人質のイェラ
「ゴーレム兵蹂躙しろっ!!」
戦闘を切って突撃して来たゴーレム兵達が、腕を伸ばして同盟兵士達をガンガン無機質に倒して行く。
「くっそ、魔法も効かん!」
「剣なんかまったく効かん!!」
魔導士が魔法を撃とうが剣士達が剣で斬りかかろうがゴーレム兵には全く効果が無かった。
「ぐはっ!」
「ぐえっ!!」
とにかく周囲に居る者全てをなぎ倒してゴーレム兵達が突き進んで行く。そしてゴーレム兵が作った血路をメドース・リガリァの騎馬兵達が突撃して続いて同盟軍を蹴散らして行く。
「引け、引けっ! ゴーレムに相手するな! 魔戦車を前に出せっ!!」
ゴーレム兵には歯が立たないと、同盟軍地上兵の隊列中央部が十戒の様に引き裂かれて行く。そこに魔戦車が応戦に向かった。
ドカンッ!!
が、魔戦車が突出した途端にメド国側の少数の魔戦車に冷静に狙い撃ちされ撃破された。
「何だこれはガタガタではないかっ! 私が突っ込んでやるっ!!」
騎馬上のイェラが激怒して敵陣に単身で突っ込んで行こうとするが、周囲の者達に必死に止められる。
カキーーーン!! ガキーーーン!!
「みんな背中を見せるんじゃないよっ! 背中を合わせて密集隊形で戦うんだ!」
ココナツヒメのル・ワン、サッワとシャクシュカ隊Ⅱの美女達のレヴェルが背中合わせで円陣を組み、十機の同盟軍のSRVと必死に戦う。しかし歴戦のつわものになったサッワとココナツヒメは例え六対十の戦いでも全く不利とはなっていなかった。
「ちょっ砂緒さん、早く加勢しましょう! 砂緒さんが遊撃的に半透明と元大砲を討つんです!」
「あぁ、イェラ何やってんですかっ! そんな突出したら危ないですよ!」
「砂緒さん?」
メランが必死に砂緒に呼び掛けるが、砂緒は巨人阪神戦を熱心に応援する人間の様に、魔法モニターに映るイェラの姿ばかりを追っていた。
「兎幸、イェラに魔ローンの盾を回して下さい! もう空中監視は良いですから早く!」
「えっ? 砂緒人間を守るのに魔ローンを出すのお??」
「いいから、早く言う通りにっ!」
「は~~い?」
砂緒に言われて兎幸は渋々空中監視をしていた二枚の魔ローンの盾を急降下させてイェラの上空に一時待機させると、イェラと数騎の仲間にゴーレム兵の腕が伸びて、あわやっという所でドスンと落とした。
ドシャッ!!
「きゃあっ!? 何だ何だこれは??」
普段なるべく女ぽい声を出さないイェラが、あわやっという所で突然目の前に銀色の壁が発生して騎乗している馬が上半身を上げていななき、思わず叫び声を上げた。
ゴンガン。
魔ローンの向こうでゴーレムの攻撃が虚しく響いた。
「ちっ砂緒かっ余計な事を!!」
イェラは激怒してわざわざ砂緒が立てた魔ローンの盾の間をすり抜けて外に出る。
『あっイェラ何で出るんですか!』
「砂緒、馬鹿かっ私は地上兵の総指揮官だぞ! 周りを見えなくしてどうするかっ!!」
『いいからイェラは大人しくしてて下さい!』
「お前とはホント失敗だったな!」
「ちょっと砂緒さん、失敗って何? 何したんですか!?」
イェラの言葉にメランが砂緒の首根っこを掴んで聞く。
『いや、何でもないですから……』
「とにかく私の事を構うな!!」
「兎幸、やっちゃって下さい!」
しかし砂緒は彼女の言葉を無視して、再び魔ローンの盾で庇う様に兎幸に指示をした。その後もイェラと砂緒は戦闘を忘れて言い合いになった。
カキーーン!! コキーーーン!!
円陣を組んだメド国側魔呂をなかなか攻めあぐねる同盟軍のSRV達。数に差があるのに簡単に決着が付きそうに無い膠着状態が続いた。
『ちっ、面白いわあ! 雑魚魔呂共と丁度力の均衡が出来ちゃってるみたいねえ!』
『ココナツヒメさま、さっきから気になる事がっ!』
剣を交えながらもシャクシュカ隊Ⅱの美女の一人、パララが話し掛けて来た。
『何なの?』
『先程から魔呂隊指揮機と思われるル・ツーが戦闘に参加して来ないばかりか、足元に居る馬に乗った女としきりに相談を繰り返している様なのです! 浮遊盾がある事から恐らく同盟地上兵の総指揮官の王族か重要人物なのではと……』
パララに言われてココナツヒメはすぐに該当部分をズームアップして魔法モニターで見た。
『どらどら……あらあ本当じゃない』
『あの女を捕獲すれば有利になるのではと』
『いいわパララ、あの女を捕獲なさい! 私達が出現した結界装置の空白地帯に飛ぶわよ。残りのみんな私が戻るまで討たれないでよ!!』
『はいっ!』『ハッ』『当然です!』『お任せを!』
シュンッ
『なんだっ!? 二機消えた!?』
『舐めた真似をっ!!』
サッワとジェンナ、ノーラとルシアが即座に返事をした直後にココナツヒメと手を繋いだパララは結界装置が撒かれていない最初のポイントに躊躇無く飛んだ。と、直後に手を離したココナツヒメのル・ワンだけが円陣のさらに南側に飛んで走って戻る。
『みんなやるじゃない!』
『当然です! こんな雑魚共に負けません!』
難なくル・ワンは再び円陣の中に戻った。と、その時突然中間地点にレヴェルが一機出現した事にメランが気付いた。
「砂緒さん、地上兵の前にレヴェルがっ!」
『えっイェラ逃げろっ!!』
ガシャンガシャンガシャンガシャン!! ズザザザザーーー!
パララのレヴェルは敵味方関係無く踏もうが蹴ろうがダッシュでいち早く走り、ル・ツーの足元をスライディングして、運悪く丁度魔ローンの盾の間からすり抜けたばかりのイェラの前に出た。
「何だ!? 何で魔呂がっ!?」
ガッッ!!
『獲った―――!!』
『やったわパララッ!』
滑りながら腕を伸ばしたパララのレヴェルは馬に乗るイェラを巨大な手でガッと掴んだ。
『イェラーーーッッ!!』




