砂緒隊進軍!! サッワ砲撃開始
―時間を少し戻す。トリッシュ国周辺の荒野。五時直前。
『えーー宴もたけなわでは御座いますが、そろそろメドース・リガリァ総攻撃の時間となりました。お集まりの皆さまには御足もとの悪いなか装備をして行軍して頂き感謝しきりで御座います。魔呂の手に握られているという変な立場では御座いますが、では出陣の挨拶としたいと思います。雪乃フルエレ女王陛下の北部海峡列国同盟軍、出陣!!』
巨大な魔ローダール・ツーの手に握られた状態の砂緒が魔法外部スピーカーを通してトリッシュ国郊外から全軍に出陣を命じ、ル・ツーのメランと兎幸が先頭で行進を開始し、続いて十七機のSRV部隊や五十二両の魔戦車部隊、衣図ライグやイェラが率いる一万四千の歩兵各部隊がそれに続いた。
「兎幸ちゃん、魔ローン二機上空展開、残りを待機してあらゆる事態に想定して!」
「あいあいっ」
兎幸の合図で魔ローン二機が展開され、上空で敵からの超長距離魔砲攻撃の監視を開始した。
『ココナツヒメさま、敵が堀に掛かった所で、東西交互に砲撃を開始します!』
『ええ、そうしましょう!!』
サッワは射撃する為に作られた高台で魔砲ライフルを構え、魔法スコープを覗き込んだ。ココナツヒメは敵が進軍と同時に結界くんを設置している為に瞬間移動斬り込みが出来ない事に歯ぎしりした。だが、敵にある程度接近を許した時点で、残りのレヴェルと共に脚で走り込んでの決死の斬り込みは行う予定ではあった。
「メラン、今はフルエレもセレネもいません、また愛の告白があるならどうぞ気兼ね無く恥ずかしがらないで行って下さい!!」
人形の様な状態でル・ツーの手に握られたままの砂緒が振り返ってにっこり笑いながら言った。
「あーもー本当に失敗だったわっなんであんな事、口走ってしまったのかしら。まさか砂緒さんがここまで図に乗る性格だったなんて……一生の不覚よ。ああっ砂緒さんを地面に叩き付けたい」
「どうしたのですか? マイクが壊れているのですか?? ささっ二人の仲をより進展させましょう!」
『うるさいわっ黙ってて!!』
突如巨大な音声が流れてびっくりする砂緒隊の先頭部分だった。
『もうすぐ第一の堀と土塁があります。そこを突破しようと工作している時に絶対に例の魔砲攻撃があります! メランさまと砂緒さまどうぞ盾役しっかりお願いします!』
砂緒とメランがお茶らけている為に、後ろの列のSRVの操縦者が心配して気合を入れる様声を掛けて来た。
『あーーっ砂緒さんのせいで怒られたでしょっ腹立つっ!!』
「何で私のせいなんですか? いい加減にして下さい」
「ぴーーっ警報警報、魔砲弾確認、あっ連射してるよっ三発飛んで来た!!」
そうこうしている内に兎幸が自分の口でピーなどと警告音を発し始め、遂に魔砲弾の飛来を警告した。
『はやっしかもいきなり三発連射!? 大丈夫なの??』
「まあ一発は確実に大丈夫でしょうが、残りは砂緒いーじすシステムが発動しなかったらヤバイですね。後ろの人達には気の毒ですが……」
『そんないい加減なっ、兎幸さん残りの魔ローンの盾で跳ね返しお願い出来ない??』
『あれ枚数少ないと痛いから無理ッ』
『えええっ?』
ヒューーーーーーン
しかしすぐさま魔砲弾の不気味な飛来音がして来た。
『来たっ砂緒頼むよっ』
「あいあい」
メランから兎幸に操縦を交代したル・ツーが身構えて握っている砂緒を突き出す。砂緒は兎幸の真似をしつつ気軽に返事をした。正直言って砂緒は後ろの連中に弾が当たろうが特に気にはしていない。
『あーーーやっぱ駄目っぽい。敵さん散らしながら撃ってるから二発は確実に取りこぼすよ』
『そんな兎幸ちゃんなんとかして!?』
『いや魔法機械知能の計算だから当たるよ』
『魔ローンの盾出してって!!』
『嫌~~』
「二人共そんな声駄々洩れで会話してたら後ろの人達怖がるじゃないですか。どうせ当たるなら怖がらせない方が優しいです」
『うるさい来たっ!!』
一撃目の魔砲弾に向けて兎幸が手の角度を調整した。
「おっらああああああああああああ!!」
ビシィッッ!! ドーーーーン!!
一撃目は余裕で砂緒が弾き飛ばす。しかし兎幸の予測通り二発目三発目は角度や距離的に対応無理でル・ツーを通り過ぎて地上兵とSRVに向け直撃コースで飛んで行く。
「ひいいいいい」
「うわーーーーー!!」
直撃コース上の地上兵達と魔ローダー操縦者達が思わず顔を覆った。
バリバリバリ!! ドドーーーーーン!! バシーーーーン!!
が、二発ともそれぞれの的に直撃しそうになる直前、砂緒いーじすシステムの眩い雷が天から落ちて来て二発の魔砲弾を消し飛ばした。兵達は稲妻の直撃に安堵して歓声を上げた。
『あ~~びっくりした。砂緒さん驚かせないで下さい!』
『もーー砂緒、その雷が自由に出せるなら兎幸昼寝しとくよ! 私の存在意味ないじゃん』
「いえいえいえ、私本当に自覚無いんですってば。出そうと思って出してる訳じゃなくて、本当に自動で出て来る訳で。だからもし出ない場合にそなえて兎幸は常にちゃんとスタンバイしてて下さいよ」
『あいあい』
兎幸は気を取り直して再び砂緒を構えた。
『よし、魔ローダーは土塁を突き崩せ! 魔戦車は通路の整備!! 障害を突破次第次に進むぞ!』
砂緒とル・ツーが魔砲弾を跳ね返す事に成功して、後ろの魔ローダーと地上兵達が堀と土塁を突破する為の工事を始めた。まだこの箇所にはメドース・リガリァの兵もゴーレム部隊も居なかった為に工事に専念出来た。
『ココナツヒメさま、二十七発の貴重な魔砲弾の内、三発を東側の部隊に連射で撃ち込みましたが、かなり散らして撃っても全て撃ち落とされました。何か三発の内二発は稲妻が消し飛ばした様に見えました……もっと撃って何発同時に撃ち落とせるか試しましょうか?』
レヴェルのサッワが魔法スコープを覗き込みながら、横に居るココナツヒメのル・ワンに魔法秘匿通信で言った。
『無駄でしょ……例の稲妻は同時に何百発でも出せるっていう調査結果があるのよ。例の戦い方の為に貴重な砲弾は残しましょう。じゃ、西側にも三発散らして連射で撃ち込んでみましょう!』
『ハイッ!!』
そう言うと、ココナツヒメのル・ワンはプローン姿勢のままのサッワのレヴェルの肩を触って瞬間移動(短)を発動させ、西側のY子とセレネのミャマ地域軍に向かう射撃ポイントに移動した。
そのY子らが率いるミャマ地域軍の各部隊も砂緒の行軍と時を同じくして西側のソーナサ・ガ国から出陣していた。
『メランから通信が入ったわよ、今砂緒の方に三発爆撃があって三発とも撃ち落としたって! でも散らして連射してくるから気を付けろって言っているわよ』
後ろでカレンが固唾を飲んで見守る中、Y子がメランからの通信をセレネに伝えた。
『はいはい余裕余裕』
『ホントーよね? ホントーーーに剣で撃ち落とせるのよね?? 投げられた岩程度の速さじゃないのよ、分かっているの!?』
『しつっこいわっうるさいバーカ、Y子のバーカ』
『むっかあ!! またケンカしたいの??』
『黙れっ、こっちにも来たぞ!!』
『マジッ!?』
Y子の黒い兜で隠された、雪乃フルエレ女王の美しい顔に緊張が走った。




