ココナツヒメの復帰 トリッシュ襲撃
―まおう軍まおう城、玉座の間。
「きゃははははははははは、や、やめろ~~くすぐったいのじゃベアー、どうしてお主らはすぐにくすぐるのじゃ、この変態どもめ~~きゃはははははは」
まおう抱悶はペットで尚且つ友達である熊のベアーら沢山の熊達と遊んでいた。熊耳を付けた可愛いまおう抱悶は熊達のアイドルであった。
「あ、あのう……ご多忙のところ申し訳ないのですが……」
そこにふらっとクレウが現れ、恐れおののきながら跪き小声で言った。クレウから見てもまおう抱悶からは禍々しい魔力が放出されていた。
「きゃはははははははははは」
「あのう……」
全く相手にされないので少し大きめの声で叫ぶ。するとようやくクルリと首をクレウに向けた。
「なんじゃ? この貧相な男は誰じゃ?」
「ココナツヒメ様の家臣で御座います」
直ぐに近くに居た侍女が抱悶に耳打ちした。ココナツヒメが牢獄に入れられて以来、クレウは必死に周囲に溶け込み、一応ココナツヒメの家臣として認識されていた。
「ココナの家来か、それが何じゃ?」
熊と相対していた時とは全く違う冷たい視線を投げかける。
「は、はい。もうそろそろココナツヒメ様を牢獄から出して頂けないものでしょうか……」
クレウはまおうに殺されるのを覚悟で言った。
「なんじゃあ、まだ入っておったのか……出せば良いじゃろがい。いちいちめんどくさい事を聞くな」
まおう抱悶はめんどくさそうに拍子抜けする程簡単にココナツヒメの出牢を認めた。
「有難き幸せ、抱悶さまに感謝申し上げます!」
「もう良い、ベアーと遊ぶのに忙しいのじゃ、早う行け!! こ奴に鍵を渡してやれ」
抱悶はぴらぴらと掌を振った。渡された鍵を持ってクレウは牢獄に走った。
ガチャガチャ、ガチャリ
重たい鉄格子の扉が、クレウの鍵によって開かれる。牢獄の奥で三角座りでぶつぶつ独り言を言っていたココナツヒメがふっと音に釣られて顔を上げ、クレウと目が合った。
「あらクレウじゃない、いらっしゃい。ちょうど今開店した所なのよ、おでんがグツグツ言ってるわよ」
「はあ? ココナ何を言ってるんですか!! 早く牢をお出になって下さい。メドース・リガリァが大変な事になっております」
何やら感じの良い小料理屋の女将になった妄想をしていたココナツヒメがハッとした顔をして立ち上がった。
「やばいやばいですわ。わたくしとした事が、少しトリップしてた様ですの」
「そんな事より現在の状況をレクチャーいたします」
「待って、そんな事よりまず一回抱き締めてちょうだい」
しばらく牢獄に居たとは思えない身綺麗なままのココナツヒメはしばしクレウに抱き着いた。クレウは仕方なく周囲の牢番の冷めた目にも耐えてココナツヒメの腰を抱き、長い髪を撫で続けた。
「……もう良いでしょうか?」
「そうね」
ようやくココナツヒメはクレウから離れると、クールな顔でさっと髪と服を直した。
「それで今どんな状況なの~?」
まおう城内のココナツヒメの自室に移動した二人は椅子に座ってクレウから話を聞いていた。
「それはもうてんやわんやです。まずセブンリーファ後川以南の地は全て同盟軍によって陥落しました。それに伴って敗残兵達が逃げ惑い、多くの捕虜が出た模様」
「あらまあ……それは大変よね~~」
ココナツヒメは冷たい飲み物を飲みながら眉間にシワを寄せた。
「さらにセブンリーファ後川以南の地の守りを鉄壁とすべく、いきなり新城を三つ程も建設を始めた模様。これを奪還するのは如何にも困難でしょうな」
「それにしても良く調べたじゃないの、偉いわあ……」
「はぁ……私の以前の仕事は諜報や工作、暗殺など……貴方さまの家来達を勝手に使っていろいろ調べております」
「私が居ない間に逃げれば良いものを、どうしたのぉ?」
ココナツヒメは小首を傾げた。その動作が妖艶なココナツヒメとしては幼くとても可愛く見えてクレウはドキッとした。
「何処かに飛んで落下して死んでしまう所を助けられたのです。その恩義だけは返そうと」
「それだけ~~~? んふふ。所でメドース・リガリァ本国とスピネルとサッワちゃんは? 焼きもち焼かないでね」
ココナツヒメが悪戯っぽく笑った。
「メド国は防衛体制構築に大わらわです。何しろ魔ローダーがスピネルの物を残して全滅したのですからな。事実上メド国本国だけを集中的に防御する為に配下の各国からは兵を引いており、支配体制がぐらついている模様」
「ほうほう」
ココナツヒメは頬杖をつきながら聞いた。
「で、スピネルはメド国本国で貴嶋に付きっ切りで毎日軍議ですが、サッワ少年は何やら行方不明ですな。何でも一人でオゴという所を奪還する様命じられて放逐されたとか」
「なんですって!! サッワちゃんに何て事をするの……何故そんな事に!?」
今までの余裕のポーズと違い、本気で驚いてがばっと立ち上がるココナツヒメを、クレウは下からじろっと見た。目の前に形の良い二つのバストがスケスケのシースルードレス越しに強調される。
「何でも家臣の一人が誤って命令を出してしまったとか」
クレウの諜報能力は恐ろしく正確で早かった!!
「早く見つけなきゃですわ……でもその前に……」
「その前に??」
ココナツヒメはふわっとクレウにしな垂れかかった。彼女は牢から出たばかりだというのに、途端に甘い香りが広がった。
「取り敢えず、まずはベッドに参りましょう。ね、クレウ出所祝いよ、良いでしょう??」
長いまつ毛の美しい瞳と艶やかな唇で真横で訴えられてクレウはどうする事も出来なかった。そのままくっつきながらフラフラと歩き、二人はベッドに倒れ込んだ。
―トリッシュ国。
深夜になって、サッワは義勇軍の若者が入る寮に案内された。
「カレンありがとう、ここでもう眠るね、帰り気を付けてね」
「うん! サッワも明日までぐっすり眠ってね、なんと言っても英雄さんなんだから」
「あはは、もう良いって! じゃあお休み」
「お休みなさい!!」
カレンは一旦歩き出すと、再びくるっと振り返って大きく手を振った。カレンは義勇軍に参加しているが、街の中にある実家に寝泊まりしていた。
「……眠れない」
もうかなりの深夜になっても眠れないサッワは、ずっと天井を見つめる事にも飽きて、他の義勇兵達を起こさない様にベッドから起き上がると、そっと建物の外に出た。
「今頃ココナツヒメさまどうしてらっしゃるかな……」
言った途端にサッワの脳裏に甘い香りと包容力のある肉体の感触が思い出された。
「駄目だ……魔呂の点検でもしよう……」
結局サッワは眠る事も出来ず、ベッドには戻らずに徹夜で魔ローダーの点検をする事にして、魔呂の置かれてある城の裏庭に向かおうとした。
深夜とは言え、トリッシュ国の城壁内でも怪しい人間が居ないか、あちこちに城兵や義勇兵が立っている……はずだがサッワがいくら歩いても検問一つ無かった。
「ん、寝てるのかな?」
検問所の一つに辿り着いて座り込む人間を見つけ、近付いて見た。
「大変だっ!! カレンが……行かなきゃ」
サッワが検問所の警備兵を見ると、首元を切られて既に絶命していた。サッワは魔呂とカレンの住む街、どちらに走るべきか迷った。
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