砂緒の作戦② 東洋の魔女
「砂緒はろーーー!」
呼ばれてすぐに笑顔の兎幸が割と元気いっぱいにやって来た。この子には砂緒同様、ミミイ王女の戦死は余り頭には無かった……
「おお、兎幸怪我はもう良いのですか? 身体は大丈夫ですか? 触診しましょうか?」
無表情の砂緒が能天気なテニスウェアの様なコスチュームの、兎幸の健康的なムチムチした身体に手をわきわきしながらにじり寄る。
「ダメよ、やめなさい。兎幸も不用意に砂緒に近付かないで」
「砂緒さんいい加減にして下さい、時と場所を考えて下さい」
「何を言っている? 今はそんな時では無いぞ。早く策の説明とやらをするのだ」
Y子とメランとイェラが一斉に止めに入る。
「なんでぇ砂緒女子に人気者だな、嫉妬するぜ……」
衣図ライグがつまらなそうに言った。
「そうですね、言葉で説明するよりも、リハーサルを兼ねて実践で説明しましょうか」
砂緒のその言葉で皆は魔ローダーを準備した。
「まず、残存の魔呂操縦者の中でも四人、いや五人の手練れを選んで下さい」
サッワの魔法スナイパー攻撃によって三十五機いた魔ローダー部隊は、ミミイの白いレヴェルを含めて九機撃破され、二十六機に激減していた。砂緒の言葉によって、その中から五機の操縦者が選抜される。
「ではまず先頭にY子殿と兎幸の速き稲妻Ⅱが立って、その後ろに電車ごっこの要領で一列に並んで下さい」
「……スマン、デンシャごっことは何だ?」
イェラが聞く。
「電車も知らないのですか? 田舎者ですねえ、んー二両編成の路面念車みたいな感じです」
「普通に一列に並べと言え」
「分かったわ!!」
言われるまま巨大な二十五Nメートルの魔ローダーが一列に密集して並ぶ姿は異様だった。
「それで全機中腰になって、前の機体の腰辺りを優しく掴んで下さい」
「???」
「その姿勢のまま六機一列になって進んでみて下さい」
さらに砂緒に言われるまま、巨大な魔呂が腰を掴んで一斉にムカデ競争の様に進む姿はまたさらに異様だった。
「ふむ、最初にしては良い感じです」
「あの……話が見えないのですが」
「遊んでいるのではあるまいな?」
『あのーー我は一番前でどうするのか?』
Y子が一番前で何をするのか聞いて来た。
「はーーい、では私をこけしの様に大切に両手で握って下さい!!」
『こけしって何??』
「こけしは何でも良いです。とにかく両手で私を大切に握って中腰になって下さい」
言われて仕方なくY子のル・ツーは砂緒を握ると、両手を揃えて中腰になった。
「はい、完成しました! これで勝利間違い茄子です!!」
「いや分からんわっ!!」
「あっはははははは」
イェラが眉間にシワを寄せ、衣図ライグがよく分からないが大笑いした。
「兎幸、魔ローンを二機上空に待機させて下さい」
「うん!」
さらに砂緒に言われて兎幸は魔ローンを二機上空に待機させた。
「兎幸、敵に撃たれた時に最後は弾道計算が出来たのですよね?」
「うん」
「では敵が発砲した直後に射線を推測して、ヒットする面に私を持って行く事は出来ますか?」
「うん、二機飛ばせば何とか出来ると思うよ!!」
「ふむ……では今回は兎幸が速き稲妻Ⅱを操縦して、兎幸が疲れたらY子殿は回復を使って下さい」
「分かった……」
つまり砂緒を盾として一列で進み、そのままじりじりと前進するという恐ろしく原始的な策だった。
「そんなに上手く行くのかねえ??」
衣図ライグが疑いの声をあげたが、皆も同じ気持ちだった。
『ではリハーサルしましょう! 残存している魔呂に思い切り岩を投げさせて下さい!!』
言われて選抜された機体から外れたメランが魔呂の掌に丁度フィットするくらいの岩石を拾った。
『遠慮なく思い切りぶつけますよ!!』
メランのSRVはピッチャーの様に大きく振り被ると遠慮なく憎しみを込めて思い切り岩石を投げつけた。
「兎幸、魔ローンで弾道計算を!」
「うん!!」
「おっらあああああああ!!!」
カーーーーン!!
兎幸が中腰のままバレーボールの様に構えると、丁度良い高さに砂緒を調整し、全力硬化した砂緒が片手で岩石を叩き落とし、落とされた岩石は粉々に砕け散った。
「うむ、出来そうです」
「本当かい? 本当にこんな岩石程度じゃない、見えない速さの敵弾を弾き返せるのかよ??」
衣図ライグがまだ疑っていたが、全員同じ気持ちだった。
『ハハハハハハ、心配性ですなあ、安心して下さい、もし失敗ならば皆順番に死ぬだけの事ですよ!』
『怖い事言わないで下さい!!』
メランが叫んだ。そして取り敢えず砂緒達は魔呂から降りた。
「これで私達六機が一列で先頭を行き、その後ろに地上部隊と魔戦車が進みます。そして最後列に残りの魔呂が続きます。全て魔呂一機分の厚みの単縦陣で突き進むのです。で、その間にトンネル部隊が地下を突き進みます。これぞ必勝の策、東洋の魔女作戦です!!」
砂緒は自信ありげに言い切った。
「いや……確かに条件が前回と同じならそれで良いだろうな。けれどもし敵攻撃が真横から行われればヤバいんじゃねえか??」
「いえ、敵が真横から攻撃しようとすれば、もはやオゴ砦やロミーヌから観測出来る位置になります。敵は超長距離攻撃の利点を生かす為に姿を隠して、必ずトリッシュ国の向こうから攻撃してくるはずです」
「むーーん、そう言われると説得力ある様な無いような……」
「いや、私は砂緒を信じるぞ。その作戦に掛けようと思う」
真っ先にイェラが砂緒の策に賛同した。
「イェラ……やっぱり貴方は優しいですね」
「うむ、私は砂緒を信用しているぞ」
「あっ私も急にその策で良い気がしてきました!!」
次にメランが賛同した。
「じゃあ我もその策に乗ろうではないか」
「私もっ!!」
「なんだいなんだい、結局女どもは砂緒に賛成かよ。じゃあ俺は地下トンネル部隊を自ら指揮するわ。前回の大敗の責任を取るぜ!!」
「大将、死なないでくださいよ~~~」
ラフが目にハンカチを当てて別れを惜しんだ。
「お前も一緒に行くんだよ!」
「え……」
そしてそのまま王様の到着を待つ間、休憩出来る者は休憩を、その他の者は部隊編成をする事となった。
―バックマウンテンの奥深い山中のどこか。
「ふんふんふん、しゃわわわわわわ~~~~」
ラ・マッロカンプ王国のセクシーなメイドさんのメアは居住コンテナに設置されたシャワーを浴びていた。若々しい全裸の白い肌がシャワーのお湯を玉にして弾き、幾本もの透明なお湯の流れがそのまま豊かな胸の谷間やお尻の膨らみの上の泡アワを綺麗に洗い流しながら落ちて行く。
「ふんふんふんふん……………………」
メアは完全にお湯で身体を流し終わったが、何か考え込む様に美しい全裸のままその場に留まる。
「寒い……」
コンコン
直後にシャワー室のドアを叩く音が。
「メアー、早くしろ! 後ろがつかえているんだぞ!」
「王子何をしてるんですか!? 何故覗かないのですか!? 美女がシャワー浴びてるんですよ!!」
「お前の身体なんか誰が興味あるか、早く出ろ!!」
「まっ」
メアはバスタオルを巻いてシャワー室を出た。緩めに巻いたバスタオルからは豊かな胸がはみ出そうになっているが、ウェカ王子の目には全く入っていない。
「あの……王子、もうそろそろソーナ・サガに着いてもいいのでは? なんか異様に時間が掛かってる気がするのですけど」
「気のせいだろう? 我々はちゃんとソーナ・サガに向かっているから安心しろ!!」
「あの……王様にソーナ・サガに行けと命令された事覚えてますよね? まさか嘘付いて全然違う所に向かってないですよね??」
「何をごちゃごちゃ言ってるんや、ウチなんてもう全裸で待ってるんやで、しょーがないなあ、王子一緒に入ろか?」
「そうだな、風邪ひいちゃ駄目だし、瑠璃ィ一緒に入るか……」
「何でそうなるの!?」
メアは全裸の瑠璃ィに激怒して先程の話を完全に誤魔化された。
 




