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走るサッワ、トリッシュ王国を救え

 サッワは直後に迷わず魔ローダーVT25スパーダの方に走った。


(一人や二人、五人までくらいなら僕一人でも倒せるかもしれない、けれど十人、二十人いや百人千人とか既に城内に侵入していたら? そんなの到底相手出来ない。だとしたら魔呂に乗って外に待機してる本隊を叩くしかない!)


 サッワの考えた通りだった。撤退したと見せかけていた衣図ライグの軍は、実は有未レナードに昔仕掛けられた作戦と同じで地下道を掘りトリッシュ国の下水道網に侵入、各所から飛び出て夜陰に乗じて城兵を急襲していた。そしてある程度番兵や検問の門番を叩いた所で城外にいる、引き返していた本隊を城門から招き入れる手はずとなっていた。


「早く、とにかく早く魔呂に乗らないと。魔呂を取られるのが最も最悪だっ」


 これもサッワの考えた通りだった。侵入した衣図ライグの兵達は忠臣蔵の様に城内の武器庫の武器も探し出し破壊する事も任務だった。そんな連中に魔ローダーを発見されたら目も当てられない結果となった事だろう。とにかくサッワは城の裏庭の魔呂に向けて走りに走った。


「油断したなっ」


 サッワが走る目の前でまた検問の番兵が後ろからグサッと背中を刺された。


「油断したなっ! 貴様もっ!!」


 足音が立つのも気にせず全速力で走り寄ると、侵入者の背中から切り掛かった。侵入者は悶絶してのたうち回る。


「……一人で良かった」

「はぁはぁ……た、助け」


 背中を刺された番兵は即死する事無く、サッワに助けを求め足を掴んで来たが、サッワは無情にもそれを振り解いた。


「済まないな、僕は正義の味方じゃ無いんだ。本当にごめん」


 再び走り出すサッワだった。



 ガシャンッ!! バリンッ!!

しかしその頃既に東側の正門が内側から開かれ、続々と部隊が静かに音を立てず侵入を始めていた。突入した部隊はまず近場の義勇軍が居る建物群に火矢と火球魔法を掛け、寝ている内に次々殺害して行き次に隣の下町に襲い掛かっていた。そこはカレンの実家のある場所だった。

 ガシャンッ!!

突然窓が破られる音がしてカレンが目を覚まし周囲を見ようとした直後だった。


「静かにしろっ声を出すと殺すぞ!!」

「ひひひ、結構良い体した可愛い女の子じゃねえか、夜襲は他の連中に任せて俺達は少し楽しもうか」

「むぐむぐうううう」


 カレンは必死にベッドから暴れて起きようとするが、両手両足を大の大人の男二人に押さえつけられ、口にも布を抑え付けられどうする事も出来なかった。今からされる事を想像して恐怖と絶望で涙がこぼれる。


「暴れるなよ、ひひひひひ」


 ベッドの上で必死に右に左に体を捩ろうとするカレンの胸元に男達の手が迫った。

 グサグサッッ!!


「うぐっ」

「げえっ」

「ひっ」


 突然カレンの目の上で、自らを押さえつけていた男達の喉元から切っ先が突き出る。力が緩むとすぐさまカレンは横に回転して跳ね起きた。暗い中で目を凝らすとラン隊長と部下が居た。


「ヤバイな……大丈夫か?」

「ラン隊長!! はい大丈夫です、ありがとうございます!!」

「サッワさんに金貨を貰ったからな、最優先で此処に来たぜ。家族の無事を確認したら俺達も戦いに行くぞ!」

「はいっ!!」


 カレンとラン隊長達が確認するとカレンの家族は無事だった。家族が止めるのも聞かず、カレンはそのまま魔銃を持つと隊長達と敵との戦いに身を投じ走って行く。


「サッワはこんな時、何やってんだ? 一緒じゃ無かったのか!?」

「違いますよ、きっと……彼は今スパーダの元に走ってるはずです」

「なんで!?」


 走りながら次々に義勇兵が合流し、街を襲っている侵入者と戦いを始めた。しかし狭い門を通りこれ以上続々と外側から本隊が城内に侵入すれば、トリッシュ国の負けは必至だった。



「どうしやすか、もう物音も立てても良いでしょう~、魔戦車を突入させますか~~?」


 門の外側でラフが衣図ライグに相談する。


「いや、中でどんな抵抗があるか分らん。市街地までは死んでも良い様な最近雇ったばかりの傭兵にやらせとけ。もう少し中で義勇兵を片付けさせた所で一気に無傷の俺達が中心の城まで突入するぞ。ここまでやりゃあ魔呂でも出てこない限り勝利は確実だ。慌てるこたぁねえな」

「へいへい」


 衣図ライグは昔自分達がリュフミュランに侵入された時と完全に逆の立場となって、腕を組んで冷徹に作戦の推移を見守った。しかし地下道から侵入させた自分達の工作員は真面目に要所を急襲したが、開けた城門から突入した傭兵は不真面目その物だった。



「あった! スパーダは無事だ!!」


 サッワは叫ぶと再び操縦席に入り込み、今度は内側からベニヤ板を蹴り飛ばし操縦席のハッチが閉まる様に急いでゴミを全て外に放り出す。


「頼むぞ、ちゃんと動いてくれスパーダ!」


 操縦席に座り込むと、操縦桿を握り魔ローダースパーダを起動させる。サッワからは見えないが暗闇の中で両目が光り、下を向いていた顔が上を向いた。


「壊れるなよ……」


 経年劣化でいきなり自損しない様に、徐々にゆっくり体を動かし立ち上がる。


「立った……よし……」


 そのまま軽く手足を動かし、ちゃんと戦える事を確認すると、横に突き刺さっていた剣を引き抜いた。


『王様、城兵の皆さん起きて下さい!! 今城門から敵兵が侵入を始めています!! 急いで市街地に兵を差し向けて下さい!! 外側の本隊を今からスパーダで叩きに向かいます。いいですかーー!!』


 サッワは魔法外部スピーカーのフルボリュームで念の為に二回叫ぶと、この魔ローダーが辿って来た道であろう、反対の西側の大通りを通って急いで城壁を飛び越えて外に出た。本当はカレンが居るであろう市街地や下町や城壁に近い義勇兵の建物に向かいたかったが、それでは乱戦になっている場所で味方まで踏み潰しかねない。魔呂を有効に使うにはやはり外側の本体を撃退するのが一番と思ったのだった。

 ガシャンガシャンガシャン

二十五Nメートル大の、プレートアーマーをそのまま巨大化した様な魔ローダーが鎧の揺れる音を響かせて城壁の外側を半周する。



「義勇兵達はほぼ制圧が完了しつつありやすぜ、そろそろ全軍で一気に突入しませんか~~?」

「そうだな、障害は無くなったか。この騒ぎが城に伝わる前に一気に中心の城まで行くぜ!!」


 城壁の中では城に向かったトリッシュ側の義勇軍の伝令の兵も全て途中で討たれ、孤立無援となったラン隊長を中心とする義勇軍の一部がカレンの自宅がある下町に立て籠もっていた。義勇兵達が時折窓から顔を出し魔銃を撃つ。しかしその直後に激しい反撃があって、兵達はすぐに顔を隠した。


「まずいな……このままじゃ全滅だぜ」

「隊長さん……お城に知らせたんですか?」

「当たり前だろ、何人も行かせたんだが、辿り着いて無いな……」

「どうしよう……怖い。サッワくん助けて!!」

「本当にサッワはスパーダに乗れるのか??」

「はい、サッワくんは来ます!! きっと……」


 カレンはひたすらサッワの到来を祈った。



「よし、魔戦車突入!!」

「へい待ってやしたっ!!」


 ガシャンガシャンガシャン……

 衣図ライグがラフに命令した直後だった。二人の耳に迫り来る音が聞こえ、視線の先に巨大な魔ローダーの影が入った。


「げっ魔ローダーがいやがった」

「しかも外から来たっ!?」


『メドース・リガリァから支援に来た、お前らは全員此処で死ねっ』


 サッワは城門から城壁の中に突入寸前だった魔戦車に巨大な剣を向けた。その直後、魔戦車が猛烈に魔砲を発砲開始した。

 ドドーーン、ドンドン。

暗闇の中、何発もの魔戦車の魔砲物理弾がスパーダの装甲に当たって炸裂する。


『そんな物が効く訳無いだろうがっ!』


 サッワが剣を振り上げた直後だった。

 ドーーーーン!! バタンッ!!

振り上げた剣ごと、撃たれた片腕が落ちた。


「ゲッなんでだよ!? ちゃんとカバー掛けとけよバカーーー!!!」


 サッワは操縦席で叫んだが、勢い付いた魔戦車はさらに猛烈に攻撃を開始した。


「何だありゃ、弱いな? よし、大型攻城魔法も撃て!!」


 衣図ライグの合図と共に、さらに激しい攻撃がスパーダに向かって始まり、巨大な魔ローダーの体中に次々と爆炎が起こった。堪らずサッワは腕で顔を覆った。

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