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サッワと放置された魔ローダー

 それからその晩は勝利を祝う宴会がトリッシュ城壁内各所で開かれた。


「同盟が何だって言うんだ! 俺達は中部だ、Sa・ga地域だってんだ、それが北部同盟って名前な時点でふざけてる、そんな物に参加出来るか!」

「そうだそうだ、中部の事は中部が、Sa・ga地域の事はSa・ga地域が決める!!」

「俺たちはどこまでも戦い抜くぞ!! サッワさんみたいな人がいりゃ怖い物無しだっ!」


 勝利の宴会の酒の勢いであちこちで怪気炎が上がる。サッワはそんな声を聞いて何故か身を小さくして聞こえない様に関わらない様にしていた。


「どうしたサッワ同志、君は今回の撃退の英雄じゃないか、何故宴会の中心に行かない?」


 ラン隊長がカレンと共に小さくなっているサッワに声を掛けた。


「いえ、別に僕一人の力で勝てた訳じゃないので……」


 サッワは自分の本分は魔ローダー操縦者だと思っているので、こんな局所の戦いで一時的な勝利をしてもあまり意味は無いと感じていた。


「もうラン隊長、サッワは貴方達みたいな人と違ってメドース・リガリァの繊細な人間なんです! 変な宴会に巻き込まないで下さいなっ。それよりも奪ったお金、返さなくて良いんですか??」


 カレンが立ち上がって指を立てて、子供を叱る様にラン隊長に詰め寄った。


「あ、そ、そうだなっいますぐ金庫からあの金を持ってくるぜ、サッワさん悪かったな」


 ラン隊長は頭を掻きながらサッワに弁解した。


「いいえ、あのお金は本当にメド国からの軍資金です。皆さんで有効的に活用して欲しいです」

「サッワ君何言ってるの?? 大切なお金じゃないの??」


 いきなり金貨の返金を断ったサッワを驚愕の顔でカレンが心配する。


「ううん、本当にいいんだ。あれは此処で有効に使った方がいいんだ」


 サッワは美女達と十分豪遊したと思い、本心からもうあの金貨は要らないと思っていた。


「本当ですかい? そそりゃどうも……確かにちゃんとネコババしないで有効に使わせてもらうわへへ」


 如何にも怪しい返事をしてしまうラン隊長をサッワはちらっと見たが別に何も言わなかった。


「だけど、隊長さんには約束して欲しいんだけど、カレンと家族の人だけは絶対に守ると約束して欲しいんだ」

「そりゃもう命を懸けて守るぜ!」


 カレンはサッワが口走った事を聞いてドキッとした。


「ちょっと待ってよ、サッワ何処かに行ってしまうの? 私の事……守ってくれないの??」

「違うよ……もちろん君をちゃんと守るよ」


 言われてカレンはドキッとして頬を赤らめた。でも、何時かサッワがどこかに消えてしまうのではという心配は消えなかった。


「そうか……それじゃあ、こっからは二人きりで過ごした方がいいな」

「ちょ、ちょっと変な気を遣わないで!」


 カレンが少し恥ずかしそうに怒ったが、それをサッワが制止した。


「うん隊長さん、しばらく二人きりにして欲しいんだ」

「え、サッワくん!?」

「お、おう」


 カレンはさらに激しく赤面して俯いた。もちろんサッワは以前のフゥーに対する様に意地悪したいとかそんな訳では全く無かった。



 カレンは魔法ランプがあちこちに点灯するトリッシュの夜の街の中をドキドキしながらサッワと二人で歩いた。といっても我々の世界程明るい訳では無く、適度に綺麗な夜空の星々が見えた。


「一体……どんなお話しがあるの? 突然二人きりになりたいだなんて」

「このままじゃ駄目なんだ!」

「え? 何が」


 カレンはてっきりロマンチックな話があると思いきや、サッワのテンションが全然想像と違った。


「このままじゃトリッシュ国はすぐにいつか負ける。カレンやラン隊長が心配でならないよ」

「考え過ぎよ……」


 カレンは真剣に切羽詰まるサッワの肩に手を置いて落ち着かせた。


「いいや、僕は目の前で見たんだ。尋常じゃない強さの魔呂が同盟に居て、そいつに味方が次々にやられて爆発して行った……なのに僕だけ生き残って……ううっ」


 サッワの目の前で部下の美女達が乗る魔ローダーが同盟の蛇輪に連続撃破された事は、当人の知らず知らずの内に激しい心の傷を付けてしまっていた。


「サッワくんは悪くないわ、状況は良く分からないけど……まるで魔ローダーに乗ってたみたい」

「そうだね……僕の力なんて」

「魔ローダーなんて滅多に乗れる人なんて居ない。あんなのは別の世界の人達の話よ」

「そうだね」


 いつしか二人は三つ重ねて空き地に置いてある土管に並んで座って星を眺めていた。


「……もう何十年も放置してあるスパーダだって、誰が乗っても何も反応しないもの……」

「……ふーーん、そうなん…………え? スパーダ、何だって??」

「ん? お城の裏に放置してある魔ローダーの事なんだけど……」


 カレンの何気ない言葉にサッワは驚愕して、両肩をがしっと掴んで揺らした。


「何処に? 何処に魔呂があるの?? 今すぐ行ける? 案内してよ」

「痛い、痛いよサッワ、離して!!」


 言われてカレンをガックンガックン揺らしていた両手をぱっと離す。


「ご、ごめん……痛かった? でも今すぐ魔ローダーを見せて欲しい」

「うん、いいよ、一緒に行こう!!」


 カレンは間近で両肩を触られた事で少し動揺して赤面していたが、笑顔で受け入れた。



 数十分歩いてお城の裏側の庭園に辿り着くと、いきなり擱座して座り込む魔ローダーが居た。放置されているとは言っても城の庭園のオブジェとして転用されているのか、草や蔦が絡まる事も無く掃除が行き届いて綺麗な状態ではあった。ただそれは荒れ果てていないという意味なだけで、装甲表面等の見た目は数十年の年月による経年劣化は感じられた。


「ちょっと見てみる!!」

「あっ気を付けて」


 サッワはいきなりカレンを放置して、脚や腕の装甲を器用に伝って最初から開いている操縦席のハッチに辿り着く。美術品や博物館の様に中に入られない様に、ベニヤ板が貼ってあったが、それを必死に足で何度も蹴り破る。

 バキバキッ!!


「あ、なんて事するの……」


 カレンはドキドキして周囲を見回した。その間もサッワは気にする事無く、操縦席に座り込む。


「むむ、ちゃんと座席も操縦桿も健在だ……動くか?」


 サッワは操縦桿を握り、少し緊張したが手慣れた様子で魔力を注入して行く……

 ヴィーーーン

すぐさま何かが回転する音がして、魔法機械が起動する感触が感じられた。

 ピ、ピピピ……

操縦桿の間にある小型の魔法サブモニターに文字が浮かんだ。


「……VT25-スパーダ……」

「凄いよ、目が光ってる!! こんな事初めてっどういう事なの??」


 カレンが下から見上げて大声で叫んだ。サッワはカレンを驚かせない様に指先をぴくぴく動かしてみると、サッワには指先が動いている感触が得られた。


「……スパーダ、使えるかもしれない」


 サッワは後日色々調べようと思い、その日はそのまま降りてカレンを安心させた。


「凄い……目が光ったよ! 本当にサッワって何者なの!? 凄い人なんじゃないの??」

「何者なのって少し失礼だなー」

「そ、そんな失礼な意味じゃないもん! でもごめん」


 二人は放置された魔ローダースパーダの前で笑い合った。



 一方その頃メドース・リガリァ本国。


「スピネルよ、その方が救出してくれた南側へ派兵していた兵達、Sa・gaの地の守りに活用するぞ。ワシからも礼を言いたい」


 重臣達との会議でメド国独裁者貴嶋は唯一信頼するスピネルに軽く頭を下げた。


「頭をお上げ下さい、それがしは任務を果たしただけの事。しかし多くの兵を南側に残してしまった。それが悔やまれます」

「うむ……その者達は全て虐殺されたと宣伝してある。国内の結束力を高める為にも重要な事じゃ」

「はい……」


 スピネルは同盟の雪乃フルエレ女王がそんな事をする人間では無いのは誰よりも承知していたが、何も言わなかった。


「所で……サッワが牢を出たと聞きましたが……帰れば挨拶してやろうと思っていたのですが、何処にも見かけません、どこに居るのでしょうか?」


 スピネルが軽く周囲をキョロキョロするジェスチャーを交えて聞いた。


「うむ、目立つ場所に出すと家臣に伝えてある、そうだな!」


 横に控える家臣に貴嶋が聞いた。


「……はい、サッワには一人でオゴ砦を奪取して来いと命令してあります!」


 家臣が得意気に胸を張って言った。


「何ッ」

「何だと!?」


 スピネルと貴嶋が同時に驚愕の大きな声を上げた。それを聞いて家臣の血の気が引く。


「あ、あの何か? 目立つ場所に配置するとは罰として死地に赴かせるという事では??」


 政治家である家臣の忖度に過ぎる対応だった。


「違うわっ! 文字通りパレードの先頭を歩かせたり、城壁の上に毎日立たせたり、本当に物理的に目立たせるという意味じゃ! なんという事をしてくれた……お前は謹慎じゃ! 引き連れい!!」

「ひっお許しをっ」


 貴嶋が命令すると、家臣は警備兵にずりずりと連れられて行った……


「困りましたな。サッワはココナツヒメをおびき出す良い存在。しかしそれがしは、それだけでは無く、サッワ自身にも光る才があると思っておりました」


 貴嶋が目を見開いた。


「なんと……スピネル程の実力者がサッワの事をそれ程買っていたとは……」

「あの歳で大人に混じって魔呂で戦うなど、それだけで脅威的なのですよ」


 スピネルは遠い目をして語った。


「そうだな、その通りだ。今からでもサッワを探し出すべく各地に捜索部隊を派遣しよう」

「それがよろしいでしょう」


 いつしかスピネルはメド国の中で貴嶋の腹心ともいうべき立場となっていた。

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