てきぱき砂緒さん☆ラブセブン
『ココナツヒメさま、残りの弾薬供給と機関冷却の為に一旦本陣に戻りたいです! すぐ済みます』
サッワが直接東側の本隊に向かうでは無く、一旦の帰還を提案して来た。
『いいわ、持っていた魔砲弾を撃ち尽くしたのなら仕方ないわね……』
こうしてY子達の西側への攻撃から直接砂緒がいる東側に向かうでは無く、一旦帰還してくれた事で、Y子の警告が砂緒に伝わる時間的余裕が出来たのだった。
『……とそういう訳なんだ。敵は半透明と組んで散弾魔砲をメッタ撃ちしてくる。とにかくこれを防がないとそちらの本隊地上兵にも甚大な被害が出るぞ! 砂緒殿なんとかして頂きたい』
黒い兜の下できっと必死の形相に違いないという感じでY子が切羽詰まった声で警告して来た。
『なる程~~で、Y子殿コーディエというド変態むっつりスケベ野郎からどぎついセクハラを受けていないですか? 私凄く心配なんです』
『え?』
今兵達の死に直結する緊急の警告をしたばかりなのに、砂緒の態度に唖然とするY子だった。
『例えば服をビリビリに破かれてあられもない姿で壁に押し付けられ、性的行為を強要などされていないですか??』
『……え? ないない、そ、その様な事は無いぞ安心してくれ!』
(え? ちょっとちょっと砂緒カンが鋭過ぎない!?)
今度はまるでコーディエにキスを迫られた場面を見ていたかの様な砂緒の言葉にどきっとするY子こと雪乃フルエレ女王だった。
『はぁ~~良かったです安心しました~~では~~~』
『は、はあ、本当に大丈夫なのだな?』
『Y子さん安心して下さい、砂緒さんには常に二十四時間私が付いてますので』
魔法通信モニターに映る砂緒に後ろから抱き着く勢いでメランが顔を出した。
『え?』
(あれ、メランの様子がいつもと違う?)
『はろ~~~兎幸もいるよ~~!!』
『とにかく何でも良い、兵達に被害が出ない様に頼むぞ!』
『はいは~~~い』
プチュッ!
砂緒は恐ろしく軽い返事をすると、メランに通信を切らせた。
『メラン、すぐさま今度は隊内チャンネルでSRV隊全機十七機に繋いで下さい!』
『え?』
今さっきお気楽な調子でY子との通信を終えたばかりの砂緒が、今度は急にキリッとした顔になって急に指示を始めたのでメランは戸惑った。
『早く、急いで下さい』
『あ、はいはい、分かりました』
メランは慌てて進軍を止めて待機中のSRV隊全員に魔法秘匿通信を行った。
『魔呂操縦者全員聞いていますか? 敵の半透明は瞬間移動を生かして魔呂では無く直接地上兵を狙う攻撃に移行した様です。それでミャマ地域軍地上兵は甚大な被害を出してしまいました……そこで我が隊はその戦訓を生かして対策を講じます』
『おお、やっと砂緒指令がやる気に!?』
『シッ』
SRV操縦者達がざわつく。
『まずSRV操縦者の中でも反復横跳びが得意な者十名、薩摩示現流の様な打ち込みが得意な者七名に別れて下さい。はい、五分で決めて下さいよ』
『???』
やる気になったのは良いが、砂緒の意味不明な言葉の羅列に一同あんぐりとした。
『と、とにかく砂緒さんは盾役十名とアタッカー役七名に別れろって事よね?』
慌ててメランが砂緒の言わんとした事を翻訳した。
『いや、それなら何となく分からないでも無いです』
『ですね』
ようやく隊員達が納得した。
『もともと我が隊は地上兵が約一万四千と的も大きいですが、魔呂は十七機と西側のミャマ地域隊の倍ほどいます。その半数以上を専従の盾役にすればあちら程の被害は出せないでしょう』
『そうね、残りの七機をアタッカー役にするのね』
メランが砂緒の話に続けた。
『はい、アタッカー役は散弾魔砲に当たっても死なないので頑張って斬り込んで下さい。逆に盾役の魔呂は無駄に動き回らないでせいぜいカニさんの様に真横に少し動く程度にして下さい』
『なる程……』
『わかりましたっ!』
『最後に兎幸、盾役の守り漏らしがあると困るので魔ローンの盾、展開して下さい』
『エ~~?』
兎幸があからさまに嫌そうな顔をするが、砂緒は念を押した。
『頼みますよ? それと敵がいきなりまた長距離爆撃に戻す可能性も考慮して、私はこれまで通り先頭でル・ツーの手に握られて警戒態勢を取ります! ですから兎幸は今まで通り空中監視の魔ローンもそのままお願いします』
『え~~~めんどくさいなあ』
『頼みます』
『はぁ~~い』
最後は渋々兎幸も砂緒の命令に従った。
『では五分後に進軍再開です! 各魔呂は魔戦車から地上兵への警戒伝達もお願いします』
『ハッ』
『わかりましたっ』
プチュッ
魔法秘匿通信は切られた。
「ちょっと砂緒さんどうしたんですか? 急にテキパキと指示を出して、なんだか見直しました!」
メランが嬉しそうに両手を合わせて砂緒を褒めたたえた。
「……私にはどうしても守らないといけない女がいるんです」
「え?」
砂緒が真剣な顔で遠い目をした。
「それは誰なの?」
「そ、それは一人だけを特別視して名前まで言う訳には」
「イェラの事じゃないのかなあ?」
兎幸が割って入る。
「………………」
兎幸の言葉に黙り込む砂緒。
「そ、そうなのね、イェラさんの事がそんなに心配?」
「……はい、イェラの事だけは命に代えても守るつもりです」
(……おっぱい)
いつになく砂緒の目は真剣そのものだった。
「そんなにイェラさんの事が心配なんだ~なんだか少し、妬いちゃうナっ!」
メランは悔し紛れに、にっこり笑った。
「……彼女はフルエレに並ぶ私の最初期からの仲間ですし、どんな事をしてでも絶対に守ります」
(おっぱい……お風呂……ご褒美……おっぱい……)
「あ、あの砂緒さん? 目が血走って来て怖いんですけど!?」
「むはーっむはーーっ」
「あ、あの砂緒さん、何で異常興奮しているの!?」
どこまでも最低な砂緒だった……
-再び西側、ミャマ地域軍。
「Y子殿、重傷者、動かせれるだけ動かして一か所に集めましたァー!!」
『よし、セレネ一緒に行くぞ、回復(強)!!』
『ああよし魔ローダースキル、回復(強)!!』
バシュウ、キラキラキラキラキラ……
蛇輪の足元に集められた怪我人達に回復(強)が掛けられ、星型のキラキラ粒子が降り注ぐ。
「う、うぐう、ぐ……あれ……痛みが」
「あーー、身体が楽に!?」
「凄い奇跡だっ!!」
先程まで激しい痛みに苦しんでいた重傷者達がみるみる回復して行く……
「やった効いてるぞY子!」
セレネがガッツポーズをしてY子に笑顔で語り掛けた。
「おかしいわっ!? 次は三時間後ですって?? 砂緒がセレネを生き返らせた時は連発出来たのにどうしてよっ!!」
「Y子殿、口調が。あたしは生き返らせてもらった方だからなあ……砂緒の愛のパワーかな、なんちゃってぃー」
「おかしい……仕方ない回復(弱)で出来る限りやってみましょう……」
照れながらも恥ずかしいタイプの冗談を言ったセレネをY子は軽く無視して回復を続けた。




