悲しい知らせ 下 フルエレ慟哭……
「いやあ、よー状況が分かってないんやー」
(ボクがリーダーだぞっ! しかし何だこの可愛いネコミミさんは)
ほぼ初対面だが、いつものはっちゃけた猫呼と違い、やつれて心ここにあらずという猫呼は、儚げな感じがドキッとする清楚な女王に見えて、これまであまり感じた事の無い自分の気持ちに戸惑うウェカ王子だった。
「オ・ウ・ジ、ボクがウェカ王子さまだよー? そっちは従者……」
ウェカ王子は必死に自分に指を指した。
「あぁ、これはっとんだご無礼を……貴方が有名なウェカ王子殿下なのですね」
「え、ボク有名なの!?」
「アホな王子として有名って意味ですよ!」
メアが小声で耳打ちして、王子にキッと睨まれる。
「王子も従者の方も大変お強いのですね、敵魔ローダーを一瞬で一刀両断されたとか」
「いやぁそれ程でも~」
ウェカ王子は某園児と同じ反応をして後頭部を掻きながら赤面した。
「では、申し訳御座いませんが、私は諸事がありまして、此処で……お礼の式典は必ず後日行います、今夜はお城の壊れて無い箇所でごゆっくりと、あっ……」
頭を下げようとして、アルベルトの死や兄との敵対など色々と心労があったのか、猫呼が一瞬めまいがしてウェカ王子にもたれ掛かった。
「大丈夫ですか女王陛下!?」
「いっいえ、はしたないです」
一瞬ウェカ王子と猫呼は抱き合う形になり、見つめ合って赤面した。
(いかん、ウェカ王子も特にブサイクじゃ無いし、表面的には姫の危機に駆け付けた王子さまみたいになっとる!?)
「女王さま、騙されないで下さいなウェカ王子は普段は凄いバ……」
「黙れ?」
バカと言おうとしたメアを振り返りえらい剣幕で睨む王子だった……
「女王陛下、御会談の所申し訳ありません、やはり応急修理した魔戦車の魔法通信機では通信が回復出来ません! どうも未発見の魔法ジャミング機器がまだある様で出力が足りないのです……」
ニィルが慌てて走って来て、猫呼とウェカ王子の間に割って入って話し始めた。
「これ今王子にお礼をしていた所ですよっ」
「はい……? これはっ申し訳ありません」
ニィルは普段我々の世界で言えば江戸っ子の様な猫呼の清楚で気品のある態度に戸惑った。
(ナイスよ兵隊さん)
逆にメアは喜んだ。
「あの~~魔法通信がしたいんやったらええもんがあるで」
ずっとにこにこと笑顔でウェカ王子と猫呼のやり取りを見ていた瑠璃ィが突然言って、ニィルが頭を下げて聞き返した。
「お初に御目に掛かる。え、それは一体何でしょうか?」
「ウチが乗って来た司会っ子のSRV2ルネッサは指揮官機やさかい、魔法通信機能が強化されてるんちゃうかなあ、多少のヤワい魔法ジャミング環境下でも魔法秘匿通信が出来ると思うわ」
「おおっそれは良い、では早速猫呼さま、あっいや女王陛下! 行ってみましょう」
ニィルは猫呼を見たが、猫呼は言い間違われた事など全く気に掛からない程に、それ以上に頭にズンとのしかかる重すぎる役割に気が滅入り表情が暗くなっていた。
(あれ……何だろうこの気持ち……猫耳さん元気出して……)
「女王陛下、何かお手伝い出来る事はありませんか?」
ウェカ王子が気に掛けて聞いたが、猫呼はすぐに作り笑いで心配をかけまいとした。
「いえ、大丈です、お心遣いありがとう。では早速……魔法秘匿通信を……」
しかしやはりすぐに気が重くなった。
―カヌッソヌ市城壁外、東側。セレネの宣言通り、超大型魔法瓶事件解決の後、すぐさま兵員達に休息を終了させて進軍する事とした。
「何か文句があるのかなY子殿、カレンはジェンナという女魔法剣士に預けた。彼女も従軍するらしいではないか、一緒に行動している事には変わらないぞ」
セレネは魔ローダー蛇輪の上の操縦席から魔法モニター越しに言った。
「……いくら私でもあの状況でカレンを再び乗せて行くとは言わないわよ。ただ半透明が来てたのに、取り逃がしたのが悔しくて」
「瀕死らしかったぞ? 死ぬんじゃないか?」
「………………」
Y子は瀕死という言葉を聞いて、ふと何度も魔戦車を破壊されながらも死線を無事潜り抜けたアルベルトの事を久しぶりに思い出した。フルエレは若い可愛い女職員と親し気に談笑するアルベルトを見て憤慨し、自分の事をもっと大事にする様にと、罰だっという思いで新ニナルティナから飛び出たのだった。しかしある程度期間が経って、フルエレ自身が少し寂しい気持ちが湧き始めて来ていた。
(そろそろ帰ってみるかな……なんて顔するかしら? どこに行ってたんだって泣きつくかなエヘヘ)
トゥルルルットゥルルルッ
その時突然魔法秘匿通信のベルが鳴った。
「識別SRV2? 新ニナルティナ方面からだ、Y子殿へじゃないか?」
「へ? そうかな」
ピッ
Y子こと雪乃フルエレ女王は魔法秘匿通信を繋げた。
「はいは~い」
「フルエレ……」
「あら猫呼じゃない久しぶりねっ!」
「………………」
フルエレはすぐに猫呼が大変暗い顔をしている事に気付いた。
「その兜を取ってくれる? それと今ちゃんと座ってる? 他に聞いている人は?」
猫呼が能天気なフルエレの態度に多少怒った様な声で次々不思議な注文をした。
「一人だよ、それに……操縦席に座ってる。兜も脱いだわ。嫌だわ変よ猫呼」
フルエレは兜を脱ぎ去り美しい顔を出した。
「……あのね……本当にさっきまで宮殿に敵が襲撃して来てて」
今度は突然猫呼が涙を滲ませながら話し始めてドキッとした。
「襲撃って、襲撃ってどういう事!? 皆は無事なのよね??」
「……仮宮殿が魔ローダーに破壊されて、沢山人が亡くなったの……でも」
フルエレの血の気が引いた。
「宮殿が破壊された?」
「でも七華もニィルもレナードさんもシャルもフゥーも無事よ……でも」
フルエレにとって一番大事な人の名前が出て来ない。まだ猫呼はイライザの無事とピルラの死亡を知らない。
「うそ……アルベルトさんは……まさか大怪我??」
「……あ、あのね、落ち着いて聞いてね……」
言っている途中で猫呼の目から涙がぽたっと落ちた。
「……やだ……え、嫌よ……」
「アルベルトさんね、宮殿を守る為に……魔戦車に乗って出撃して」
「いやっ……」
フルエレの身体にガタガタと震えが始まっていた。
「……五両の魔戦車全てが敵魔ローダーに破壊されて……ううっ」
「いやっやめてっ」
フルエレは頭を振りながら震える手で口を押さえた。心臓がバクバクと激しく動悸する。
「聞いてあげて……アルベルトさん、女王の、貴方の新ニナルティナを敵から守る為に、壮絶な戦死を」
「………………」
頭が真っ白になり言葉が出なくなった。
「聞いてるの?」
「嘘よね……本当は生きてるのよね? 今から帰るから、戻ったら元気でいるのよね??」
フルエレもずっと涙を流しながら言った。
「隊員の証言と、ご、ご遺体の一部と衣服からアルベルトさんと判別したわ。もう埋葬もしたの」
「い、一部……嘘よっ! うそよーーーーーー!! いやあああああああああああああああ」
もはや即日埋葬とまで聞いて、その後のフルエレは半狂乱で号泣し続け会話にならなかった。




