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城主 砂耕作

 少し時間を遡る。メドース・リガリァ。


「ミャマ地域から渡って来た兵の総勢は??」

「約一万程!」

「魔ローダーの数は!?」

「十機です!!」

「とにかくゴーレム兵を東と南に展開しろ! 大急ぎだっ!」


 同盟軍のミャマ地域軍が渡河作戦を開始するのはトリッシュ王国陥落後だと思い込んでいたメド国では、トリッシュ攻略中の南からの大軍出現の対応に大わらわとなっていた。


「貴嶋さま申し訳ありません、トリッシュ国から撤退して参りました」


 サッワが独裁者貴嶋の前で跪いた。


「よい、最初からの手はずであったハズだ。これよりスピネルが朗報をもたらすまで防御陣地で敵を迎え撃って行く。それよりも南からの渡河作戦が予想よりも早かった、如何した物か」

「今はまだ次の魔砲弾十二発が届くまでに時間があります。しかし先程の戦闘でまだ三発の魔砲弾が残っており、これで南の陣地を爆撃します。上手く行けば一万の兵の内半数は殲滅出来るはずです。行きます!」


 そこにココナツヒメがコツコツとヒールを鳴らして早足で歩いて来て、貴嶋に一瞬だけ頭を下げた。後ろには無言のクレウも付いて来ている。


「サッワちゃん、そういう話なら私も行くわ。東の同盟軍が再編成するまでに南を叩いておくのよ!」

「ええ、行きましょう!!」


 ココナツヒメがサッワと共に向かおうとする。


「いや待ってくれい! もし東の同盟軍が間髪入れずに即座に侵攻を再開したなら? 其方たちがおらねばすぐにでも此処は陥落するぞ!! それに南の同盟軍は真っすぐにこちらに向かって来るのか、それともソーナ・サガに向かうのかよく分からない。いますぐ攻撃に出るのでは無く、しばし様子を見れば良いのではないか?」


 サッワとココナツヒメは慌てる貴嶋を同時に一瞬無言で見た。


「お、お言葉ですが、今すぐ南の同盟軍を叩けば連中の反抗作戦の出鼻を挫く絶好の機会となります! 兵力を無意味に温存するでは無く、積極的に打って出て行きましょう!!」


 サッワは急に弱気になり渋る貴嶋に力説した。


「そうですわ、今すぐ打って出るというサッワちゃんが正しいですわっ」


 ココナツヒメも透明化と結界くんがまだ未敷設なら瞬間移動を使えば南の同盟軍を殲滅出来る自信があった。


「ココナツヒメ殿……そなたは自国の広大な領土が南におありですからな、此処が陥落しようとも貴方には痛くも痒くも無い。我らはここが本拠地、負ければもう後が無いのです。貴方の様に遊び半分でやっておるのでは無いのですぞ!! 我が軍のサッワを子分の様に扱うは止めて頂きたい!!」


 貴嶋のあまりの言葉にココナツヒメは元より、サッワも唖然とした。


「……なんて事を仰るの!? わたくしが抱悶さまの監視の目を潜り抜け、どれ程危険を冒して魔ローダーを持って来ているかご存じですの!? 打ち解けて来たと思っていたのに心外ですわっ!!」


 最近温和になって来ていたココナツヒメがキッと鬼の様な形相になる。


「そ、そうですよっ! 貴嶋さま、謝って下さい、ココナツヒメさまがどれ程苦心してこの国の事を考えて下さっているか、今のはココナツヒメさまの家来でもある僕もカチンと来ました!」

「サッワ貴様、一体メド国とココナツヒメ領、どちらの家臣なのだ!? この裏切者めが!!」

「なんですって!?」


 危機に際して皆の結束力が上がれば良いのだが、皆の間を取り持つ存在であったエリゼ玻璃音女王がスピネルの北上作戦に参加してしまい、城から居なくなった途端に城内はこの体たらくとなった。


「貴嶋さま大変です!!」


 そこに血相を変えた伝令の者が走って来る。


「何だ、今重要な会議中であるぞ、早く申せ!!」


 貴嶋は苛立った顔のまま、伝令に当たった。


「は、はあ……では、物見の報告によると、南の渡河部隊の拠点に飛行物体が飛来、速さや大きさメッキ調の装甲から、敵旗機の蛇輪だと思われます!!」


 もたもたしている内に衝撃の報告がもたらされた。超長距離爆撃を行っているサッワにとって、最も警戒する敵は、飛行能力のある蛇輪だった。


「ほらほらもたもたしている内に!!」


 ココナツヒメが呆れ顔で貴嶋を見た。


「ココナ様お止め下さい。それよりもメッキ野郎を撃ち漏らすと奴は絶対に飛んで来て斬りかかって来ます。私の武器は接近戦では著しく不利。もはや南の陣地に爆撃するフェーズでは無くなりました。私は次の砲弾供給を待って、東と南西、同時に敵の侵攻を食い止める策に移ります」

「そうね……ここでいがみ合っていても仕方ないわね……私ももっと瞬間移動を効率的に射撃と組み合わせる事を考えるわ……じゃ、貴嶋さん!」


 ココナツヒメは貴嶋にウインクした。


「うむ……頼む……」


 貴嶋は立ち去るココナツヒメに軽く頭を下げた。多少ギクシャクしながらの再始動となった。



 ―トリッシュ王国の朝。緊迫するメドース・リガリァをよそに、トリッシュ国を占拠したばかりの事実上の城主となった砂緒は異様なくらいにノンビリしていた。ノンビリし過ぎである。


 城主 砂耕作


 遅めの朝、私がベッドから起き上がると私の目の前に美人秘書のイェラくんからモーニングコーヒーが無造作に突き出された。


「さあ飲め、いつまで寝ている、早く目を覚ませ!」


 彼女は多少乱暴者なので言葉遣いがアレだが、実はフィアンセが此処を立って即、関係を持ってしまったばかりの朝でもある。乱暴者の彼女も多少はにかんでいるだろうと想像していたが。


「イェラ、少しは変わるのかと思いきや、いつものまんまですねえ」

「何がだ? 私があんなくらいでいきなりお淑やかになるとでも思ったか? これまで通りビシバシ行くぞ。私はセレネとは違うからな」


 セレネとは私のフィアンセでありユティトレッド魔導王国の王女で同盟軍の総司令官だ。彼女のコネを最大限悪用して、私は今このトリッシュ国を占拠している同盟軍本隊の指揮官となったのだ。で、ありながらそのフィアンセが去った途端に即浮気。と言っても当のセレネとは清い関係のままなのだ。イェラは私とセレネの関係を誤解している、けれどそれは私がセレネと毎日一緒に風呂に入っているだの、一緒に寝ているだの大口を叩いているからか……


「何をぼーっとしている? これからすぐにユッマランド王がご帰国遊ばすぞ! お見送りだから早く服を着て出て行け」

「エ~~~、まだまだイェラといちゃいちゃしたいです~~」

「私はいちゃいちゃ等しない、さっさとしないと斬るぞ」

「エ~~~、七華はもっと優しかったですぞ!」


 うっかり言って私はハッとした。七華はイェラが一番嫌いな王女だった。


「七華……? 七華と何が?? 詳しく言ってもらおうか」


 恐ろしい顔のイェラが剣を抜こうとする。


「い、行ってきま~~すっ!」


 私は大慌てでウェイター服を着ると、ユッマランド王のお見送りに向かった……



「砂緒さん何をやってたんですか!? もうユッマランド王が出て行く所ですよ、ミミイ王女の事、忘れずちゃんと言って下さいよ!!」


 私の事を熱く慕いまくる部下の魔導士メランが注意をしてくる。彼女は最近急に委員長キャラとなり、いろいろと小言を言ってくるが、それもこれも私の事を大好きだからなのだろう、くく。


「分かってます!」


「ユッマランド王御出立! 皆の者控えよ!!」


 儀仗兵達が爆撃を避ける為に早速本国に帰国するユッマランド王を先導する。彼は最近戦死した私の部下の一人、ミミイ王女の父であるのでその事を謝罪しなければいけない。


「ユッマランド王よ、陛下の御指導のお陰で無事トリッシュ国を占拠する事が出来ました。感謝申し上げます。しかしながら大切なミミイ王女が敵との壮絶な戦いの後に名誉の戦死をなされなんとお詫びを申し上げて良いか分かりません。自身の不徳を恥じ入る次第です。今後も一層奮闘努力し、メド国を撃滅して必ずや王女の仇を討つ所存!」


 私は王の手をとって泣く寸前の顔を作った。


「おお、ミミイの事は残念であったが、彼女の犠牲の上に今の戦況があると思っておる。必ずや敵を討って彼女の恨みを晴らせ! 其方は常にウエイター服を着てふざけた奴かと誤解しておったが、なかなか有能な強い男の様だな……我が軟弱な息子共と変わって欲しいくらいじゃ。よし、ワシはユッマランドから本隊の監督を続けるゆえ、存分に働いてくれ!」

「ハハッ」


 なんと寛大な王様であろうか……私とミミイ王女は特に仲が良かった訳で無く、どちらかと言えば疎遠であったのだが、彼女の犠牲の上にこの城を占拠出来たのは事実だった。


「ユッマランド王ご出発!!」

「行ってしまわれたか……という事は遂に完全にこの本隊とトリッシュ城の主はこの私……よし片っ端から現地採用した侍女達に手を付けようか……これ爺、布団を敷け!!」

「……何を言ってるんですか砂緒さん、本気で殴りますよ?」


 メランは怖い顔をして鈍器を握り締めた。


 ……等と取り越し苦労で警戒するメド国の人々の心配をよそに、当の砂緒の心は一時的に占拠しただけのトリッシュ城主を満喫して緩みまくっていた。今此処にメド国が攻め込んでいれば大損害を被ったであろう。

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