牢にぶち込まれている間にS級冒険者の客が来てしまう…b
多くの初心者冒険者達が遠巻きに二人を見つめながら、噂話を続けている。
「ふう、こうも注目されるとはね。ここはどうも調べ物はやり辛いようだね! 冒険者登録名簿にもそれらしい女性は居なかったし。ここに君が大好きな優しいお姉さんは居なさそうだ」
革張りのボックスシートに深く座ってくつろぐ紅蓮アルフォード。傍らには巨大な剣が立て掛けてある。
「ごめんなさい、こんな所でお姉さまが冒険者登録なんてしてる訳無いのに」
「東の海から渡って来てセブンリーフに上陸して以来、いろいろな場所をバラバラに巡ったけど、セブンリーフ大陸の北東部にあるこの国のここは地理的にも内容的にも本当に旅の序盤の村! って感じだね。今頃来る所じゃ無かった」
「うん、もう村を出た方が良さそうだよね」
美柑が寂しげに応える。
「ウ、ウェルカムドリンクを飲め」
「うわ、凄い恰好」
「な、なんだお前はじろじろ見るな」
ミニスカの前後を押さえながらイェラが立ち去る。
「まあっ。ちょっと見過ぎですよ! めっ」
美柑が指を立てて注意をする。テーブルの上を真っ白い使い魔が走り回っている。二人は明らかにここにいる他の人々とは違う世界の住人だった。
(わたしのお姉さま……一体どこに行ってしまわれたの……)
リュフミュラン王都の牢獄ではフルエレがさらに消耗していた。
「も、もう砂緒無理です……お金が尽きかけです。もう唯一の楽しみの贅沢すら出来ないのよ」
シクシク泣き始める雪乃フルエレ。
「困りましたね、私がわざわざレシピを伝えて作らせたカツ丼を、また発注してもらうつもりでしたが」
「お金……送ってもらいましょ、私達の事忘れてなければ」
フルエレは涙を流しながら冷たい牢獄の石積みの壁に頬を寄せた。