か、ギラギラする日。Ⅱ下 スワン
「サッワくんを連れて行った魔女?」
「ル・ワン! 何故!? コ、ココナツヒメさま??」
サッワは顔面蒼白になって、背中を撃たれ血がどくどくと流れているココナツヒメを抱き抱えた。
「よ、良かった間に合ったのね」
「どうして!?」
「じょ、城壁の外から見えたから……」
「そうじゃ無くて、ココナさまなら魔法の氷でカレンを撃ったり盾を作ったり……」
「うふふ、もう魔力が無かったの、連戦で疲れてて、瞬間移動で尽きちゃった」
「そんな!? 回復魔法は??」
「そんな物使う魔力はもう無いわ……お逃げなさい」
サッワは頭が真っ白になりながらも必死に考えた。視線の先にジェンナが見えた。
「そうだっジェンナは魔法剣士だから回復魔法が使えるよねっお願いだ、ココナ様を助けてあげてっ!」
サッワは涙を流しながら訴えた。しかしジェンナは首を横に振った。
「な、何を言っているの? その魔女は私をさらった女! そんな女死んでしまえばいいのよ!!」
ジェンナはココナツヒメの顔を見て全てを思い出し、嫌悪の顔で後ずさって行く。
「ココナさま死なないで、お願いだよ……どうしたら、誰か回復魔法をお願いします! 誰かっ!!」
泣き叫ぶサッワを見て、カレンは無言で首を振った。自分はあの年上の氷の魔女に負けている事を悟って言葉が出なかった。
「全員動くなっ!! 少女も短魔銃を捨てろっ!!」
騒動を通報され、ようやく警備兵達が走って来て居並ぶと魔銃を構えた。
カシャッカチャッ
カレンは弾倉を捨ててから短魔銃をそっと置いた。
「ココナツヒメさま、見えていますか、敵兵に囲まれました。もうすぐ撃たれそうです」
「はぁはぁ……そうね、凄くかっこ良い終わり方だわ。ごめんねサッワちゃん巻き込んでしまって」
「いいえ、好きな女と一緒に死ねるのなら、それで良いです、一緒に死にましょう。ごめんなさい僕を保護する為に……」
「違う……馬鹿ね、保護者じゃない、好きな男だから庇ったの」
サッワは自分より大きなココナツヒメの肩をぎゅっと抱いた。
「撃てっ!!」
パンパンパン!!
警備兵は躊躇無く魔銃を連発した。
「何いいい!?」
「え?」
撃たれたはずなのに生きている事に疑問を感じて目を開けると、サッワの前に見覚えのある半透明の壁があった。そして思わず振り返った。
「まさかっル・ワンが魔力も無いのに勝手に動いた!? ル・ワンがココナさまを守った? ああっ」
ボロボロのル・ワンの掌はギチギチと異音を発しながら、そのまま二人をそっと操縦席に戻した。サッワは泣きながらも本能的に斜めになっている操縦席に座った。ココナツヒメはぜえぜえ言いながら虫の息になり、相変わらず胸と背中からドクドクと大量の血を流していた。
「ル・ワンだっ撃て!! いや魔ァールPGーセブンだっ!」
警備兵達が慌てまくるが、ボロボロの掌をハッチ代わりとして、ル・ワンは二人をきっちりと守った。
「ココナツヒメさま見て下さい、ル・ワンが貴方を守っていますよ! ほらっ」
涙でぐしゃぐしゃになりながら、サッワはココナツヒメの肩を揺すった。
「魔王さま……」
「え?」
もはや話す事は無いと思ったココナツヒメが微かに喋り始めた。
「魔王抱悶さまの……最強の……魔ローダー」
「え、どうしたんですかっ?」
サッワは血の気が引きカサカサになり掛けの唇のココナツヒメの口元に顔を近付けた。
「さ、最強の魔ローダー、ル・スリー白鳥號の」
「ル・スリー、スワン……!!」
「魔ローダー……スキル、回復(超)なら……治っちゃうかも、ね」
「ああっ分かりましたっ! ココナ、絶対に貴方を死なせません!!」
「うふふ、頼もしい……わね」
サッワは涙を拭くとル・ワンの操縦桿を握った。しかしココナツヒメはそれ以降言葉を発しなくなって、にこやかな顔をして眠る様に動かない。拭いた直後から再び涙が溢れたが、サッワは片手でココナツヒメの手を握りながら、操縦桿を握り直した。
「ココナさま、ココナさま?? しっかりして下さい眠らないでっ瞬間移動(長)!!!」
シュンッ!!
そして警備兵達の前から忽然とボロボロの魔ローダール・ワンは寝転んだまま瞬間移動で消えた。
「消えやがったクソッ!!」
「サッワ……くん……またあの女と……」
カレンはその場にペタンと座り込むと、再び泣き始めた。
「何があった!?」
「どうしたのカレンちゃん??」
騒ぎを知りようやくセレネと再び兜を被ったY子がやって来たが、カレンは泣き続けて会話にならなかった。こうして北部海峡列国同盟締結前後から暴れ続けたココナツヒメとサッワのコンビは、この日を境にメドース・リガリァ攻防戦から完全に離脱する事となった。そしてメド国に残された魔ローダーは必死にエリゼ女王を乗せてバックマウンテンを越えて戻る、ボロボロのスピネルのデスペラード改Ⅲ一機となってしまった。




