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アルベルトの指輪と夢 女王宮殿襲撃



 ―同じ頃、新ニナルティナ魔戦車倉庫。


「誰だっ! 動くな!!」


 倉庫を開けた早起きの整備員が、魔戦車倉庫に怪しい人影を見て思わず声を荒げた。


「済まないね、どうしても落ち着かなくて思わず来てしまって」


 整備員が魔戦車の影から出て来た人物を良く見ると、魔戦車隊の隊長のアルベルトであった。何度も会っている人物ではあるが、そうで無くともこうした場に似つかわしくない小奇麗な服装をしたかなりのイケメンという事で、身分の高い何者かであろうと誰でも思うだろう。


「ああ、アルベルトさんじゃないっスか! こんな朝から精が出ますね。ていうか皆何してるんだ?」


 整備員は新人達が来ていない事を怒った。


「いやいや僕が勝手に来ているだけだからね。じゃあ僕はそろそろ帰るとするよ」


 アルベルトの手には汚れた布きんが握られていて、魔戦車を一生懸命磨いていた事が分かった。


「は、はいご苦労さまっス!」


 アルベルトは軍手を脱いで手を洗うと、何故か再び整備場に戻って来た。


「ちょっと見て欲しい物があるんだ……」

「え、え、何スか?」


 突然深刻な顔をしたアルベルトから呼び止められてドキッとした。


「これを見て欲しい」


 そう言ってアルベルトは大事そうに小さな小箱をパカッと開けた。


「げげっこれは!?」


 箱の中には大きめの宝石が嵌められた美しい指輪が入っていた。


「これなんだけど……」

「そ、そんなダメっスよ、アルベルトさんとお、俺は男同士、まさかそんな……」


 整備員は激しく赤面しながら手を突き出し首を振った。


「……何を言ってるんだね君は?? これはある女性に結婚を申し込もうとしてだね……」

「あっっ、ですよね!! あはは、すいやせん、早とちりしちゃってへへ」


 整備員は別に男が好きな訳では全く無いが、誠実なアルベルトに常に好感を持っていた事と、彼が男女から見てもかなりの美男子だった事もあり、一瞬激しく勘違いしてしまってさらに赤面した。


「どんな早とちりをしたのかな……それはそうと、こんな指輪で気に入ってもらえるかな」

「俺なんかにそんなハイソな人々の世界の事を相談されても……ちなみにお相手は??」


 アルベルトは少し照れて恥ずかしそうに言った。


「雪乃フルエレくんという職員の子なんだけど……」

「げげっあの雪乃フルエレ女王と同姓同名の美し過ぎる女性職員として有名な、あの雪乃フルエレちゃんですか!?」


 整備員は腕を振り上げて驚いた。


「そんなに有名なのか……」

「でも大丈夫ですよ、この国のナンバーツーで尚且つ超イケメンのアルベルトさんのプロポーズを断る相手なんていやしないですよ!! いやむしろ雪乃フルエレちゃんと似合うのはアルベルトさんだけっスよ!!」


 整備員は目を輝かせて言うのでアルベルトは激しく照れた。


「……この戦いが終わったら僕はきっちりと雪乃フルエレくんにプロポーズするつもりなんだ……あ、最も僕は戦いに参加させてもらえて無いのだけど……」

(その上当のフルエレくんの行方すら知らない……猫呼ちゃんは絶対安全だって言ってるけど)


 アルベルトは遠い目をした。しかし当のフルエレはY子として絶賛戦闘に参加中であった。


「いやあ、アルベルトさんみたいな良い人程なるべく長生きして欲しいです、あんまり前線に出ないで欲しいっスよ」

「そうかな……じゃあ僕は宮殿に行かなくちゃならないから……」

「へい」


 アルベルトは指輪の箱を閉じるとその場を去った。



 イケメン運転魔導士がリムジン型魔車のドアを開けるとサングラスを掛けた猫呼クラウディアが出て来る。しかしサングラスを掛けていても頭上の可愛い付け猫耳で彼女と丸わかりだった。彼女の前にシャルが、その後に続けてボディーガードのライラが出て来る。二人共可愛いメイド服だ。


「やあ今日は早く来てくれたね!」


 出て来た猫呼一行を為嘉アルベルトと有未レナードが出迎えた。


「当たり前でしょ、今日は早朝から敵国への総攻撃開始らしいじゃない。いくら偽王女でも仮宮殿の椅子くらいには座っとくわよ」


 でも明らかに機嫌の悪い猫呼だった。


「おや今日は七華ちゃんとフゥーちゃんは?」


 アルベルトは大袈裟にきょろきょろしながら聞いた。遂に七華の名前を覚えたが、まさか彼女がリュフミュラン王女だとは結び付かなかった。


「後から来るんですって! でももしかしたら来ないかもね……どうも七華さんは贅沢暮らしが身に沁みついてて。どこかの誰かみたいね」

「そうなんだね。でも……本当にフルエレくんは安全な場所に居るんだよね?? 本当は今すぐにでも彼女を探す旅に出たいくらいなんだけど」

「安心して! フルエレはちゃんと安全だから!!」


 猫呼は配下の者に魔輪で毎日手紙を直接届けさせて連絡を取っていた。しかし、Y子が中部小国群の最西ソーナサ・ガにまで行ってしまってその通信も途切れていた……


「そ、そう言うのなら」

「止めてくれ、お前が出て行ったらこの国は誰が支えるんだ!!」

「そうですそうです」


 有未レナードと自称美人秘書のメガネも頷いた。


「………………」


 真面目過ぎるアルベルトはひたすら猫呼の発言を信じた。



 ―新ニナルティナ、仮宮殿。


「は~~~作戦発動ってもする事無いのよねえ、ただこんな風に座ってるだけなんて」


 頭に猫耳用の穴が開いたヴェール帽を被った猫呼ニセ女王がピシッと伸ばしていた背筋をだらしなく猫背に屈んだ。


「ならわざわざニセ女王なんてめんどくさい事やめればいいじゃん猫呼さま」


 後ろに突っ立つシャルがつまらなさそうに言ったが猫呼は無視した。


「はぁ~~~アルベルトさんは魔戦車を見に行くし、レナードも仕事があるとかどっか行っちゃうし。私もトンズラしようかしら」


 猫呼は喫茶猫呼といる時と同じ様に頭の後ろで両腕を組んで、後ろに反りかえった。そんな態度を見てもう侍女達はみんな猫呼が影武者だと気付いているが、もはや誰も何も言わなくなっていた。



「フゥーちゃんやっぱり行くの? もうめんどくさいからいいんじゃなくて」


 路面念車の新ニナルティナ中央駅でスーツ姿の七華とフゥーが並んで念車を待っていた。


「そんな訳には行きません。私は奴隷ですので主人に付き従わないと」

「だったら朝早く起きて一緒に行きなさいよ。寝坊して置いて奴隷も何も無いでしょ!」


 そうこうしている内にようやく入って来た路面念車に二人は乗り込んだ。



 ―新ニナルティナ西側、仮女王宮殿直前のバックマウンテン。


「同盟の総攻撃、両面作戦が発動しました。これより同盟の女王宮殿に襲撃を掛け雪乃フルエレ女王を殺害、貴方様に新たな同盟の女王となって頂き、作戦の中止を発令して頂きます。お覚悟はよろしいですか?」


 デスペラード改Ⅲの操縦席から後ろの仮設席に振り返り、スピネルがエリゼ玻璃音女王に最後の覚悟を促した。


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