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Y子とコーディエ……

 ―セブンリーファ後川、ロータス国付近から北に渡河したポイント。そこに蛇輪は鳥型から人型に変形して降り立っていた。


「SRV、最低二機は寝ずの番で常に誰かが交代で操縦席に座っていろ! いつ砂緒から東側本隊の決定事項が伝達されるか分からんからな魔法秘匿通信を聞き逃すな! それに蛇輪の前に停めている盾役のSRVは絶対に動かすな!」


 用心深く、いつ敵からの超長距離爆撃があっても良い様に蛇輪の前には盾役の魔ローダーを立ててあった。残酷な様だが、もし盾役の魔呂が撃破されても、蛇輪が飛んで行って攻撃した者を返り討ちする為だった。

 しかしいくら待っても砂緒からの連絡など来ないだろう。彼は今城主ライフを満喫しており、当の砂緒の方こそがセレネから何か催促されたら動いたらいいやという駄目司令官ぶりを発揮していた。砂緒は地位が上がれば堕落するタイプであった……


「Y子殿、では早速軍議を始めるぞ!」

「え~~~休憩したいです、今来たばかりではないかっ!」


 セレネは蛇輪から降り立つと、間髪入れずに軍議を開こうと提案した。彼女の中では軍議などせずとも今すぐにでもメドース・リガリァに侵攻したいと思っていた。


「ふざけるなっ! 今砂緒は初めて人々の上に立つという緊張感の中、必死に侵攻の計画を練ったり部隊の再編制をしているんだぞ、Y子殿も負けずに頑張って頂きたい」


 そんな事は一Nミリもしていない。今砂緒はイェラといちゃいちゃしたりお風呂に入ったり、紫色の目隠しを巻きながら、現地採用した侍女達を追い掛けたりしていた。


「わかったわかった……ただこの召使いのカレンちゃんまで軍議の場に連れ込む訳には行かないので、この子を誰かに預ける時間だけでもくれ」

「……私は軍議の場に行っても構いません!」

「まあっ偉いわっ!」


 Y子こと雪乃フルエレが手を合わせた。


「そうだな、カレンも軍議の場に来ればよいぞって……んなるかい! お前は誰かに監視させる!」


 セレネが激怒し掛けた所にコーディエが小走りで走って来た。


「おお、これはY子殿にセレネ総司令官殿、ずっとご到着をお待ちしておりました! お疲れは御座いませんか?」


 コーディエは二人に爽やかな笑顔を向けた。なかなかのイケメンなので相手が普通の女性なら魅力を感じていたかもしれないが、セレネは元々あまり異性に興味が無かった上に今は砂緒一筋であり、Y子は自分の故郷海と山とに挟まれた小さき王国の将軍となったコーディエにあまり接近したくなかったので同じく魅力を感じたりしない。


「おおコーディエ殿、トリッシュ国侵攻に合わせた渡河作戦、見事成功させましたな、ご苦労様です」


 セレネが声を掛けて片手を上げ、Y子もそれに合わせて無言で頭を下げた。


「いえいえ、トリッシュ国侵攻部隊が身を挺して陥落してくれたお陰でこちらは全くのノーマークで成功させる事が出来ました! 全てはY子殿や砂緒殿の手柄と言えましょう。ただ一つミミイ王女という方が名誉の戦死をされたそうで、その事が心が痛みます」


 彼女達を賞賛したかと思えば今度はミミイの死を悼む、そつのないと言うか、如才なくペラペラと話すコーディエを見て少ない記憶の中でこの男がこんな感じであったかとY子は多少気おくれした。もう少し朴訥とした影から王を支える人物というイメージがあったのだが……


「そうなのだ、私もミミイ王女はメドース・リガリァ国征服時に最も活躍する人間であろうと期待していた、とても惜しい人物を亡くした物だ」


 フルエレや砂緒と一緒に居る時の、喫茶猫呼時の本来の素のセレネは恥ずかしがり屋で人見知りが激しいただの少女なのだが、脳内が戦闘モード時や外交儀礼みたいな時は外面で上辺の美辞麗句が言えたので、コーディエのこうした態度の者は王朝内で慣れっこだったから、セレネにはむしろ楽と言えば楽な相手だった。


「おお、それで今何かお困りでは無かったですか?」

「それだっ実はこのY子殿が困り者でな、元敵兵の少女を可愛いという理由だけで小姓にして連れて来てしまったのだ。私はまだ信用しておらぬ故、軍議の間誰かに監視させたい」


 三人の後ろで無言で畏まるカレンに指を差すと、カレンは頭を下げた。


「なる程可愛い少女ですね! では私が国から連れて来た剣や魔法が使える武装侍女達に相手させましょうか。では、Y子殿こちらへ!」


 コーディエは爽やかな笑顔でY子を手招きしたが、Y子はコーディエに近付きたく無かった。


「どうした? Y子殿早くコーディエ殿に」

「どうぞ」

「……はい、では行くぞカレン」

「はい」


 コーディエに招かれてY子が沢山の天幕が張られた駐屯所に向かうと、カレンも後ろに続いた。



 駐屯地の海と山と国の天幕が張られた一帯に来ると、メイド服で槍や剣や魔銃を持った物々しい出で立ちの侍女達が待ち構えていた。Y子は見覚えの無い部隊に多少戸惑った。


「あはは、Y子殿その様に禍々しい出で立ちの御方なのに、侍女が武器を持っていると驚かれますのかな? 私が急遽集めた部隊なのです。駐屯地内でも何があるか分かりませんからな」

「ええ、そうですか」

「ではその子は彼女達がお預かりしましょう、こちらへ」


 侍女達が手招きすると、カレンは彼女達の休息する天幕に連れていかれた。


「では我はこれで」


 用事が終わるとそそくさとその場を立ち去ろうとするY子だった。彼女は同郷の、元家臣のコーディエが苦手だった。


「お待ちを!」


 しかし即座に黒い長手袋に包まれたY子の華奢な細い手をコーディエがガッと掴んだ。


「何です? 手を離してもらいたい。我にはもう用などないぞ!」


 Y子は雪乃フルエレの美しい顔が隠れる兜のまま、多少きつめに言った。


「……実は海と山と国の王様のご体調について、貴方にお伝えしたき事が……」

(え!? お父様に何かが??)


 コーディエの言葉にY子こと雪乃フルエレ、実は海と山と国の家出中王女、夜宵は一瞬で頭がクラクラした。


「え?」

「……此処ではお伝え出来ません。どうぞ二人きりになれる場所で」


 コーディエは深刻な顔をして左右を見ると、小声でY子のとげとげしい兜の耳元で伝えた。



「な、何が? 王様に一体何があったのですか? 早く教えてもらおう」


 Y子はコーディエに言われるまま、不安の中人が誰も居ない、魔ローダー駐機場の備品のコンテナの影に来た。


「ふふ、お優しいのですねY子殿、一回会っただけの赤の他人の王様のご体調が気になりますか?」


 人気が無くなると、表面上誠実そうに見えたコーディエの顔が途端に邪に歪んで笑った。


「……どうなのですか? 早く教えてもらおう」

「ふふふ」


 コーディエは何も答えない代わりに不敵に笑った。


「……嘘なのですね?」


 Y子は不信感たっぷりの声で聞いた。


「ええ、嘘です。王様もお后様も信じられないくらいにお元気でピンピンしておられますよ」

「ならば帰ります。今後貴方とは二人きりにならない」


 捨て台詞を言って立ち去ろうとするY子だが、その直後突然豹変して恐ろしく邪な表情になったコーディエがY子の両手を掴み、力任せに彼女を壁に押し付けた。


「きゃっ!」


 背中を打ち付けられた痛みに、Y子は思わず地声の鳥のさえずりのような可愛い声が出てしまう……

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