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妹と兄の対決……


「今スピネルさまのデスペラード改がこの先のシェルタールームに向かって行きました。あの方は確実に目的を実行されると思います」


 壊れた壁から顔を出していたフゥーが無表情で七華に言った。


「目的を実行って何よ? 言ってごらんなさい」


 厳しい顔で七華はフゥーに聞いた。


「……猫呼さまを影武者と知らず女王として殺害されると思います」

「それで良いの?」

「……分かりません」


 間髪入れずに答えたフゥーだが、明らかに迷いの色があった。


「駄目よ! わたくしが助けに行くわ! 一緒に行くのよ」


 再び七華はフゥーの腕を引くと、所々壊れた石の廊下を進んだ。



「あーーーこんな事ならニィルかライラを手元に置いておくのだったわっ。これじゃあ避難場所を変えるにしても何処に行けば良いかわからないじゃないっ! レナードさん何とかならないの??」

「いやスマン、俺なんて遊ぶことしか考えて無かったから緊急時の事とか一Nミリも考えてなかったぜ。そういうのはアルベルトが詳しいんだが……ま、アイツは仲間が全員死んでもアイツだけは生き残るだろうがな。こんな事言ってたとかアイツに言うなよ、気にするからな」


 猫呼は激しく呆れて再びイライラした。すると横のシャルが突然猫呼の付け猫耳の頭をナデナデし始めた。


「ちょっと何のつもり!?」

「落ち着けよ猫呼。女はこうすると感激するんだろ?」

「呼び捨てやめい、あと相手によるわっ! あ~~これだけは言いたく無かったけど、こんな時に砂緒臨時代用お兄様がいれば、敵なんか雷で全員倒してくれるのに……」


 結局再び暗い不安げな顔に戻る猫呼。シャルはいつも偉そうにしているがやはり普通の少女なのだなと少し安心した。


「ま、安心しなよ、俺が付いて……る? え?」


 ガガガガガガ……

 これまでの揺れよりさらに激しい揺れが起こる。中に居る猫呼やシャル、レナードとメガネと侍女達十数人の者達は無言になって天井を見た。


『スピネル様、石を剥がすと鉄で覆われた部屋らしき物がありました!』

『でかしたぞシルビァ!! それが女王の避難場所に違いない。中を潰さない様に天井をスライスするぞっ』


 スピネルのデスペラードは剣を包丁の様に横に構え、魚を三枚おろしにする様に鉄の天井を削いで行った。

 ザギュッ!!

 器用にビール瓶の王冠の様に天井がすっ飛んで行き、猫呼達の避難場所が白日の元に晒された。


「きゃーーーーー!? ちょっと何よっ!!」

「何だ天井が飛んだ??」


 猫呼はじめ、中の人々が上を見上げると、捨て猫が入ったダンボール箱を覗き込む様に四機の巨大な魔ローダーが立っていた。シェルタールームの上にあるべき石造りの建物類は全て取り払われて、一番下の鉄の箱が露出されたのだった。


「…………何……」

(女王が雪乃フルエレでは無いだと? 何故猫呼が??)


 魔法モニターで自分達を見上げる人々を確認したスピネルが、ぽつりと一言だけを発して絶句した。人々の中心で守られる様に立っているのは、白いヴェール帽子の上にちょこんと可愛い猫耳がある小柄な少女だった。シルエットからリュフミュランやニナルティナで目撃した成長した妹の猫呼としか思えなかった。


『どうしたのですか、スピネル隊長? 随伴する戦闘員に殺らせますか?』

『あれが同盟の女王でしょうか?』

『……』

『隊長??」


 シャクシュカ隊Ⅱの美女達がスピネルに問うが、いつも淀みなく即断即決のスピネルの様子がおかしかった。


「スピネル、どうしたのですか?? もし逡巡しているのなら……」


 エリゼ玻璃音女王が、本心では女王を殺害などしたく無かったので、スピネルの様子がおかしい事に乗じて殺害を止めようと仕掛けた。


「いえ、何でもありません。速やかに同盟の女王を殺害し、作戦を成功させましょう」


 しかしすぐにスピネルはいつもの様子に戻ってはっきりと言った。


『……ひと思いに魔呂の剣で一瞬で息の根を止める事とする。戦闘員は突入しなくて良い』

『はい?』


 死体を残せと言っていたスピネルの急な方針転換だった。スピネルとしては魔ローダーのスピードと破壊力で一瞬で消してやるのがせめてもの情けだと思ったのだったが、そんな物情けでも何でも無かった。自分が決心を付ける為に魔呂の攻撃力に頼ろうという事だった。


『情け……む、無用』


 デスペラード改はシェルタールームの壁に片手を置くと、巨大な剣を振り上げた。


「な、なんて連中だ、あの巨大な剣で俺達を滅多切りにするつもりかよ!? 猫呼ちゃんすまねえ、俺が此処に逃げようなんて言うから……全部公である俺の責任だ」

「べ、別にレナード公の責任じゃないわよ……ハァまさか私がこんな終わりなんてね」

「猫呼は俺が守るからなっ!」


 シャルは魔呂から庇う様に猫呼をぎゅっと抱き締めた。


「シャル……」


「ううっお母さん……」

「うわーーー」


 偶然その場に居合わせ、猫呼の世話の為に一緒に避難した侍女の少女達やメガネも抱き合ってしくしく泣き始めた。すると猫呼がシャルを押しのけ、すくっと立ち上がる。


「北部海峡列国同盟の女王、雪乃フルエレだ! 首都を急襲する作戦お見事、天晴である! 褒めて遣わす故、褒美として見事討ち取られてやろう。その代わり少女の侍女達は逃がしてやって欲しい!!」


 猫呼は大声で身動ぎもせずに背筋を伸ばして言った。


「猫呼さま……」


 シャルはあっけに取られた。


(猫呼……見ない内に……強い女に……)

「ごくり……」


 スピネル、猫呼の兄である猫名は敵対していながらも妹の態度に感心した。しかし今仕える女王の為には例え偽物の影武者でも作戦成功を印象付ける為に、その妹を討たなくてはならないのだ。緊張で唾を飲み込んだ。


「スピネルどうしたのですか?」


 しかしエリゼ玻璃音は、目が見えなくともいつも冷静過ぎるくらいのスピネルの心音や呼吸が尋常では無い状態、激しい緊張状態である事に気付いていた。何かあると思い始めた。


「情け無用……今から撫で斬りに致す!」

「お待ちなさい!! 今の雪乃フルエレの言葉に感心しました。最後にあの女王と直に別れの挨拶がしたいのです。ハッチをお開けなさい!」

「ハッ?」


 スピネルが女王の強い言葉に振り返ると、女王はいつになく強い力で彼の腕をガシッと掴んでいた。


「い、いえ……それは無理で御座います。非常に危険です!」

「何が危険なのですか? 魔ローダー四機で囲み、足元には随伴する戦闘員までいるのですよ? 私は腕輪のシールドもありますが」

「い、いえ……無理なのです」


 もしハッチを開ければ妹と対面してしまう事になる、そうなると斬る事が出来るだろうか? スピネルの心は乱れた。

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