魔力の容れ物 上
「こちらで御座います、どうぞ」
カヌッソヌ市軍が警備する留置場に、Y子こと雪乃フルエレ女王とセレネはすぐさま案内された。当然後ろからY子の召使いであるカレンがY子の背中に隠れ気味に付いて来ていた。
ガラガラガラ
鉄の扉を開けて拘留されているサッワに対面した。サッワは首にフゥーが装着しているのと同じ魔法封じの首輪を装着され、両手に手枷を掛けられていた。しかしサッワは特に体術が優れている訳でも無く、魔法も使えない。過剰な対応だった。
「顔を上げろ、お前が噂のサッワ少年か。一体どういう風の吹き回しでいきなり投降して来たのだ?」
セレネが鉄格子越しに佇む少年に高圧的に声を掛けた。しかしY子は顔を見てハッとした。
「貴方が本当に超長距離爆撃のスナイパーなの? ちょっと信じられないわ……」
Y子はかつてセレネを魔戦車で砲撃し、旧ニナルティナハルカ城で牢屋に入れられていた少年が、超長距離爆撃の狙撃手だと聞かされ信じられない思いであった。しかもそれはミミィ王女の仇をも意味していた。ただしセレネ自身はサッワが彼女を砲撃して殺し掛けた事については良く分かっていない様子だ。
(どうしよう、セレネが気付いていないなら黙っておこうかしら……)
「あ、アンタは?? いや……そんな事よりどうしても聞いて欲しい事があるんだっ!」
サッワは突然立ち上がると、鉄格子に掴みかかってセレネに必死の思いで訴え始めた。
「いい加減にしろ! お前の様な犯罪者は有無を言わさず殺しても良いのだ。今更何を訴えるつもりだ??」
「ちょっと、セレネこそいい加減になさい。相手は拘束されているのに、必死に訴えようとしているわ、話だけでも聞きなさいよ」
(サッワくん……あの目はラン隊長や私達といた時と同じ、真剣な目だわ……)
Y子も以前チラッと尋問風景で見た凶悪な少年とは違う風情を感じていた。
「では何だ? 手短に言ってみろ!」
セレネは腕を組み、脚を鉄格子に掛けて言った。
「このカヌッソヌ市の中央にある地下空間に超強力な大型魔法瓶が仕掛けられている。威力はこの市ごと吹っ飛ぶ規模の物だっ恐らく夜みんなが寝静まった時に炸裂する仕掛けなんだ! 早く魔法瓶を移動させるか、市民を全員避難させるか、どっちか急いでくれ!!」
「何ですと!?」
カヌッソヌ市長は度肝を抜かれる程驚いた。
「ハハハハハハ、上手く出来た嘘だな! そんな手に引っ掛かるかっしかも万が一本当だとして我が軍は夕方までにこの市を出る、だから我々には関係が無い!!」
セレネは腕を組みながら高笑いした。
「そこの仮面の女、あんたは少し優しそうだ、だから聞いてくれ、僕は処刑されようが構わない、だから早く市民の皆に知らせてくれっ!」
「ほ、本当なのか? 市長殿、カヌッソヌ市中央に地下空間があるのだろうか?」
Y子は戸惑いながら聞いた。
「はい! 市の中央部に祭壇の為の地下空間がありますし、祭りの時以外は人が出入りしないので、変化に気付かないかもしれません!」
「市長、そんな事はどうでも良い、この者の処刑をしたいので、この牢の鍵を渡してくれ!」
セレネは話を断ち切って市長に鍵を要求した。
「鍵は此処にありますが、まずは爆発物が本当かどうかお調べ頂けませんか??」
「安心しろ、鍵は私が預かろう! セレネ、まずは地下祭壇に向かおう!」
Y子はセレネが軽はずみに処刑しない様に牢の鍵を奪った。それをカレンはじっと見ていた。
「どうぞ、お願い致します!! もし良ければ魔ローダーで撤去を!!」
市長は必死に頭を下げた。
「ふん、少し見るだけだ、どうせ嘘だろうがな」
「急いで行きましょう!!」
Y子の言葉を聞いて、カレンはサッワに顔を見られない様に、先回りして牢を出た。
「……カレンちゃん、息を殺していたけど、あの子がサッワで合っているのね?」
「……はい、サッワでした……彼は嘘は付いていないと思います……急いだほうが」
「ふん」
Y子とセレネ、そしてカレンと市長と衛兵達は急いで地下祭壇に向かった。
コツコツコツ……
一行は入り口の封印を解除して急いで地下祭壇の階段を降りて行った。見事な大理石の柱で支えられた地下空間はぎりぎり魔ローダーがしゃがめば入り込める程の天井の高さがあった。
「な、何だこれは!?」
市長が大声を上げるまでも無く、祭壇の中央部の神像らしき物は根元から破壊され撤去され、代わりに黒い兵器にしか見えない禍々しい魔ローダーの頭部よりデカい塊があった。誰がどの様に見ても大型魔法瓶だった。しゃがんだ姿勢で瞬間移動して現れたココナツヒメのル・ワンが設置した物だった。
ピッピッピッ……
「思い切りあるじゃん。この数字はカウントダウンか? 確かに夜に炸裂する感じだな」
セレネも思わず声を上げた。超巨大魔法瓶の表面には魔法文字が変化して行く。
「どうしよう、蛇輪で穴を開けて撤去させるか、魔導士に解呪させるのか?」
「あの少年は解呪出来ないのでしょうか?」
「サッワく、いえサッワはそういう専門家でも魔導士でも無いから無理だと思います」
カレンが言った事は嘘では無いだろうし、嘘を付く必要性も無いだろうと皆が信じた。
「市長悪いな、もとはと言えばカヌッソヌ市は敵対国、我々が危険を冒してまで救う義理は無い。我々はこれより此処を離れてすぐさまメドース・リガリァを討つ! お前らは何とか市民を夜までに避難させるが良い。仇は取るので許せっ行くぞY子!」
「セレネ?」
セレネは踵を返して地下祭壇から出ようとした。
「そ、そんな殺生なっ! 市が破壊されれば我々は何処に住めば良いのですか? お願いしますっ何とかこれを撤去して下さい!!」
バンッ!!
市長は頭を下げるついでに思い切り祭壇の基部に手を付いた。
ピッピッピーーーー!! ピピピピピ……
その直後、衝撃が悪かったのか、夜までのカウントダウンだった物が、残り十分に急激に減少した。
「馬鹿か貴様!?」
「ヒッこれは一体!?」
「魔法衝撃センサーね!? どうするのセレネ??」
「ちっ、重そうだがY子とカレンを両脇に抱えてダッシュすれば、あたしの脚力なら三分もあれば蛇輪に戻れる。急いで脱出するぞ!!」
セレネはY子とカレンに両手を伸ばした。
「そ、そんなお助けを!!」
市長は膝から崩れ落ち両手を組んで涙目で助けを求めた。




