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ソーナサ・ガ陥落 中 セレネとY子の氷の魔法剣


 ―同盟軍西側ミャマ地域軍。少し時間を遡って午前四時。

 バンバン! ドンドンッ


「こらっ起きろ!! 起きろY子、もう四時だぞっ!」


 既にグループサウンズ風ミリタリールック調の戦闘服に着替えたセレネが、Y子の天蓋の入り口をガンガン足で蹴りまくる。それを冷や汗を掻きながら後ろでカレンが無言で見ていた。


「なによも~~~四時に起こすなんてちょっとした暴力よ!」


 可愛いパジャマ姿からの頭の兜に指先を突っ込んで、眠たい目をこすりながらY子が出て来た。


「プロY子か! まさか兜被ったまま寝てたのか?」

「まさか、今被ったのよ!」

「何でも良い、今砂緒も大きなプレッシャーの中、必死に作戦を練っていて夜も眠れてないに違いない。我らが率先してソーナサ・ガに攻め込んで砂緒の負担を少しでも軽くするぞ!」


 セレネは強引にY子の腕を掴んで引っ張った。


「……貴方砂緒の何を見て生きて来たの? 砂緒がそんな真面目な訳無いでしょ、今頃羽根を伸ばして遊び惚けているわよ!」

「そんな訳無い!! ああ見えて砂緒は実はとても優しい男なんだぞ」

「……病院に行った方がいいわ」


 現在までの所、砂緒に死に掛けた時に助けられたり、敵に捕まった所を助けられたり一番しているのはセレネなので、彼女の視点からするとそう見えても仕方無いのかもしれなかったが、実際には砂緒は他人の事など一ミリも考えていない。セレネやイェラを助けるのは、死なれたら自分が悲しいからで、真に他人の身を心配している訳でも何でも無かった。実際特別に思い入れの無いミミイ王女に関しては居なくなっても特に何も感じていない。また丁度今頃は砂緒がイェラと一緒にベッドでスヤスヤ眠っていた頃だった……


「もう何でも良い! 早く行くぞ、あとあたしの後ろにはカレンが居る事をお忘れなく」

「おはよう御座います」


 セレネの後ろからカレンがひょいっと顔を覗かせて挨拶をした。


「キャッ! それを早く言いたまえ、カレンおはよう」

「キャラが統一化出来ない癖にカレンをスカウトなどするな! こっちが疲れるわ」


 Y子は兜の下、可愛いパジャマを着替える為に十数分してようやく出て来た。そしてそのまま三人は魔ローダー駐機場に向かった……



「セレネ司令官殿、Y子殿おはよう御座います。早速の出撃、敵も意表を突かれるでしょう。我ら地上兵も気張って出撃します!」


 コーディエが昨日の事等なかったかの様に、如何にも好青年な笑顔で二人に挨拶をした。


「うむ、コーディエ殿よろしくな」

「………………あ゛?」


 Y子はまるで言葉が喋れないモンスターかの様に不愛想に応えた。


「Y子殿、あ゛? とは何だコーディエ殿に失礼だぞ!」


 Y子こと雪乃フルエレはブチッと切れ掛けたが、相手がY子の正体がフルエレ処か、それ以前の海と山とに挟まれた小さき王国の夜宵王女である事すら気付いている男なので、余計な事は言えなかった。


「おーーがんばれやーーい」

「……何だそれは? 遂に壊れたか??」

「いえいえ良いのです。恐らく兜に封印された怪物の影響でしょう、うぷぷ」


 コーディエは好青年ぽい笑顔でY子の無礼な態度を許した。これではまるでコーディエの方が良い人に見えてしまうだろう。まさにト○と○ェリーのやり口である。


「む、そんな事より全軍出撃の準備は出来ているな?」

「ははっ魔戦車55両に地上兵一万、それにSRV部隊十機、全て出撃準備終了しております!」


 コーディエはキリッと敬礼をして答えた。


「なんという有能な……Y子殿に爪の垢でも煎じて飲ませたいぞ!」

「セレネ、それ以上言ったら本気で怒るわよ」

「はあ?」


 再びY子とセレネが険悪になり掛けた時にカレンがひょいっと割って入る。


「私は拾って頂いたY子様の鋭い勘を信じます」


 短い言葉の中にも意味ありげな言葉にコーディエは一瞬ムッとした。


「まあっカレンちゃんっ! うふふ、蛇輪に一緒に乗りましょ!!」

「こ、こら危険な戦闘時に本気で乗せる気か!?」

「私なら構いません」


 こうしてカレンはまんまと同盟軍旗機、日蝕白蛇輪に乗せられる事となった。



 こうして朝五時、ミャマ地域軍は駐屯地を捨て、全軍が出撃態勢に入った。


『これより一気にソーナサ・ガ国を落とす! 砂緒達のトリッシュ国陥落の戦訓から、あたしの蛇輪が先頭を走り、敵からの攻撃を全て叩き斬り落とす! 魔ローダーは二列、魔戦車と歩兵もその同じ幅で全速力で付いて来る事! 遅れる者は一切放置する!! それと敵が真横から射撃して来た場合も運が悪いと思え、都市占拠を最優先しその他の損害は放置する!! とにかく当たりたく無ければ全力で一気に走り抜けろ!! では出撃する!!』


 滅茶苦茶な訓示だった。だが敵弾は全て叩き斬り落とすというセレネの強い言葉に異常な自信を感じた兵達の士気はむしろ上がった。しかしY子は昨晩助けてもらったアリリァ乃シャルの事が気がかりになった。


「うおーーーー!!」

「行くぜっ!!」

「美しき司令官万歳!!」


『魔法剣展開! 氷の剣!!』


 セレネが操縦桿から得意の氷系魔法を放出すると、クラウディア元王国で作られた魔法剣に霜が張り氷が纏わり付いて行き、やがては元の刀身の倍程の長大な氷の剣となった。


「フル、あっいやY子殿、とにかく氷の刃を維持する為に魔法力を放出し続けてくれ! あと結界くん散布機はちゃんと装備したな?」

「あいあい」

「何だその返事は!」


 結界くん散布機とは、セレネが自国のユティトレッド魔導王国に大急ぎで作らせていた装備で、魔ローダーサイズの黒い巨大な鞄状の装備から、結界くんが広範囲に散布されて半透明魔呂の瞬間移動を封じる武器であった。工兵が間に合わない敵地に高速で移動した場合に使用する為に考案された物だ。


「………………」


 二人のやり取りを聞きながら、Y子と同じ下の操縦席の後ろに立つカレンは、以前セレネから不審がられ降りろと命令される直前に、Y子の座席の下に隠し置いた小型の魔銃のありかをチラッと確認した。もちろん元敵とはいえ拾ってくれたY子を撃つつもりなど毛頭無い。けれど直前まで義勇兵として戦って来たカレンは武器が無いと落ち着かなくなっていた……


『では全軍、走れーーーッッ!!!』

「オーーーーッ!!」

「行け―――っ!!」

 

 ズシャズシャズシャズシャ……

 ザッギャーーーーー!!

 セレネの号令と共に魔呂と魔戦車以下、ミャマ地域軍全軍がセブンリーファ後川を渡った駐屯地からソーナサ・ガ国のある北に向かって一気に全力疾走を開始した。



 ピコーーン!!

 メド国に設置されたココナツヒメの仮設レーダー隊員の美少女が、髪を振り乱しながら椅子ごと振り向く。


「ヒメさまっ西部隊が単独で移動開始!」

「此処にか?」

「いえっ方向から、ソーナサ・ガです!!」


 ココナツヒメは険しい顔で貴嶋を見た。最近は二十四時間体制で敵の動きを監視していたのだ。


「今は東側の本隊の動きを注視するべきだ、ソーナサ・ガは放置するしかないな……」

「はあ? 何を仰るの?? メッキ野郎こそ一番の脅威よ私は叩くべきだと思うわっ」

「僕もそう思います!!」


 ココナツヒメとサッワは煮え切らない貴嶋にイライラしていた。


「いや、お前達がどう言おうと、二方面同時作戦発動までは我らは動くべきでは無い。それにまだサッワの魔砲弾が準備出来ておらんな?」


 しかし貴嶋も頑として譲らない。


「確かに魔砲弾追加十二発はまだ出来ておりません。今は残弾三発しかありませんが、それでも敵を各個撃破出来る間にするべきです!!」


 サッワも珍しく譲らず強硬に主張する。


「……そうね、私もそう思うわ。生憎クレウのヤツが迷いが生じて今日は出てこれないけど、私達二人で出撃しましょう、サッワちゃん行くわよ!」

「はい!! 必ずメッキ野郎を撃墜します!!」


 遂には貴嶋を無視してココナツヒメとサッワの二人は走り出した。


「あ、コラッ! 儂が指導者だぞ!! 待てい!!」


 貴嶋が拳を振り上げたが、サッワとココナツヒメの姿はもうそこには無かった。貴嶋は他の家臣達の視線が気になったが、振り上げた拳をゆっくりと下げた。


「よし行け! 見事メッキ野郎を撃墜して参れ!!」


 貴嶋は誰もいなくなった空間に指をさして、横で見ていた家臣は軽くコケた。

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