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  散華


 ガチャッ

 新ニナルティナ冒険者ギルドビル地下一階、喫茶猫呼の荒れ果てた厨房の片隅の戸棚が一人でに開いた。しばらくして声を押し殺したイライザが亀の様に顔をにゅっと出した。


「誰もいませんか~~? いませんよね~~~?」


 カラカラ……ガシャンッ!!


「ひいいいっすいませんすいません、敵ではありません!!」


 イライザは両手を上げてゆっくり出て来たが、戦闘員が荒らした厨房からコップが転がって落ちて割れただけだった。


「ひっ脅かさないでよ……という訳で、逃げる!!」


 人知れず奇跡的に無事だったイライザは慎重に、でも急いで外に逃げおおせた。


「兄さん無事で居て~~~」



 新ニナルティナ港湾都市、女王仮宮殿周辺の市街地ではアルベルト率いる同盟側魔戦車隊五両とスピネルのデスペラードと二機のレヴェルが鬼ごっこの様な攻防を続けていた。アルベルトとしては戦闘を長引かせ隣国からの救援と、宮殿内の人々の脱出の為の時間を稼ぐ為だったから、もともと魔呂に全く歯が立たない魔戦車としてはこれがベストな戦い方だった。しかしもうそろそろ力をセーブしているスピネルの我慢の限界に近付きつつあった。

 ギュイーーーン!!

 魔砲を撃ち全速力で後退する一両の魔戦車。


「へへっこっちは地元の良く知った土地なんだ! お前らなんかに負けるかよっ!!」


 さらに調子よくビルの合間を全速力で後退している時だった。

 ガチッ! ギュイーーン、ギュイーーーン!!

突然魔戦車の後退が止まって動かなくなり、無限軌道がむなしく地面を掘り続ける。


「どうした何故後退しない??」


 慌てて乗員がキューポラから周囲を覗き、後ろを見て驚く。なんとブリットが乗る魔ローダーレヴェルが片足で魔戦車の後部を押さえ付けていた。

 パンッ!!


「うっ」


 その直後、今冒険者ギルドビル占拠を終えたばかりの随伴部隊が魔銃を撃ち、砲手が砲塔内に滑り落ちる。


「戦車長!!」


 落ちて来た戦車長の死体を見て驚く他の乗組員。


「もうお前らは終わりなんだよっ!」


 ザギュッ!!

 言いながらブリットが乗る魔ローダーレヴェルは巨大な剣で魔戦車を突き刺した。

 ドゴーーーン!!

五両の内一両が破壊された……


『つっしまった! もう一機魔呂が現れた!! 皆気を付けろ!!』

『ハッ!!』


 アルベルトが一両破壊された事に気付き、皆に警戒を呼び掛けたが遂に囲まれ始めた魔戦車はまさに袋の鼠という状態になって来ていた。


『ブリット、ビルの方はどうなった??』

『はいスピネルさま、ビルはもぬけの殻でした。中には猛者どころか素人の冒険者が数人、秘書か役員の女が一人のみ、全員殺害しておきました!』

『うむ、それならば良い。ではもはやタイムアウトだ、魔戦車を全て壊す!!』

『ハイッ!!』


 ブリットに続き、アヤカとシルビァも返事をして、じりじりと残り四両の魔戦車を追い詰めて行く。


「ほらほらほらチューチューチュー、鼠さんこちらですよー!!」


 アヤカが前に他のシャクシュカ隊員が、同じ様な事を言っていたことをまた言い出しながら一両の魔戦車を追い詰めた。


「くそーーー逃げれん!! これまでかっ」


 ザシュッ!! 

 その魔戦車にアヤカの魔呂の巨大な剣が突き刺さる。


『アルベルト隊長ーーーー!!』


 ドゴーーーーン!!

 二両目がやられた。


『アルベルト隊長、このままでは全滅です!』

『諦めるなっ!!』


 残り三両となった魔戦車内ではもはや最初の余裕は消え、戦々恐々としながら巨大な魔ローダー達の剣や足の攻撃から当たる寸前で逃げ回る状態となっていた。


『皆早くしろ、早くしないと周辺の国から救援の軍が来るぞ! そこだっ!!』


 遂にスピネルも一両の魔戦車を足の裏に掛けた。魔戦車のキャタピラが虚しく火花を散らして空転し、遂には連結部がちぎれてシュレッダーの様に無限軌道がちらばって行く。

 ドゴーーーン!!

 さらに剣を突き刺されて爆散した。


「女王、もうここら辺で宮殿まで強硬突破致します! ご容赦を……」

「………………はい」


 人見知りと言ってもやはり芯が強い雪乃フルエレやセレネと違って、エリゼ玻璃音は力に屈する弱い女性だった……彼女は渋々スピネルの強硬策に同意した。


『周辺の住民及び敵側戦闘員に次ぐ、これより宮殿に向かって障害となる者は建物だろうが乗り物だろうが全て排除して進む。踏まれたく無い者は今すぐ退去せよっ!! 三十秒後開始する以上』


 スピネルは外部魔法スピーカーから魔法秘匿通信に切り替える。


『アヤカ、シルビァ、ブリット残りの魔戦車は頼む。それがしは一足先に戦闘員達と宮殿を占拠して作戦を完遂させる!! 頼むぞ』

『はいっ』


 ドカーーーン!! ガラガラガラ……

 シャクシュカ隊Ⅱ達が返事をすると、スピネルは本当に有言実行でビルを蹴とばして一つ潰して突き進み出した。


『なんて奴らだ……アルベルト隊長、もはやこれまでです、私達の車両が血路を開きます! 隊長の車両だけでも脱出して隣国に駆け込んで下さい! もはやそれしかありません』


 残ったもう一両の車長がアルベルトに叫んだがそんな事同意出来る訳が無かった。


『そんな事出来る訳が無い!! お前が脱出するんだっ! 早く!!』

『は、はい……絶対に戻ります!!』


 涙ぐみながらそう言うと、魔戦車はなんとか迫る魔ローダーの足を潜り抜け脱出を試みようとした……が、二機の魔ローダーに挟み撃ちにされ簡単に捕まってしまった。

 ザシュザシュ!!

 二機の魔ローダーから同時に剣を突き立てられ、魔戦車は両断されて爆発した。

 ドカーーーン!!


『ライーン!!』


 アルベルトは思わず車長の名前を叫んだ。


「皆……全速力でグレー魔ローダーの前に出たら緊急ハッチから飛び降りろ!!」

「え?」

「何を!?」

「良いから早く走れ!!」

「ハッ」


 アルベルトの最後の魔戦車は全速力で唯一開かれた道であるスピネルが突き進む宮殿への道を進んだ。てっきり自分達の魔呂のどこかをすり抜けると思っていた美女達はあっけに取られた。

 ギュイーーーン!!

 進路にある物を全て踏み潰しながら進むデスペラードの横をアルベルトの魔戦車が追い抜いて反転した。


「何だ? 何のつもりだ??」


 戸惑うスピネル。


「皆脱出しろ!!」

「隊長?」

「安心しろ、僕もちゃんと脱出するよ」

「ハッ」


 にっこり笑ったアルベルトに対して涙で敬礼した他の乗組員達が緊急ハッチから転げる様にして出て行く。そんな事に関係無く、ゆっくりと足を持ち上げるデスペラード。


「此処は僕とフルエレくんの宮殿、僕たちの土地だっ!! 踏み荒らされて堪るかっ!!」


 ドンドンドンドンドン!!!

 もはや速力が大幅に低下した魔戦車で後退しながら魔砲を撃ち続けた。


「ふざけるなっ!!」


 ガーーーン!!

 怒ったスピネルが魔戦車を思い切り蹴るとボールの様に転がって行く。

 ドンドンドン!!!

しかしアルベルトは横転したまま魔砲を撃ち続けた。


「はあはあ、僕は不死身だっ!! 絶対に死なない、絶対に僕らの宮殿を守るっ!!」

 

 直後、デスペラードの巨大な剣がアルベルトの魔戦車を貫いた。




 気が付くとアルベルトは陽光の中でうとうと眠っていたのか、ふと目を覚ました。


「……あれ、僕は??」


 何気なく周囲を見渡すとキッチンからテラスへ可愛いエプロン姿の雪乃フルエレが出て来る。


「あら、貴方……アルベルトさん眠っていたの? 風邪ひくわよ……」


 そう言いながらフルエレはアルベルトの髪を直した。


「ああ……そうか僕はフルエレくんと結婚して……いや夢で、魔戦車で追われている夢を」

「あらあらまた魔戦車の夢? 犬や猫さんが走り回る夢を見てるみたい!! 何時になったら魔戦車の事を忘れてくれるの??」


 フルエレが腰に手をあてて呆れたという様な顔をした。


「そうだったね……こんなに幸せなのにね、面白いね」


 アルベルトは立ち上がると雪乃フルエレを抱き締めた。


「フルエレくん、ずっと一緒に居よう、ずっとだよ」

「はい……分かっていますよ」


 フルエレもアルベルトを抱き締めした。



 

『……フルエレ……くん……指輪……』


 破壊されたボロボロの魔戦車の中でアルベルトは必死に最後の力で転がる指輪の箱を取り戻して胸に抱いた。

 ドーーーーン

 同時に魔戦車が爆散して、スピネルは無情に通り過ぎて行く。アルベルトは雪乃フルエレとの幸せな生活を胸に抱きながら死んで行った。

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