同盟軍Y子隊出陣!! 魔法のスナイパー 上
Y子以下メランとミミイ王女達は、オゴ砦西の集結ポイントに到着した。ここは衣図ライグ達が独断専行してトリッシュ国に侵攻し、サッワとココナツヒメによって撃退され大敗して、一瞬空白地帯になっていたのだが、すぐさま同盟軍が大兵力で進出し我が物としていた。トリッシュ国にもメドース・リガリァ本国にももはやこんな空白地を取り返す意味は無かった。この地には特に北部列国のイ・オサ新城から続々と兵員と魔戦車と魔ローダーが結集し、おびただしい数のテントが張られ一大拠点と化していた。
「おおっやっと来たかフル……いやY子」
「ああっイェラじゃないっ! いやイェラ殿よろしく頼む……」
「ややこしいわねえ、もう」
「もう慣れて来たわよ」
Y子とイェラのギクシャクした挨拶を見て、メランとミミイは遠い目をした。
「おおおおお、嬢ちゃんじゃねえかあ? しかし嬢ちゃんなんて格好してんだ? 趣味変更かあ?? 砂緒は??」
「ああっ衣図ライグさんっ! お久しぶりで……あっ」
雪乃フルエレが今はY子である事を忘れて、笑顔で衣図ライグに駆け寄ろうとして、ハッとしてようやく自己設定を思い出して戸惑う。
「はいはいはいはいはい、私共にお任せを」
「大男さん来て下さい!!」
ミミイ王女とメランは戸惑う衣図ライグの腕を引いて連れて行った……
「いいですかっあの方はフルエレさんであってフルエレさんでは無いのです」
「今はY子殿という謎の黒い女騎士さんという設定ですからお守り下さい」
ミミイとメランは近くのY子をちらちら見ながら、衣図ライグの耳元で言った。
「なんだぁ? ややこしいなあ……まあいいや、やってみるぜ」
「という訳で、よろしく頼むぜ黒い女騎士Y子さんよぉ……」
「ああ、こちらこそ頼む。そうだ、最近見ないがリズさんはいかがお過ごしかな?」
「……Y子ちゃんはリズの事は知らねーよな? いやまあ凄く元気に暮らしてるが……」
「あっ」
もはやグダグダだった。
「とりあえずY子、ちょっと聞いてくれ、セレネは総司令官になって、フルエレは同盟の女王、猫呼はギルドとビルのオーナーになって衣図ライグ大将は西リュフミュランの国主、その上メランなんて魔呂乗りの大軍の副将格ではないか、それが私はずっとずっと最初からフルエレと行動を共にしているのに、何故か私だけが幹部扱いでは無いのだ、不公平ではないのか? 何か私が悪い事をしたのか? したなら言ってくれ!!」
イェラ魂の叫びだった。
(イェラ……そんな事を気にしてたの? それを言うなら砂緒はどうなるのよ、彼なんてセレネの愛人を公言してるのに……)
「い、いや、イェラ殿が数々の作戦に参加してくれた事によって今がある、もはや幹部同然だ」
そこに衣図ライグが割って入った。
「よし、じゃあ今回のトリッシュ国攻めの地上軍はイェラが総大将って事にすりゃいいぜっ俺は副将で良い」
「ほ、本当ですか大将……」
「あのー盛り上がってるトコ申し訳ないけど、衣図さんが独断でトリッシュ国に侵攻して大敗して、しかも東の本国からの兵も数百人しか居なくて、今東西リュフミュラン軍合わせて三千くらいなんですよね? 総数一万を超える本隊の総大将とか決める権限は貴方には無いですよ、セレネ総司令官も貴方をめちゃめちゃ怒っていましたし」
誰に対しても物怖じしないメランが大男の衣図ライグに向かって容赦の無い事を言う。
「そそそ、そういやあそうだなあ、いやあ悪いなイェラ」
「くっ」
衣図ライグはバツが悪そうに頭を掻いた。
「いえ、そうだな、地上部隊総数一万四千の総指揮官は今回はイェラ殿にお任せしよう。貴方が一番信用出来る。衣図ライグ殿は独断の失敗を反省して今回は彼女の手足となって忠実に働いてもらおう」
「ははははは、有難いっ分かったぞY子! そういう事だ衣図ライグさんハハハ」
Y子の決断を聞いて途端に元気になって砂緒の様に腕を組んで大笑いするイェラだった。
「結構調子いいなお前……」
本来なら此処に集結する地上軍は総数約二万の大軍だったはずだが、ラ・マッロカンプと東リュフミュラン本国がやって来ず、さらに衣図ライグの大敗により総数約一万四千にまで目減りしていた。
「まあまあ何はともあれ陣容が整ったわね!」
「よし、二日後に全軍進軍とする!! ただし最初のターゲットのトリッシュ国は非常に弱小国、物見によれば本国から数機の魔ローダーレヴェルがやって来て配備されているが、我らとの戦力差は明らか。決して油断して舐めてかかる訳では無いが、我らの魔戦車五十両と魔ローダー三十五機を前面に押し立て堂々と進軍する。そして軍使に開城を迫り、大きな戦闘を避けて勝利を得たいと思う……」
Y子はセレネから指令された直後から温めていた戦略を皆に伝えた。
「な、なんだそれでは私の出番は殆ど無いではないかっ! むしろ軍の暴発を防ぐ為の総大将かっ? 騙したなY子、許さんぞぷんぷん!!」
「イェラ……ダメかな?」
身長が高くグラマーな女戦士のイェラは、それに反して子供の様に頬を膨らませて可愛く激怒のポーズをした。それを見て周囲に居た各国の諸将は一瞬でイェラの魅力の虜になった……
(か、可愛い……)
(セクシーだ……)
(命令されたい、叱られたい……)
「……うむ、でもまあそのY子の方針に従おう。それで良いな衣図ライグさん」
「おおーいいぞ、俺は何だっていいぞ」
「はーーい!」
「はい」
―そして進軍の当日となった。
「Y子、地上軍一万四千、魔戦車五十両、滞りなく準備が整った。心置き無く魔ローダー部隊が前を進んでくれ」
『ええっありがとう。地上部隊の工兵の皆さんは進軍に並行して結界くんの敷設をしっかり頼む! 魔ローダー操縦者の皆は結界くんNEOの所持確認を!』
「はい!」
「所持OKです!」
「持っています!!」
「私ももってるよーっ! よし行こうY子!!」
Y子の操縦席の後ろに陣取る兎幸も大喜びで結界くんNEOを首からぶら下げていた。
『よし、全軍進軍!! 堂々とトリッシュ国に入城するっ!!』
「ハッ!!」
「はいっ!!」
(……リナ、メドース・リガリァの者共を殲滅してあげるわっ見てて!!)
「おおっ!!」
Y子が搭乗する魔ローダール・ツーとメランの赤いSRV、ミミイ王女の白いレヴェル=ザンザスⅡを中心に、同盟軍の本体の大部隊が集結ポイントからトリッシュ国に向け進軍を開始した。
『……サッワちゃん、同盟軍本体の大部隊が間抜け面晒しながら行列を組んで我が領内に侵入したわ。進軍と同時に結界機器を敷設して行ってるわよ』
進軍する同盟軍の間近にクレウの透明化魔法が施されたココナツヒメの魔ローダール・ワンが居た。いくら結界くんを敷設していても、瞬間移動を使用せず徒歩で移動すれば易々と接近出来るのだった。
『ココナツヒメ様、御無理なさらない様。それでは初弾試射開始します。弾着観測お願いします!』
『ええ、撃っちゃってちょうだいなっ!』




