Y子と大アリリァ乃シャル王
「な、何をする離せっ!」
「禍々しい衣装を着て、とげとげしい黒い兜を被っていても、やはり中身は非力な王女のままの様ですね! ぴくりとも動けませんか」
「な、何の話だ、離せっ!」
「リストレイン!」
ヒュンッ!
コーディエは剣士であり強い攻撃魔法等は使えないが、魔力があれば誰でも使える様な低級魔法の拘束輪でY子の両手首を持ち上げて拘束してしまう。
「ああっずっと手の届かない羨望の眼差しで眺めていた貴方が遂に目の前に……しかもこんな魅力的な服装で……ふふ私を挑発しているのですか?」
文言だけを切り取ると普段砂緒が良く言う様な台詞ではある。コーディエはぴちぴちの黒いボンデージ風の鎧に身を包んだY子の身体に、触れるか触れないかの微妙な距離感で腰のラインをなぞる様に手を這わせた。
「やめろっ……嫌ッ止めて!!」
黒い兜の下、雪乃フルエレの目に嫌悪感で涙が滲み始める。
「どれ程イメチェンしていても、声色を低く作っていても分かりますよ、この服の下に誰が隠されているか……」
ジジジ……
言いながらコーディエはいつかミミイ王女が戯れてやった様に、Y子の胸元のジッパーをすっと降ろしにかかった。途端に日に焼けていない肌の首元、真っ白な鎖骨からさらに純白の美しい双丘が作り出す意外に深い谷間が露わになり始める。
「これが……いつも侍女や衛兵達に厳重に守られ、純白のドレスの奥に隠されていた貴方のお身体……はぁはぁ」
コーディエは元は本当に王国に忠誠を尽くし、影から夜宵王女という少女に憧れる好青年だったが、今大軍の将という地位を手に入れて明らかに変貌して来ていた。砂緒とは微妙に違う方向性に地位が上がると駄目になるタイプの男だったようだ。
「い、ぃやあ」
(砂緒助けてっ!!)
Y子は両手首を拘束されたまま、白い肌を緊張と羞恥で真っ赤に染めて身をくねくねと捩った。
「ふふ、そう緊張なさらないで……おみ足の間にもビッショリと汗をお掻きではないですか……」
「やっんっ……」
遂にコーディエがY子の丈の短い黒いミニスカの、ふとももの付け根のぎりぎり下辺りに手を這わせる。Y子こと雪乃フルエレはもはや何も言えなくなり、これからされる事を想像して血の気が引き固く目と口を閉じて耐え始めた。
「ウイ~~~~、酔っぱらっちゃった~~厠、かわやはどこかな~~~ヒック、ここかなっ?」
突如割と大きな声を発しながら、どたどたバタバタと派手に近寄って来る者の音がした。
「チッ、夜宵さま、必ずこの機会に貴方を私のモノとします。ご覚悟を……」
「その様な者知りません」
大声と物音とに警戒してコーディエは一旦Y子を諦めると、声とは違う方向に急いで走って消えた。Y子は大急ぎで胸元のジッパーを上げた。
「……おや、そこにいらっしゃるのはY子殿ではござらんか……これは奇遇ですな」
「シャル王殿か?」
大袈裟に酔っ払いの振りをして出て来たのはナメ国のシャル王だった。
「お一人ですかな、何処かお身体に変調はありませんかな?」
シャル王は何から何までお見通しという感じで、Y子のプライドを傷付けない形で気を遣った。
「い、いえ大丈夫です、申し訳ない。貴方が来て下さって助かったシャル王殿……」
「あはは、お気遣い無く。本当に飲み過ぎてフラフラしておっただけにて。貴方達には我がナメ国を荒らさずに美女達を救って通って下さった恩がありますからな」
Y子が深々と頭を下げると、シャル王は恥ずかしそうに頭を掻いた。
「うむ……あれはあれで面白かった気がするぞ」
「そう言えば……何でも同盟女王の雪乃フルエレ様のお近くには紅顔の美少年シャルという御方がいらっしゃるそうな」
(紅顔の美少年? シャルが??)
「そうらしいな。それで?」
「そこで私は名をアリリァ海から採り、大アリリァ乃シャルと改めたのです。以後見知りおきを」
Y子はシャル王の姿形を知らなければ、余計に美少女っぽい名前になったではないかと突っ込みたかったが恩があるので耐えた。
「そ、そうであるか、アリリァの美しい海を思わせる素晴らしい名だ!」
「うふふ、我が娘も大喜びで気に入り、ダイエットに励んでおりまする!」
「そうか、それでは我はこれで……」
Y子は頭を下げるとスタスタと去ろうとした。
「お待ちを!」
突然シャル王が強く呼び止めてギクッとする。もしかしてこの善人面したこの男も何か邪な事を要求してくるのかと一瞬暗い気持ちになる。
「Y子殿! 貴方は女王陛下の名代でありながら、貴方自身の手勢が御座いませんな。そこで我がナメ国の特に真面目かつ絶対に信用のおける兵士を何名かお貸ししましょう。いつでも常に休まず警護させましょう」
言いながらシャル王はにっこり笑った。敵が現れてもこの様にフルエレには味方も現れる体質だった。
「あ、有難う御座います……なんとお礼を言って良いか……」
「いやいや、お礼等と。どうぞこの場も貴方の天蓋まで付き添いましょう」
等と言ってシャル王はひたすらY子の身を案じた。ナメ国大アリリァ乃シャル王は雪乃フルエレ女王に仕えた後、神聖連邦帝国の姫乃ソラーレにも仕える事となる奇縁の持ち主だった……
話が前後して分りにくいが、今の場面は魔輪に乗ったメランが砂緒に告白してキスを迫られ、その夜に砂緒が眠れなくなってイェラがコンコンとドアをノックをする、丁度その時くらいの出来事であった。今夜にでも出撃すると息巻くセレネであったが、シャル王はじめ多くの者の反対にあい、その夜は眠る事となった。
という訳で、その次の日の朝ベッドの横にいたイェラに驚き、モーニングコーヒーを突き出され、ユッマランド王の帰国を見送った後の砂緒に戻る……
「これこれ、待て待て、待たりゃれい!!」
紫のテカテカした布で目隠しをした砂緒が、早速現地採用した侍女数人を手を前に突き出して情けないデレデレした顔をしながら追いかけていた。
「ほらほら鬼さんこちら、手の鳴る方へ~~~」
「ほほほほほ、鬼さん鬼さんこっちですわよ~~~」
若い侍女達が、呆けた新たな城主と鬼ごっこで遊んでいる。そこに無言でイェラがやって来ていた。
「おやおやおや、新しい鬼さんがやって来たのかな~~、ん、この鬼さんは立派なお胸をしていますね~~」
前に突き出した手が偶然イェラの大きな胸に当たる……昨晩と違いその瞬間にイェラの顔がピシッと怒りの表情になった。
「オラッッ!!」
ガシャッドガッッ!!
イェラはセレネの様に超絶に強い訳では無いが、無言のまま目にも止まらぬ速さで砂緒の目隠しの顔面を殴ると、砂緒は床に顔がめり込む程の強さで頭を打ち付けた。
「あうっっ!!」
殴られてよろよろと起き上がると、ようやく砂緒は目隠しの布を取った。
「何をやっている?」
目隠しを取ったばかりの砂緒の前に鬼の形相のイェラが仁王立ちしている。
「え、何をって鬼ごっこですけど……それが何」
ガシッ!!
また高速で殴られる砂緒。
「痛い、何するですか!」
「何するですか? では無い! 早く軍議を開けっ! そしてすぐにでもメドース・リガリァに侵攻せんか!!」
「いや……それはセレネの軍と両面同時作戦な訳ですから、向こうの都合がある訳で……」
「恐らく向こうも同じ事を言っているハズだ。こちらが動かねば向こうも動き辛かろう、身支度をして来い。衣図ライグも待っているぞ、お前が来次第軍議を開くからな」
「砂緒さん、ちゃんとやって下さいよ」
イェラの後ろから出て来たメランも多少がっかりした顔をしていた。それを見てさすがに砂緒も少しハメを外し過ぎたかと反省したのだった。
「はい、すいません……自室で顔を洗って出直して来ます……」
砂緒は素直に自室に戻ったのだった。
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