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分かりました気の済むまで破壊しましょう

「フルエレ?」


 砂緒はY子のコスプレをしている事とは別に、普段のフルエレのイメージとはあまりにかけ離れた姿に恐々声を掛けた。


「砂おー?」


 恐ろしい形相だったフルエレが、失意の呆然とした顔になり砂緒を見た。


「どうしました、そんなに泣きじゃくって」


 砂緒は思わずフルエレの頭を抱いて髪を撫ぜた。


「うっうっうーー。アルベルトがアルベルトが死んでしまった、死んでしまったのーどうしよう、どうしよう砂緒ー」

「え?」


 フルエレの言葉を聞いて、思わず抱き締めた彼女を離して顔を見た。


「どういう事ですか?」

「それがっそれがっ」

「新ニナルティナがグレーなヤツに急襲されて、アルベルトさんが出撃して……戦死されたそうだ。さっき猫呼先輩から連絡があってな」


 砂緒とフルエレが妙な事にならないか心配になったセレネがシャッターを開けて降りて来た。ちなみに東側本隊より残存機数十機と多いSRV隊には既に西側城壁の破壊を命令してある。


「それでグレーなヤツはどうなったんですか? 首都は猫呼は?」


 砂緒はフルエレの肩に両手を置いたままセレネに聞いた。彼はまだ七華までもが居る事は知らない……


「首都も猫呼先輩も無事だ。ラ・マッロカンプの王子と瑠璃ィが撃退したらしい」

「あの瑠璃ィが? 訳が分かりません……」

「そんな事より、砂緒、なんとか今からアルベルトさんを生き返らせる事は出来ないの!?」


 突然雪乃フルエレが立ち上がって、がばっと砂緒に覆い被さる勢いで両肩を掴んで言い出した。だがその目は少しだけ狂気を孕んでいた。


「い、いえそれは……」

「フルエレさん無茶を言うな、もう……アルベルトさんは埋葬したそうじゃないか」


 損傷の激しいアルベルトの遺体を雪乃フルエレに見せる訳には行かない、そう判断した有未レナード公と偽女王猫呼クラウディアは兵士達に命令し、王族貴族達の墓場に運んで即日埋葬していた。


「ほら、掘り返してすぐに砂緒と私とセレネで回復を掛けたら、なんとか……ならないかしら? 今から帰ろう、ね、三人で帰ろう……」


 今までに無いフルエレの態度に砂緒もセレネも一瞬恐怖を感じた。

 

「いえ、フルエレ……あの時のセレネは内臓損傷や複雑骨折と外傷性ショック等危険な状態ではありましたが、完全に生命を失っていた訳ではありません……まだ回復する余地は十分にありました。けど今の話を聞いた限りではアルベルトはもはや回復を何回掛けても……」


 砂緒の話の最中にフルエレは砂緒を掴んだまま顔を俯けてうなだれていた。


「……どうして? セレネは生き返ったじゃない? どうしてそんな意地悪言うの? 私がアルベルトさんの事ばかりで怒っているの? ごめんなさい謝るから、お願い生き返らせて、お願いっ!」


 俯かせた顔を再び上げると、フルエレは止まっていた涙が再び滝の様に流れたぐしゃぐしゃの表情で砂緒に迫った。


「……フルエレの事を守ると言ったはずなのに、願いを叶えられなくて申し訳無い……けど私にはどうしようも無いです」


 気の利いた事が言えない砂緒はそれでも思い切り言葉を選んで結論を言った。


「いや……いやよ……そんなの嫌っ」


 再びフルエレは泣き声で首を振った。


「フルエレさん、砂緒をもうそれくらいで許してやれ……砂緒と会えばなんとかなるかと思ったが、堂々巡りだな……やはり少し休もう。フルエレさんに城攻めは無理だ」


 セレネがフルエレの肩に手を置いた。無言でまた俯いていたフルエレはしばらくして顔を上げた。


「嫌よ、行くわ!! メドース・リガリァが許せない……あんな優しかったアルベルトさんを殺したこの国が許せない!」


 すると今度は砂緒が涙を流しながら激しい怒りの表情のフルエレの手を取った。


「そうしましょう! 思い切りメドース・リガリァの街も城もぶっ壊しましょう! 私がお手伝いしますよ。もともとメド国は中部小国群を併合する時に虐殺を行った国、それくらいの懲罰はあって当然です。それでフルエレの気が済むのなら安い物です」

「砂緒……?」

「お、おい砂緒本気か?」


 普通こういう場合、報復や破壊からは何も生まれ無いなどと誰かが言う物だが、本来その役割を担っている平和主義者の雪乃フルエレ女王自身がこの状態なので、誰も止める者が居なかった。むしろ普段攻撃的なセレネがあたふたする始末になった。


「ただし、雪乃フルエレ女王の評判が落ちてしまう事は私は我慢出来ません。よって三十分の脱出の余地を西側城壁の住民達にも与えましょう。それで思う存分ぶち壊せば良いのです」


 最初リュフミュランが攻撃された時、機械的に敵兵を皆殺しにしようと言っていた砂緒だが確実に人間的に成長していた。


「……一時間、いえ二時間与えましょう……それだけあればメド国の大きさなら逃げる気があれば逃げられます」

「フルエレさん!」


 セレネはやはりフルエレは砂緒と再会した事で少し正常さが戻ったと感じ、ホッとした。


「ただし、二時間後には容赦無く東西魔ローダー部隊全機、魔戦車、地上兵全軍を投入してメド国城内を蹂躙します、いいですね?」

「お、おう」


 やっぱりちょっと怖いと思った。


『兎幸、聞こえますか?』

『うん聞こえるよ』

『二時間後に全軍を投入してメド国を滅ぼす事に決まりました』

『えーマジ??』

『マジマジ。つきましては東側城壁に展開している魔呂達を城壁をぐるっと取り囲む様に移動させて、退去を促す放送を繰り返して下さい。あ、グレーなヤツはもう大丈夫なくらいボロボロだそうです。ま、一応警戒はしておいて下さい』

『う、う~ん。おっけー』


 いつものあいあいという軽快な返事は無かった。


『あ、あと蛇輪が本城まで進む経路に赤ちゃんと幼児と寝たきり老人が居ないかだけ魔ローンの各種センサーでサーチしておいて下さい。もし居たら地上兵に強制避難させますから』

『は~い』


 砂緒は魔法秘匿通信を切った。


「ま、そんな所でしょう。フルエレ、Y子殿の行方を知りませんか?」

「……お前それ本気か?」

「へ、何がですか?」

「いや、いい」

「じゃ、私は市街の様子でも見てき」


 砂緒が飛び出ようとするとフルエレが袖を掴んだ。


「お、お願い、二時間も一人でじっとしてるの辛いの。砂緒もセレネも一緒に居て、お願い」


 フルエレは極限的に不安感のある表情で砂緒とセレネに哀願した。


「は、はい……」

「心配するなフルエレさん、あたしと砂緒とフルエレさんの三人は特別な友達だぞ。楽しい時もつらい時もいつも三人一緒だからな!」

「セレネ……ううっ」


 フルエレはセレネと砂緒の二人に同時に抱き着いてまた泣き出した。

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