か、ギラギラする日。Ⅱ上 ココナツヒメさま……
カレンはひたすらサッワが拘留されている拘置所に走った。
「地下聖堂で超大型魔法瓶が炸裂寸前で止められたと非常招集らしいです!」
「本当かい?」
「はい牢番だろうが何だろうが人手が必要らしいですよっ!」
「本当かなあ?」
牢番達は単なる少女に見えるカレンに疑いの目を向けた。
「わ、私は同盟軍司令官のセレネ様とY子様の腹心ですよ! 私の命令は御二人の命令ですからね。後でどうなっても知りませんよ? それにこれが証拠の牢の鍵です。私、それくらい信用されてますから」
カレンは必死に余裕の顔を作って高圧的に言ってみた。
「確かにお二人が牢を見分していた時に、この子も後ろには居たな」
「本当か?」
「本当です、さっ早く!!」
「では行こうか……」
数人の牢番達は少し疑問を感じながらもカレンに急かされて出て行った。
カツーンカツーンカツーン
石の廊下を歩き、既に空きっぱなしの鉄の扉を潜りサッワの牢の前に来た。
「カレンか、やっぱり来たんだね」
サッワはカレンが声を掛ける前に立って鉄格子の前に来た。
「気付いていたの?」
「うん、兜を被った女司令官の後ろにいたね」
しばし沈黙が続いたが、カレンに時間は無かった。
「爆発は解除されたよ。その兜の人が魔力を全部吸った」
「まさかっ三十年分の魔力が貯まった魔法瓶なのに……」
サッワは頭を振った。
「出してあげる……ただしサッワくんにはもう……死んでもらうの」
そう言ってカレンは短魔銃を取り出した。
「そうなんだ」
「此処で同盟軍に拷問されて処刑されるか、私と出て私に撃たれるか、どっちが良い?」
カレンは結論を急いだ。
「……そうだな、カレンに撃たれる方が良いかな」
サッワは誰もいないか左右を見た。
「誰も居ないわよ。全員嘘を付いて出したから」
「うん、そう、じゃあ出してよ」
「……最初、サッワくんに嘘を付いて、善性が残ってるか試そうとか色々考えたの。もし正直者なら逃がしてあげて、嘘を付いていたら警備兵に撃たせるみたいな……何か仕掛けを」
「ほう?」
「けどもういいの。最初から撃つ事にするわ、それでも良い? 魔砲ライフルで沢山の人を殺してしまったんでしょう」
「言い訳はしないよ、その通りさ戦争だからね」
ガチャッ
遂にカレンは短魔銃を構えたまま鉄格子を開けた。
「ゆっくりと歩いて、市外に出てから撃ってあげる」
「うん、それがいいね、両手を上げる?」
「いいえ、変に思われるから普通でいいわ」
二人は慎重に周囲を見ながら牢を脱出する事に成功した。
「このまま外に出て撃つの?」
「うん、そうじゃないとまた罪を重ねるから。トリッシュ城内に魔砲を撃ったでしょう? あの時偶然その場所に居たの。変な人が跳ね返したけど……」
「そ、そうなんだ……じゃあ恨まれても仕方ないね」
「恨んでなんかない! 敵をまとめて葬る為だもの、仕方ないわ……戦争だもの。ラン隊長も仲間も全員その跳ね返した人と同じ同盟軍に殺された、しかも私今その司令官に仕えてる、もう私どうしたら良いか訳が分かんないよ」
「………………」
サッワは何も言えなかった。二人は東側の城門前の広場まで来た。出口はもうすぐそこだった。
「あれっ坊や? どうして此処にいるの?? 何で手枷が付いてるの?? この子は友達?」
「え?」
カレンは戸惑った。無事カヌッソヌ市に入っていたジェンナだった……
「ごめんっ!!」
カシャンッ!!
サッワは足枷が付けられて居なかった為、カレンの短魔銃を蹴り落とすと走り出した。
「待ちなさい!!」
パンッ!!
カレンはすぐに短魔銃を拾うと走るサッワの足元を撃った。跳ね上がる土。
「僕は行かなきゃならない、スピネルさんが、ココナツヒメさまが待ってる」
「……サッワくんが何もせずに出口まで来てくれたら、一緒に逃げようと思っていたのにっ! あともう少しだったのにっ!! 魔法瓶を止めたのに戻れるの??」
カレンは涙を滲ませて両手で短魔銃を構えた。
「ハハッ実は結構緩くていいヤツらなんだ。戻らなきゃ仲間の元にっ」
サッワはじりじりと後ろ歩きで遠ざかろうとする。
「どうしてそんな緩い優しい人達が魔法瓶を街に設置するの? 街を砲撃しちゃうの?」
「どうしてだろうね、不思議だよね、皆一人一人は良い人なのにね。敵対してるから? 分からないね」
「それ以上下がらないで、本当に心臓を撃つわ!」
「ねえ、君達どういう状況なの!?」
ジェンナが少し離れて聞いた。周囲の街の人達も只ならぬ状況に息を飲んだ。警備兵を呼びに行った者も居た。
「撃って、最初からそういう約束だったしね!」
「撃てないと思っているでしょっ!!」
カレンがそう言ってもサッワはじりじりと下がり続けた。
パンパンッッ!!
目に涙を貯めたカレンは正確にサッワの心臓目掛け、ダブルタップで二発撃ちこんだ。
ズドシャッ
「え?」
サッワの目の前に何故か背中を二発撃たれたココナツヒメが地面に崩れ落ちた。
「何……これ?」
カレンがサッワの背中越しで視線を送ったので、サッワも思わず後ろを一瞬見た。先程まで何も無かったはずなのに、背中のすぐ後ろに寝転んだまま瞬間移動して来た、ハッチが無くなり操縦席がぽっかりと開いたル・ワンの胸があった。ココナツヒメはそこから落下して来て、サッワの盾になったのだった。




