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燃える王国


 レナードの何時に無い激しい慟哭を見て、周囲の誰も声を掛ける事が出来なかった。有未レナードと為嘉アルベルトは幼い頃からの親友であり、この中で一番悲しいのは間違い無く彼だった。

 しかし猫呼は慟哭する有未レナードを見ながら不思議な他者感覚というか客観視に囚われていた。猫呼自身も何度もアルベルトと会って会話しているが、それらは全て雪乃フルエレの付属物としてであって、自分自身からが積極的にアルベルトと関わって来た訳では無い。だからと言って悲しく無い訳では無く当然非常に辛い……が、やはり猫呼としてはレナード公程の精神錯乱する程の悲しみでは無い。どちらかと言えば猫呼が心配なのは雪乃フルエレの方だった。彼女が留守の間に、アルベルトに無断で行方不明の間に彼が亡くなった事が彼女に知れたら? それは今眼前で悲しんでいるレナードの比では無いくらいの衝撃をフルエレに与えるだろう……その事ばかりが頭に浮かんだ。


「なんでだよ……なんでだっ! あんないいヤツがいきなり死ぬなんて……どうしてだっクソッ!! メドース・リガリァの奴ら許せねえ……メド国を滅ぼしてやる……猫呼ちゃん、フルエレ嬢ちゃんは女王は何処に消えたんだ? 本当に無事なんだろうな??」


 そのレナードの矛先が突然自分に向いてドキッとする猫呼だった。


「……ごめんなさいレナード、こんな事になるなんて……フルエレはもちろん無事よ。でもまだ帰ってこれないのよ……本当にごめんね」


 もちろんいきなり飛び出して行って仮面を被って戦場に舞い降りたのは雪乃フルエレ自身のアイディアで猫呼クラウディアには何の責任も無いのだが、アルベルトが戦死してしまうという想像以上の突然の出来事に、猫呼は何か言い様の無い責任を感じて心がズンと重かった。


「………………そうか、それなら良いんだ。すまねえな、ちょっと取り乱しちまったぜっ。ぐすっ。雪乃フルエレ嬢ちゃんにはなるべく早く報告してやりたい。けど、この指輪の事は秘密にしておきたいんだ、こんな物あの若さで背負わせる訳には行かない。アルベルトには悪いが、この指輪は俺が責任を持って処分する。みんなもこの指輪の事は忘れて欲しい!」


 普段とてもいい加減に見えるレナード公にも国主としての責任感があったのか、錯乱状態からなんとか無理やり回復すると、今度は雪乃フルエレの気持ちを考えて指輪の処分を提案した。


「わたくしが此処に来た時には既に砂緒さまもフルエレも居なかったのでどういう状況か不明なのですけど、今はフルエレはアルベルトさんと付き合っていたのでしょうか。だとしてもまだ指輪の事がフルエレに知れて無いのでしたら、それはレナード公の仰る通り秘密の内に処分してあげた方が彼女の将来の為にも良いですわね……」

(という事は砂緒さまは今は一人身? アルベルトさんが亡くなっていきなりフルエレがよりを戻す……なんて事は無いですわよね)


 この中では一番アルベルトと関係性の薄い七華王女がレナード公の発言に同意すると、他の者はもう何も言わなかった。




 十数時間後。スピネルのデスペラードは数度の休憩を挟みひたすらバックマウンテンの山中を駆け抜け続けた。そして夜となり、遂には母国のメドース・リガリァが一望に出来る所にまで辿り着いた。


「むう……」


 しかしデスペラード改Ⅲの魔法モニター上に映し出されたメドース・リガリァは、夜の闇の中であちこちから数えきれない程の無数の火の手が上がり、その炎に映し出される様にやはり数えきれない程の煙がもくもくと立ち込め、その城壁内の街中を我が物顔の敵国の魔ローダーが闊歩している。その上中心の貴嶋が居座る城にまで敵兵や魔戦車が迫っているのか、城の周囲を取り囲む様にブラストの閃光が何度も光っては消えている。もはや城攻めは最終局面という情勢であった。しかしその城を守るべき魔ローダーレヴェルの機影は既に無く、サッワの機体もココナツヒメの機体ル・ワンも姿が見られない。もはや彼女の自国領に撤退したかあるいは……


「スピネル……どうしたのですか? もはや私の王国は眼前なのでしょう」


 感受性の高いエリゼ玻璃音女王が状況を察したのかスピネルに尋ねた。


「女王陛下……以前お聞きしたご質問を繰り返す無礼をお許し下さい。もし貴方様が何処かの人知れない隠れ里や村で静かにお暮し遊ばすとお望みでしたら、このスピネル全力で手配致しまする」

「お城に連れて行って頂戴、もう一度最後にあの人に会いたいの。可笑しいわね、此処を出た時はピクニック気分だったのにね、まさかこんな風に戻って来るだなんて。そうね、でももうそろそろお城(おうち)に戻りたいわ」


 エリゼ玻璃音女王は全てを諒解した上で事も無げに城に戻る事を命じた。


「ハハッ!!」


 返事をしながらスピネルの脳裏に弁当屋の娘の笑顔が浮かんだ。


(彼女は無事だろうか……)


「行って頂戴な、急ぎで」

「ハハッ」


 エリゼ玻璃音女王はタクシー運転手にお願いでもする様に出発を促した。



 ガシャガシャガシャガシャガシャ……

 山肌を駆け下りたスピネルのデスペラード改Ⅲが、装甲音を響かせながら既に破壊された城壁を越えると、目の前に一機のSRVが戦闘を終えてぼーっと突っ立っていた。


「どけえええええええ!!」


 ザシュッ!!

 多少卑怯だが、突っ立ってぼーっとしたままのSRVをいきなり後ろから切り捨てる。

 ドカーーーーン!!

突然のSRVの爆発に地上兵も残りの複数のSRV達も、今頃の敵機の再登場に驚き身構えた。


「多少揺れますぞ」

「どうぞ」


 スピネルは走りながら剣を構えると、駆け抜けながら二機のSRVの腕と頭を切り落とし、さらには助走を付けてジャンプすると飛び蹴りでSRV一機吹き飛ばしてぶち倒す。

 ガシャーーーン!!


「ハハハ最初から煙が出ておってやり易いわっ!!」


 スピネルが好んで使う煙幕が最初から出ている様な暗い戦場で、軽くハイな状態になりながら次々と敵魔ローダー達を倒しながら駆け抜けて行く。しかし次第にデスペラードの装甲は剥がれ落ち、片腕も効かないくらいにオーバーヒートして来る。


「抜けます、城の眼前です!!」

「裏庭に出て頂戴な」


 最後に中心の城の城壁をジャンプして越えると、急いで裏庭に駆け抜けた。


「デスペラード!?」

「スピネル様が戻って来られた!?」

「まだまだ戦えるぞ、うおーーー!!」


 加勢だと勘違いした兵達が気勢を上げるが、スピネルは元より無視して急いだ。



「女王陛下、裏庭で御座います」

「降ろして頂戴な」

「ハッ」


 スピネルは魔呂を跪かせ、ぼろぼろの巨大な腕でエリゼ女王を裏庭に降ろした。


「こんな時、最後はあの人は地下迷宮に逃げ込む事になっているの。私此処でちょっとした冒険をした事もあるのよ、フフ楽しかったわ」

(紅蓮、美柑ちゃん……)


 地下迷宮は王国に敵国が迫るに際して、護衛用のゴーレム以外の邪魔で危険なモンスター類は全て撤去されている。空襲前に動物園からライオンが居なくなるのと同じである。


「はい?」

「とんでもない駄目な女王ね。最後は国も民も忘れて……」

「いえ、貴方は最高の女王陛下です」


 スピネルは胸に手を当てて頭を下げた。


「剣士スピネルよ、最後の命令です。貴方を解雇します。これまでよく貴嶋と王国に仕えて下さいました感謝しますよ。退職金は僅かですがデスペラード一機、これからは好き勝手に自分の道を生きなさい!」

「ハハッ有難き幸せ」


 言い終わると秘密のスイッチを操作して、裏庭の隠し入り口から地下迷宮に降りて行くエリゼ玻璃音女王をスピネルは頭を下げて見送り続けたが、しばらくしてサッと顔を上げると素早くデスペラード改に飛び乗り、走り出して城壁の外に飛んで行った。今彼の頭の中は弁当屋の娘の事で一杯だった。最後までの加勢を期待していた城兵達はいきなり逃げ出したスピネルにあっけに取られた。



 ガシャーンガシャーーンガシャーーン……

 スピネルのデスペラード改Ⅲが燃え盛る街中に消え去ってしばらく後の入れ違いに、エリゼ女王が地下迷宮に降りて行った中心の城に向けて、怒りと悲しみに打ち震える雪乃フルエレ女王と、彼女の激しい感情をもはや止める事が出来なくなった砂緒とセレネの三人が搭乗する、同盟旗機魔ローダー日蝕白蛇輪がゆっくりと迫っていた。その蛇輪はフルエレの怒りが吐き出す膨大な魔力で目が真っ赤にビカッと光り、夜の闇でも背中の翼と装甲全体がぼうっと妖しく輝いていた……

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