いた。


「ううん、もう充分逃げる時間は与えてきたわ。此処でこの城を完全に潰して戦争を終わらせるの……」


 雪乃フルエレの発言が、実はただ単に失ったアルベルトの復讐である事を隠す嘘なのは砂緒もセレネも気付いていたが、二人共何も言わなかった。


『お、おいそれよか……さっきから高度が上がってるんだが、フルエレさん飛んでいるのか?』


 突然セレネが上の操縦席から魔法モニターで驚いて言って来た。


『いえ、飛んでません……恐らく久々に蛇輪が巨大化してるのでしょう……』

『え、巨大化!? そんな機能があったんかよ……じゃ、じゃああたし達も身長十Nメートルくらいになってるんか?』

『もしセレネが身長十Nメートルなら服とかビリビリに破けているでしょう』

『そうだな……』


 知らない内にフルエレの感情に反応した蛇輪は普段の二十五Nメートルの三倍程もの大きさになっていた。


『……お城を見下ろすくらいの大きさになっているわね……取り敢えず蹴るわ』


 そう言うとフルエレは片足を持ち上げた。


「おおお、メッキ野郎が何故か巨大になって城より大きく!?」

「一体我らはどうなるのだ!?」

「とりあえず魔法を撃て、撃ちまくれ!!」


 貴嶋が消えた城内最上階の見晴らしの良い司令部では、家臣達が窓から見える現実離れした光景を逃げる事も出来ずに見つめ続けていた。


「片足を……持ち上げたぞ……」

「どうするのだ、蹴るのか?」

「逃げろっ!!」


 しかし判断が遅かった。


『わあああああああああああああああああああ!!!』


 フルエレは絶叫すると思い切りサッカーのボールでも蹴る様にお城の上部を蹴り飛ばした。

 ドカーーーーーーン!!

次の瞬間には、先程まで家臣達が詰めていた司令部は綺麗さっぱり消え去って居た。突然上の階が消えた下の階の人々が、開いた天井から巨大な蛇輪の姿を見上げる。


「なんだ……これは」

「上の階はどこに消えた……?」


 ガガガッッ!!

 必死に地下迷宮に向かっていた貴嶋は、大きな振動によろめいて壁を触った。


「城を潰しておるのか? 急がねば……」


 愛するエリゼ玻璃音女王が地下迷宮で待っている、そう信じて再び階段を降り始めた。


「次はどうしますかフルエレ?」

「最後は砂緒の雷で全て消して頂戴……けどその前にもう少し城を壊してやるわっ」


 そう言うとフルエレは上部が吹き飛んだ城の上にゆっくりと上がって行く。上がり始めると、巨大化した蛇輪の重量を支え切れず、城の踏んだ部分が砂糖細工のお城の様にクシャッと崩れていく。しかしやがて蛇輪は砂山の城に登る幼児の様に城の真上に登り切った。


『はあああああああああ、潰れろっ!! 潰れてしまえっこんな城っ!!』

 

 ガシッガシッガシッ!! 

 巨大化した蛇輪は、恐ろしい形相で絶叫するフルエレの声と共に足裏でガシガシ城を踏み潰し始めた。


『きゃあっ』


 しかし城を潰す最中でズルッと滑ってコケかける蛇輪。しかしフルエレはバランスを取り直すと再び城を思い切り踏み潰し続けた。

 ガシッガシッガシッ……

 泣き叫びながら城を壊し続ける雪乃フルエレを、砂緒は無言で見つめ続け、セレネは何も言えず目をつぶって早く時が過ぎるのを祈った。彼女からすれば今のフルエレは普段からはあまりにもイメージがかけ離れていて見たい姿では無かった。


「……フルエレ、もうそろそろ良いでしょう」


 城は踏み潰され続け、原型を留めなくなり、ただの砂利山の様な姿になりつつあった。それを見て砂緒は最後に死体の山となったであろう城跡を消し去るべき時だと思った。砂緒は無言でむせび泣き続けるフルエレの腕を掴んだ。


「……うん、やって頂戴……全て消してしまって」


 そう言い終わると雪乃フルエレは操縦桿を一本砂緒の為に譲った。砂緒は中腰になり操縦桿を握ると、掌からバリバリと雷を流し続けた。

 ヒューーーーーーー……

 久しぶりに出た攻撃範囲が城跡の残骸に付与されて行く。しかしそれは原型を留めていない城跡の為に、一か所に積み重なる様に重複して攻撃範囲が付与されて行った。


「行きますよ」

「うん」


 砂緒が無感情に言うと、いつもの様に夜空に雷雲が広がって行き、その雲に幾本もの稲妻が横にビカビカと走り始めた。

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