メドース・リガリァそれぞれの心の準備……
「女王陛下、お言葉ながらその様な危険な策に同行する事には反対で御座います」
エリゼ女王と愛し合う独裁者貴嶋は即座に反対の意見を述べた。
「いいえ、この作戦の成否は女王の威厳にあります。訳も分からぬ者を替え玉に立てる様では話が通りません。それに……皆が死力を尽くしてメド国の為に戦う時に、わたくしだけが城でぬくぬくとしている事などもはや出来ません。今回の作戦、わたくしが必ずや成功させましょう!」
「はっ身命を賭して女王陛下をお守り致しましょう」
「スピネルッッ!!」
本心では実はエリゼ玻璃音女王に特に忠誠を誓っている訳でも何でも無いスピネルが早々に女王の提案を受け入れると、即座に貴嶋がこれを叱った。
「お止めなさいっ貴嶋、私はスピネルが立てると言う様なお飾りの女王なのですか? わたくしに決定権は無いのでしょうか?」
「い、いえ決してその様な事は……」
「それでは従いなさい。この作戦、私が同行します。皆の者良いですね?」
家臣達が全て起立し、女王陛下に深々と礼をしたため、貴嶋も不服ながら従ったのだった。
軍議が終わり、皆議場を後にする。
「何故……何故あの様な事を私へ相談も無く!?」
やはりまだ納得出来ない貴嶋は歩く盲目の女王にまとわり付いて苦言を言い続けた。
「相談等したら絶対に反対されるのは分かっていました。しかしああしないと駄目だと考えたのです。貴嶋もいい加減に分かって下さい」
「私の行動は何もかも全て貴方様の為なのですぞっ! その当の貴方にもし何か危険でもあれば……」
言葉の途中で侍女達の目もはばからずエリゼ玻璃音女王は貴嶋の胸に抱き着いた。
「その言葉、信じて良いのですね……」
「もちろんです……」
貴嶋の言葉は本心だったが、もちろん国を大きくしたいという自身の野望が全く無い訳でも無かった。
サッワが軍議から出て来ると、シュクシュカ隊パート2の妖艶な美女達が満面の笑顔で手を振り、飛び上がって大歓迎をしていた。
「ココナツヒメさま、シュクシュカ隊パート2の皆と親睦を深めて参ります!!」
「まあっサッワちゃんったら相変わらずエッチな少年なのね、うふふふふふ」
「はいっ! ではっ!」
サッワはよこしまなエッチな少年というよりも、以前とはうって変わって爽やかな感じでココナツヒメに敬礼をした。サッワは美女達に歩み寄ると、ちらっと後ろを振り返りココナツヒメがクレウと歩いて行くのをしっかり確認した。自分の為に危険を冒して動いてくれた彼女の心を傷付けたくないと思ったからだ。
「最初に君達に言いたい事があるんだ」
「まあっ何ですかっ! 今皆でサッワ様とお風呂に入ろうって相談してた所なんですっ!!」
途端に美女達はサッワを取り囲み、数人が彼にしな垂れかかった。
「今度の戦いはとても過酷な戦いになる……蛇輪という凶悪な敵も出現する。そこで……もし命の危険がある時は構わず脱出したり降伏したりして欲しい」
サッワの思わぬ言葉に魅了が掛けられている美女達は一瞬意味が理解出来ず、ぽかーんとした。
「あ、あの私達は全て身も心もサッワ様の奴隷なんですよ!!」
「そうです、命を懸けて最後まで戦いますからっ!!」
「どうか死ぬまで戦えとご命令を……」
妖艶な美女達は哀願する様な目でサッワに訴えた。サッワは全てこれはチャームの力だと分かってしまった以上、以前の様に喜んで接する事は、もはや出来なくなっていた。
「いや、生き残って次の作戦に備える事も戦士の義務だ、お前達は決して戦死するな、それが隊長である僕からの最大の命令だ、分かったか?」
サッワの強い意志を感じて、魅了を掛けられている彼女達もその命令に従う事にした。
「はい……サッワ様のご命令に従います……」
「で、でもギリギリまでサッワ様の為に命を懸けて戦いますっ」
「……でもちゃんと危ない時は脱出します!」
「それで良いでしょうかっ」
「うんいいよ」
サッワが笑顔で応えると子犬の様に皆が喜んだ。
「それで……今夜皆で一緒にお風呂に入る事はどうしますか??」
「もちろん入るよ。皆で楽しもうよ」
「やった!!」
「もう隊長さんはエッチなんだからあ~~~」
サッワは美女達を引き連れて歩いて行った。
スピネルはここの所忙しく会っていなかった弁当屋の娘に久しぶりに会った。それだけでは無く、花屋で自ら買った簡単な花束を彼女に渡した。
「え……これは何??」
弁当屋の娘は喜ぶというよりもあからさまに怪訝な顔をした。
「いや何、いつも結局ただで弁当を食べ続けたからな、代金代わり、感謝の印だ」
「え……変だよ」
「……花束はダサいか? もっと他の物の方が良かったか、高価な宝石とか」
スピネルはアゴに手を当てて真剣に悩んだ。
「違う……物凄く嬉しい。朴訥な貴方がこんな風な事してくれる様になって凄く嬉しい……」
「だったら喜べ、いつも明るいお前が何故顔を曇らせる?」
スピネルは本気で悩んだ。
「私の事馬鹿だと思っているでしょう……もう皆、メド国がかなりヤバイって気付き始めてる。もうひと頃のように良い話は全く聞かなくなって、住んでる人達は監視されてる気がして、珍しい文物も入って来なくなった……もう負けちゃうの??」
娘は俯いて思い詰めたように言った。
「いや……簡単に負けはしない。それがしは今度重要な作戦に参加する。それで挽回しよう」
以前のどこか投げやりな態度と違い、スピネル自身が気付かない内に彼はこの地に根付いて来てしまった様だ。
「……それで私との関係を清算しようとして、こんな物をくれるの? だったらもっと高価な物をちょうだい……」
娘は言葉に詰まりながら言った。
「おお、そうかそれは気付かなかったな」
「嘘よっ、高価な物なんて要らないっ! お願いだから無事に帰って来て!!」
弁当屋の娘はスピネルに抱き着いた。
「安心しろ、死ぬ事は無い。必ず作戦を成功させて帰って来よう」
スピネルは自身でも良く分からない感情で弁当屋の娘の肩を抱き寄せた。




