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忘れていた占い…… 中 蘇生


「砂緒、セレネ、行くわよっ!」

「ああっ行けるよ」

「あい」


 上の操縦席に戻ったセレネが返事すると、雪乃フルエレはすぐさま片手で握る操縦桿に力を込めた。その横では中腰の砂緒がもう一本の操縦桿を握る。その直後に背中の羽がバシャッと展開して、両側の建物にめり込んで簡単に破壊しながら黄金色の粒子を振りまき始めた。しかし三人ともそんな事には一切構っていなかった。


「回復!」

「回復!!」

「回復っ」


 バシュウッッキラキラキラ……

 三人同時に叫ぶと、物陰に倒れて血だまりの上でピクリとも動かなくなった若い娘の上に、蛇輪の巨大な揃えた両掌から、星型のキラキラ粒子が雪の様に降り注いだ。


「くっ……はあっ」


 直後に娘の胸の刃傷はシュ~ッと煙を出して閉じて行きやがて消え、娘は微かに小さな息を再開した。


「早っ」

「え? 一回でですか??」


「うっうう、誰……」


 寝転んでいた娘は微かに動き目を開けようとした。

 ピーーッ

その直後にさらに魔ローダースキル回復(強)の再使用可能のブザーが鳴った。


「えっまさか……私が兵士に回復を掛けた時はこんな早く無かったのに……」

「フルエレ、セレネ、だめ押しでもう一度してすぐに退散しましょう」

「おお」

「うん」


 三人は相談せずに一呼吸置いてリズムを合わせた。


「回復!!」

「回復」

「回復!」


 バシュウッキラキラキラ……

 再び掌からキラキラ粒子が娘の身体に舞い降りて行く。


「ぐはあっ!! がはっがはっ!!」


 寝転んでいた娘が力強く呼吸を再開して体を動かした。


「行きましょう!」


 砂緒はフルエレから主導権を素早く奪い、即座にその場を離れた。


「何故それ程急ぐ?」


 セレネが上の操縦席から聞いて来た。


「あの娘さんにとっては幸運でしょうが、本来ならあの子は死ぬ運命だったはず。それが我々の力で蘇生した事でどの様に運命が狂うか良い方向に向かうか分かりません。もはや我々はあまりあの娘に干渉せずにすぐに立ち去るべきなんです。直後にあの子が流れ弾に当たって死ぬとしてもです」

「おいおいどうした、急に真面目になったな」


 突然ペラペラしゃべり出した砂緒にセレネが驚いた。


「何にしても兵士含め、この街でこれから死んで行く人々の面倒を全て見れる訳では無い以上、ああいう事は例外の例外とするべきです」


 セレネは自分が砂緒によって必死に何度も何度も数えきれない程に回復を掛けてもらって生き返った身である以上、それ以降もはや何も言わなかった。


「私は……あんな風にアルベルトさんを生き返らせたかったの……」


 饒舌に話した砂緒の直後に、目を合わせず前を向きながらフルエレがポツリと小声で呟いた。しかしその一言は普段いい加減でちゃらんぽらんな砂緒の心を深く抉った。砂緒は即日埋葬されたアルベルトを飛んで戻って復活させようというフルエレの願いを無下に否定したが、それは損傷が激しいアルベルトの遺体はもはや蘇生しないだろうという客観的な分析の他に、砂緒自身が嫌いなアルベルトの再生を望まなかった気持ちがあったからでは? と自分自身を深く疑った。


(ち、違います……好き嫌いで再生しない方が良いと言ったのでは無いんです。本当にもう蘇生しない、出来ない、しない方が良いと思ったからです……でもフルエレの言い方は私を責める様な……いや、フルエレはそんな子では無いはず……)


 砂緒は普段全くしない珍しく自問自答しながら冷や汗を流し始めた。


「……ごめんね、砂緒、貴方を責める様な言い方……砂緒はいつも私の事考えてくれてたし、悪意がある訳無いのに、酷い言い方したかもしれない……」


(やっぱりちょっと……そう思っていたのか……)


 砂緒はまた少し涙を滲ませ始めたフルエレを見る事が出来なかった。


 そして今まさにこの時、北のバックマウンテンから駆け下りて来て、燃え盛る夜のメドース・リガリァの市街地を闊歩するSRV数機を疾風の様に蹴散らし、本城の裏庭地下迷宮入り口にエリゼ玻璃音女王を密かに戻したスピネルのぼろぼろのデスペラード改Ⅲが、再び本城から市街地にジャンプして駆け入り始めた瞬間だった。


 ―東側本隊本陣、ル・ツー速き稲妻Ⅱ。

 メランと兎幸と少数の兵は、城壁内に突入した七機のSRVとは別れ、本部機能として城壁外で待機していた。


「こちら市街地魔戦車、ヤツが突然現れましたっ!」

「ヤツはSRV数機撃破! そのまま中心の本城に戻って行きました!」


 次々にメランの元にグレーなヤツ、つまりスピネルのデスペラード・サイドワインダーカスタムⅢ出現の報告が入る。


「も~~~砂緒さんもセレネさんも通信切っちゃって! あの三人の事だからやられちゃう事は無いだろうけど……」

「メラン怒らないで、綾取りする?」

「しない! 兎幸は魔ローンの探索手を抜かないで!」

「あいあい」



 砂緒達三人から蘇生された弁当屋の娘は目を覚ますとなんとか立ち上がり、フラフラと我が家の店を目指してあちこち火の手が上がる故郷の街を歩き出した……

 パンパンドーーン

 方々から魔銃声や爆発音が響き渡る。


「なんて事……お家が……お店が燃えている……あぁ……パパ、ママ……」


 なんとか辿り着いた我が家の店は大きな炎に包まれ崩れ落ちる寸前であった。力なく娘はその場に崩れ落ちた。


「おいお前何者だ! 動くな撃つぞっ!!」

「?」


 力なく声がする方に振り向くと、カヌッソヌ兵数人が魔銃を構えていた。砂緒の言葉通り、折角奇跡的に蘇った弁当屋の娘だったが、やはり直後に死ぬ運命だった様だ……

 ビュンッ!!

 しかし直後に魔銃を構えていた兵士達全員の首が飛んだ。


「へ?」


 弁当屋の娘が上を見上げると、巨大な魔ローダーが今にもちぎれそうに片腕をダランとしたまま立ち尽くしていた。スピネルのデスペラード改だったが、彼は靴のつま先から飛び出たナイフで、正確に兵士達の首を飛ばしていた。


「ここに居たか探したぞ」


 あたかも駅で待ち合わせしてたかの様なそっけないスピネルの声に、弁当屋の娘は涙が溢れた。


「……スピネル……嘘みたい……ぎゃっ」


 しかし感傷に浸る娘を無視して、まだ動く方の魔呂の手で無造作に彼女を掴むとハッチを開き顔を合わせた。


「うむ、生きておったか、良かった。では行くぞ」

「ちょっと待って! パパがママが……あぁあの火の中にっ」


 娘は巨大な掌に掴まれたまま、炎に包まれる我が家の店に泣きながら指をさした。


「この人達の事か?」

「お前! 無事だったのか!」

「ああ、神様っ! 早くこっちに来ておくれっ!」


 開いたデスペラードのハッチの奥から娘の両親が顔を出し腕を伸ばした。


「来る途中、お前の名前を叫びながら探しているのを偶然見つけて拾ってな」


 言いながらスピネルは娘を操縦席に押し込んだ。すぐさま泣きながら抱き合う親子三人。


「もう名前は呼ばないでって言ってるでしょ!!」

「何を言ってるんだエカチェリーナ、こんな時にまで」

「弁当屋の娘なのにエカチェリーナは恥ずかし過ぎるわよ」


 三人は泣いて抱き合いながらも普段の様に口喧嘩を始めた。


「よし、では行くぞエカチェリーナ。それがしは姫の様な女が好みなのだ良い名ではないか」

「もう! スピネルったらどんな時も素っ気なさ過ぎなのよ!!」


 弁当屋の娘は嬉しくて号泣したい癖に、激しく赤面しながら操縦席のスピネルの肩をポカポカ叩きまくった。


 ……雪乃フルエレ女王は偶然にも、愛する為嘉(なか)アルベルトの命を奪った宿敵、スピネルの恋人の娘の命を救っていたのだった。

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