突然の攻撃と逡巡
「おお衣図ライグ、聞いて下され敵陣に乗り込んで早速の戦利品ですぞ! この子は此処での現地妻に致す所存ハハハハハハハハハハハ」
「むがーもがーむがーーー!!」
砂緒はほぼ戦国時代の乱取りしたてホヤホヤのガラの悪い武士の様に、肩に担いだ泣き叫ぶカレンを見せつけた。それを見て衣図ライグは冷や汗を掻いて無言でくるりと回転した。
「いいか、野郎ども、砂緒はこうやってやっちゃいけないって例を示してるんだ、分かったな!!」
「へ、へい?」
「はい……」
何人かの男達が顔を引きつらせて返事をした……
「い、いや流石にそれは無理ありやすぜ大将~~、それは所謂砂緒ギャグだよな??」
顔つき的にはこっちの方が犯罪者にしか見えないラフが砂緒の真意を質した。
「当たり前ではないですか。仮にも私は立派なエセフェミニストですからな、この可憐な少女が戦闘に巻き込まれ無い様に多少手荒な手法で避難させているまで。私の心は常にフル、いえセレネにありますから」
どこまで本気なのかいまいち不明だが砂緒はきっぱり言い切った。
「自分でエセフェミニストと言ったりフルエレ嬢ちゃんとセレネ総司令官を言い間違えたり、突っ込みどころ満載なんだが、そろそろその子を放流した方がいいんじゃねえか?」
さすがに衣図ライグもこのまま砂緒の行状を放置したまま市街地に攻め込む訳には行かないので、少女を開放する事を提案した。
「……おお、では間を取って猿ぐつわを外してみましょう!」
「何が間を取ってなんだ? 一応俺達急いでるんだが」
等と言っている間に砂緒がシュルシュルと少女の猿ぐつわを外した。
「バカーーー!! 死ね死ね!! サッワくんに降伏しろって言われたけど、アンタみたいな連中になんか絶対に屈しないんだからっ!! うわーーーーーん」
猿ぐつわを外されたカレンは一通り罵詈雑言を言うと、恐怖のあまり泣き出した。
「さすがに可哀そうになって来ました」
「よく言うよな~~」
「いや、本当にそんな事ぁどうでも良いんだよ! 俺達は早く市街地の戦に挟み撃ちに行きてえんだよっ!」
砂緒達は酷い事に泣き叫ぶカレンを無視しながら会話を続けた。
「なんですとっ!? 敵の本丸を目の前にして、わざわざバック後退するですと!? 衣図ライグ殿は国主となられて勘が鈍りましたかな?」
「俺だって砂緒にでも本気で反撃する事もあるんだぜ?? 何でもいや良いってもんじゃねえからな!」
珍しく砂緒と衣図ライグが険悪な雰囲気になり、慌ててラフが間に入る。
「まあまあまあ、これまでも一緒に問題を解決してきたじゃありやせんか! どうです、一つその肩に抱えた子に訊いてみればどうですかね?」
苦し紛れにラフが何だか良く分からない解決法を言った……
「という訳です、そこな可憐な少女、どうしたら良いと思いますか? 市街地に攻め入るか城に攻め入るか、どっちが良いと思います??」
「あんた達が全滅すれば良いのよ! きっとサッワくんがやっつけてくれるわ!!」
カレンは敵にでもこれ程ズケズケと文句が言える性格でも何でも無いのだが、砂緒と衣図ライグが実際には恐怖を感じさせる様な悪人タイプでは無い事を本能的に感じ取って、これ程好き勝手に言い出したのだった。
「はぁ、そのサッワくんとは一体な……」
等と砂緒が言い始めた直後だった。
ヒュルルルルルルルルルルル……
砂緒の耳の中に何度か聞き慣れた音が微かに響いた。
「いけない、全員しゃがんでっ早く!! あとこの少女を庇って!!」
突然砂緒が真剣な顔で叫び、肩の少女を衣図ライグにひょいっと投げた。
「きゃっ」
「お、おお、おうっ何なんだ??」
衣図ライグが投げられた少女を受け取ると、既に砂緒はバレーボール選手の様に中腰で両手を前に合わせ、さらにその両手からはバリバリと小さな雷を発散していた。
「砂緒?」
「いいからしゃがんで下さいっ!!」
「お、おう」
「右……いや左……さっきの雷イージスは出るのか!?」
「だから何だよ!!」
衣図ライグの前で砂緒はカニの様に横方向に右に左に動きまくる。
「来たああああああ!!」
ヒュルルルルルルル!!!
「おっらあああああああああああああああああああ!!!」
ガシィイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!
「どっりゃああああああああああああトーーーーーーーースッッ!!!」
突然飛来して来たサッワの魔砲弾を、砂緒は必死の形相で空高く弾いて撃ち上げた……
「なんだあああ!?」
「まだ立つな!! 出ろ雷ッッ!!!」
バシイッッ!! ドーーーーーーーーーン!!
「きゃーーーーーーーっ」
空高く跳ね返し撃ち上げた魔砲弾を、トリッシュ国から最大限離れた上空で砂緒の雷イージスが破壊した。凄まじい破裂音と光にカレンが叫び声を上げた。
バシーーーン!! ガシーーーン!!
激しい魔ローダー同士の戦闘の最中、突然自分達が取り囲むトリッシュ城壁の中に魔砲弾が撃ち込まれ、さらにそれが跳ね返されて上空で炸裂した。双方の陣営が戦いを忘れて一瞬ポカーンとした。
「何!? どういう事だっ!!」
『よくやったわサッワちゃん!! 何処に当たったの??』
ココナツヒメは歓喜の声を上げてサッワに聞いた。
『……市街地と中心の城の間の堀の前の空白地です……」
サッワの声は明らかに苦しみに満ちていた。
『え、どういう事なのサッワちゃん? 外してしまったの? 私は市街地にひしめく敵兵目掛けて撃ちなさいって言ったわよねっ』
ココナツヒメは多少イラつき始めた。
『申し訳ありません。城をかすめれば城の王が降伏し戦闘が早く終わるかと思いました』
『何を言っているの? 戦闘が早くおわっちゃ駄目なのよ!! どうしてしまったの? 早く第二撃やりなさいっ!!』
ココナツヒメは自分の魔呂戦闘も忘れてサッワに激を飛ばした。
『隙ありっ!!』
ガシーーーン!!
その隙を見逃さず、Y子のル・ツーが斬り込みに掛かる。さらにその周囲では五機のSRV達が四機のレヴェルを数で圧倒し始めていた。
「これで仕留めるっ!!」
その中の一機のSRVがシャクシュカ隊パート2の美女が乗った一機のレヴェルに、遂にとどめの剣を胸に突き刺した。
ザシュッッ!!
『セリカッッ!!』
それを見た瞬間ココナツヒメが叫んだ。
『サッワさま、ココナさま……お力になれず……』
ドーーーーン!!
遂に元々此処に居た五機のシャクシュカ隊Ⅱに、Y子の撃破に続き二機目の犠牲者が出た。これにより六対四という状況になり、ますますココナツヒメは不利になった。
『サッワちゃん、セリカが死んだわよ。早く撃ちなさい、敵の戦意を挫くの!!』
『セリカが……!?』
サッワはまだ出会って短期間にも関わらず、シャクシュカ隊パート2の美女達の顔と名前を完全に覚えていた。サッワの脳裏にカレンとシャクシュカ隊の美女達、双方の顔が浮かび、どうしたら良いか分からなくなった。




