セレネ独壇場メドース・リガリァ征伐の最終軍議
―タカラ山監視砦改め、タカラ山新城建設地。
ここでは同盟軍本陣が置かれ、各国の魔ローダー配備や兵員補充と、それにイ・オサ、ミャマ地域、ここタカラ山の各新城がある程度の完成するのを待っていた。
「……という訳で、兵員約三万、魔戦車百二十両、魔ローダー予備機を含めて五十機という戦力になります。これらを各ポイントに集結させ一気にメドース・リガリァを征伐する準備がもうすぐ完了します。後は総司令官殿の御下知を待つだけです!」
クレウとココナツヒメの部下達が集めた情報はほぼ正確だった。ただしユティトレッド魔導王国が保有する三十機の量産型魔ローダーSRVについては、約半数以上が操縦者不足により本国に置き去りにされていた。それでも旗機・日蝕白蛇輪を含めて五十機にものぼる大戦力に違いは無かった。
「うむ……短期間でよくぞここまで揃えた、大儀であるぞっ!」
「ははっ」
黒いミニのタイトスカート姿の総司令官セレネが壇上で腕を組みふん反り返って、士官の報告に満足気に応えた。今やセレネは豊臣秀吉の小田原征伐時の様に各国にアゴで号令する立場となり、得意絶頂にあった。
「ではコーディエ殿、ミャマ地域軍の司令官として仮設の橋を掛け、Sa・ga地域の南西側から渡河しメド国を奇襲する策、お頼みしますぞ」
「ええ、東側の本隊よりも多大なる戦果を挙げて見せましょう」
セレネに言われて海と山とに挟まれた小さき王国から全権を託されたコーディエが頷いた。中部小国群の中で戦争で降ったのでは無く、唯一自主的に同盟に参加した海と山と国は名目上はセレネに命令される立場では無いが、魔ローダーという決戦兵器をユティトレッドから供給を受けている以上、事実上はやはり他の同盟参加国同様、配下という立場であった。
「シャル王殿、さらにご参陣頂いたロータス王殿、コーディエ殿に付き従いミャマ地域軍を支えて頂きたい」
「ははっ」
「御意っ」
やはり二人の中部小国群の王達もセレネに恭しく頭を下げた。
「ではY子殿、Y子殿はイ・オサ新城のリュフミュラン軍、新ニナルティナ軍、ユティトレッド軍、ラ・マッロカンプ軍、さらにロミーヌ城のユッマランド軍がオゴ砦西方の集結ポイントに到達するまでにオゴ砦に出向いてもらいたい。集結ポイントの地上兵約二万と魔戦車五十両と魔ローダー三十五機が兵力の主力となる以上、Y子殿は雪乃フルエレ女王陛下の名代として、本隊の指揮をお願いしたい。そしてそのまま開戦後真っ先にトリッシュ国を陥落して頂く」
突然セレネに本隊の司令官を指名されて、Y子こと雪乃フルエレ女王は呆然とした。
(えっ……私!? 私がそんな大軍の指揮をするの!? ……なんで?? 意地悪? セレネの意地悪なの!?)
リュフミュランの冒険者ギルド部隊数十人を率いる所から始まって、今度はとうとう突如約二万の大軍の指揮は、フルエレにはちと荷が重すぎた。
「あ、ああ、あの……私は、いや我は……その」
「そうあからさまにあたふたされますな。まず貴方にはユッマランドのミミイ王女とメラン殿が副官として付く上に、各国軍には衣図ライグ殿の様な直接の指揮官が存在致します。貴方が兵士一人一人に細々と指示されます訳では無いのですから、そう最初から地獄に叩き落とされる様な顔をされますな。本隊の総指揮官としてデンと構えてられるだけで良いのですぞ」
セレネはフルエレの兜で見えない顔を想像して、腕を組んで薄ら笑いを浮かべながらY子に言い放った。
(セレネのヤツ……ちょっと得意分野だからって……喫茶猫呼に戻ったら散々意地悪してやるんだからっ)
Y子は兜越しにセレネの後ろでパイプ椅子に座る無表情の砂緒をちらっと見た。
「はははははははははは、安心して下さい、Y子殿には戦術のイロハを手取り足取り私が教えますゆえ、大船に乗った気持ちで居て下されっ」
(えっ砂緒……来るの? それはそれで少し安心)
突如総司令官セレネの横で、何の役職でも無い砂緒がウエイター姿で大声で言った。
「お前居たんかっ! てか砂緒はあたしと一緒に来るんだろーがっ。お前はタカラ山新城軍付だぞっ」
セレネに言われて砂緒は一瞬戸惑ったが、すぐにセレネの言う事を承諾した。
「だ、そうです。すいませんねY子殿」
「あ、いえ、砂緒殿はセレネ総司令官の愛人殿らしいので当然です」
Y子がぴっと片手を出して言うと、会議室のあちこちから小さな笑い声が聞こえた。
「何か?」
セレネのひと睨みで笑い声が消えた。
「……ふふっしかしこれ程の大戦力を集結させ、一気呵成にメドース・リガリァを陥落させる……これ程の気宇壮大な大作戦があろうかっ! くふふふふふふふ……あーーーーはっはっはっはっはっはっ!!!」
(セレネさーーーーーん?)
セレネは満足気に腕を組んで上を向き、大笑いをした。砂緒はその後ろでセレネの姿を目を細めて呆れて見つめ続けた。
「あ、あのう……お話しの途中で申し訳無いのですが、二つ程修正のご報告が……」
大笑い中のセレネに副官の一人が申し訳無さそうに追加報告を上げてきた。
「……何だ、手短に言え」
「あのう、リュフミュラン軍ですが、当初リュフミュラン軍と西リュフミュラン軍合わせて七千から八千程にもなる予定が、まず本国の方が何かと理由を付けて兵士を出すのを渋り、また西リュフミュラン軍も衣図ライグが独断でトリッシュに侵攻して傭兵の多くを失い、当初の予定の半数以下になってしまいました……」
「ほ、ほほう?」
セレネは報告を受けて、すぐにぷくっと頬を膨らませて砂緒を睨んだ。
「さらにラ・マッロカンプ軍ですが、イ・オサ新城に来ておりません。何か独自の作戦を実行する等と言って結局来ない可能性が……」
「ああ、あの国はウェカ王子とか言う頭のヤバい王子が指揮官らしいからな、仕方が無い! それでも我が軍は空前の規模に違いはないのだっわーーーーはっはっはっはっはっ!!」
セレネはいきなり自慢の大作戦にケチが付いてしまって嫌な気持ちになったが、すぐさま気を取り直して再び大笑いを始めた。
「はいはいはい、どーどーどー、セレネさん落ち着いて下さい、なんだか悪役っぽくなっていますよ。もう会議は閉会して一緒に部屋に戻りましょう」
「う、うん……そうだな、じゃあ閉会!」
砂緒とセレネは仲良く手に手を取って控室に戻って行った。
「ぷく~~~~~~~~~」
「えっ? 何なんですセレネさん……」
控室に戻ると、突然セレネは顔を真っ赤にして、ほぼフグの様に頬を最大限膨らませて砂緒を睨み付けた。
 




