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砂緒とフルエレの再会

 ―メドース・リガリァ本城。


「貴嶋様大変です! 独立、中立を宣言していたマヌッソヌ市が今度は宣戦布告をして来ました! 同盟軍と行動を共にして侵攻してくるそうです!!」


 作戦室で今後の対策を考えていた貴嶋の元に家臣が急いで走って来た。


「な・に? 斬れ! 今すぐその軍使の首を斬れ!!」

「それが……今回は軍使では無く矢文で伝えて参りましたっ!」

「矢文となっ!? では前回斬った軍使の首をカヌッソヌの方向に投げ捨てよっ!」

「は? はあ……」


 家臣は首を傾げて歩いて行ったが、貴嶋の命令は無視した。


「貴嶋様大変です!」

「今度は何だ? もはや大抵の事では驚かんぞ」


 再び走って来た別の家臣に振り向きもせず言った。


「それが、ココナツヒメさま、サッワ殿両名の姿が忽然と消え、同時に破壊されたままのル・ワンとレヴェル一号機の姿もありません、恐らく御両名が勝手に持ち出した物だと……」

「な・に? 何か作戦の伝達はあったのか?」


 驚かないと言っていた貴嶋が先程の倍は驚いて振り返った。


「いえ、何の連絡も無く数時間以上経ちましたが消えたままとなっております……」

「これまでにこの様な事は?」

「ココナツヒメ様はまおう軍からの客分、いつもご勝手に出入りされておりましたが、サッワ殿に関してはいつぞや追放騒ぎがあった時を除いて、キッチリ毎回点呼を受けております」

「……なんと見る?」


 貴嶋はもはや分かり切っている事を聞いてみた。


「はい、ココナツヒメ様はまおう軍の地に広大な自国領をお持ちの方、よもや我がメドース・リガリァの為に命を懸けて最後まで戦う道理はありませぬ。おそらくご出奔され、同時にサッワ殿を登用された物と……」


 貴嶋は目を閉じてしばし黙り込んだ。彼はココナツヒメとサッワ、この三人と友情と言っていいか分からないが、奇妙な通じ合う物が芽生えて来たと思っていた矢先だった。


(そんな訳もあるまいな)


 一人目をつぶって笑顔で首を振った。しかし実際にはココナツヒメもサッワもとことんまでこの戦いに付き合う覚悟であり、貴嶋の感覚は間違いでは無かった。サッワがカヌッソヌの超大型魔法瓶の事を伝えたのも別に裏切るつもりは無く、それだけ伝えればなんとか脱出して帰国する事を望んでいた。しかしカレンにココナツヒメが撃たれ、瀕死の彼女を見て気が動転した彼は挨拶する事無く、彼女の命を救う為に結局不本意ながら無言で出奔する形となってしまった。


「で、あろうな……この事はなるべく伝わらぬ様に致せ。またスピネルから何か連絡はあるか?」

「いえ……」

「そうであるか……行って良い」

「ハッ」


 家臣は敬礼して消えたが、作戦室に居た他の家臣達には何とも言えない雰囲気が漂う。


「貴嶋さま、先程からお伝えしております通り東側城壁から魔ローダー八機が来襲し城壁を破壊、さらに城壁内に全軍侵攻すると警告を発し続け、城壁都市内は大混乱となっております!」

「最後の守りの要である二機の魔ローダーが消えた。まあ一機は片手、もう一機は片手足頭が無かった状態であるが……よってもはや城壁都市内の守りは放棄し、本城で籠城し、スピネルの、女王陛下の……吉報を、良い報告を待とう」

「………………はっ」


 もはや威勢よく返事する者は一人も居なかった。しかし此処に居残っている者達はまだ忠義のある者達で、逃げ出す者多数という状態になっていた……



「砂緒ーだんだん飽きて来たー何か他の事がしたーい! ふわー」


 同じアナウンスを続けていた兎幸が両手を伸ばしてあくびをした。


「何をじっと見てるんですか?」

「いえ、兎幸もやっぱり可愛いなと」

「見境無しですか」


 メランが呆れた顔をした。


「ピコーーン! 来た~~!!」

「何が来たんですか?」

「西側城壁に蛇輪とSRV十機到達!!」

「結構時間掛かりましたね~~~ていうか何で返事なかったんでしょう」

「単純に嫌われてるだけじゃないですか?」

「いやいやそれは絶対にあり得ません。セレネは私にベタ惚れ、Y子殿は私に好感持ってますし」

「本気で言ってます?」


 他愛の無い会話をしている横で、兎幸の顔色が曇る。


「あれ~~~? へんだな~~」

「どうしました?」

「うん、蛇輪が城壁を壊して単機で市街に歩いて入ろうとしている……」

「セレネには困りましたね、Y子殿がブチギレますよ、メラン再度魔法秘匿通信を」

「はい」


 メランが再び魔法秘匿通信を再開すると、今度はすぐに蛇輪に繋がった。


『おっ良い所に砂緒じゃないかっフルエレ待てっ、ちょ動くなって言っているだろうがっ!』

『フルエレ? 何で蛇輪にフルエレが居るのですか? 彼女は首都にいますよね』

『だから止まれって!! 怒るぞ……よし、砂緒こっちはちょっと大変なんだ、なんとかこっちに飛んでこれんか?』

『あの、さっきから何度も通信を試みてて無視されてたのに、いくら心が広い私でもカチンと来ますよ』

『あースマンスマン、こっちが本当に困った事になっててだな、ていうか、ぐすっもうあたしが泣きたいわっ良いから砂緒来て、お願いだよ』


 最初普通に話していたセレネが途中から泣き声になって来て、さすがに砂緒もこれは緊急事態だなと思った。


『分かりました、魔ローンの盾に乗せてもらってすぐに行きますから』

『頼む、お願いだよ』

「エー」

「今度は私達をほったらかしてあっちに行くんです?」


 兎幸とメランが同時に膨れっ面になった。


「私の事にベタ惚れのメランを置いて行くのは非常に辛いですが……」

「いえいえそこまでベタ惚れでも無いですよ?」


 メランは目を閉じて掌を突き出した。


「はい、じゃあ兎幸お願いしま~す。後はイェラと衣図ライグ達と相談して、任せますよ」

「あいあい」

「あっやっぱり気を付けて下さい」


 そっけない態度だったメランが一転心配そうな顔をした。


「お別れのキスします?」

「あ、それは良いですから」


 バシャッ

 メランの言葉を聞くと、砂緒は笑顔で飛び降り、兎幸が慌てて魔ローンの盾ですくう。


「早いって! 合図とかして?」

「おわっ揺れるっ」


 そう言いながら、兎幸はビューンと魔ローンの盾に乗せた砂緒を一気に西側城壁の蛇輪の真上まで運んだ。


「とりゃっ!」

『うわっ突然来るなよ、落とすだろうがっ』


 飛び降りた砂緒をセレネが蛇輪の掌ですくう。蛇輪は城壁を壊すと、そのまま市街に歩み始めて止まっていた。


「フルエレの居る方にっ!」

『はーいよ』


 バシャッ

 下の操縦席のハッチがセレネのリモートで開き、そこに砂緒はぽいっと投げ入れられた。


「フルエレ?」

「………………あの人を奪った……壊すっメドース・リガリァを破壊する、はぁはぁ……」


 砂緒が下の操縦席に入ると、大粒の涙を流し歯を食いしばり普段の美しい彼女からは見たことも無い様な鬼気迫る険しい表情でぶつぶつと呟くY子の格好をしたフルエレが座っていた。砂緒は本気でY子の正体がフルエレだと分かっていなかったので色々と混乱した。

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