表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

351/1097

追放されたサッワの戦い

「ヒイイヒャッハアアーーーーー!!」

「勝てば官軍、領土は切り取り次第なんだぜーーーっ!!」


 三両の魔戦車を先頭に集団で突き進む、とてもガラの悪い男達の中心に雪乃フルエレから買った巨馬に跨る衣図ライグの姿があった。北部海峡列国同盟軍の総司令官であるセレネは、イ・オサ砦の新城などを整備している間に同盟各国に魔ローダーを配布し、兵士の補充を進めた上で一気にメドース・リガリァ本国を包囲殲滅するという方針で、それまでは各国に勝手に手出しする事は禁止していたのだが、彼はそんな事は完全に無視してオゴ砦から進出して、ロミーヌ王国の北辺りにまで前線の陣地を敷き、そこから数度出撃していた。

 以前は西隣の強国旧ニナルティナ王国から度々侵攻を受け、砂緒と雪乃フルエレが突然現れるまではそれを辛くも撃退していたリュフミュランの衣図ライグであったが、西リュフミュランの領主にまんまとなった後は、後顧の憂いなく自身が今度は他国に悠々と攻め入る立場に成り代わっていた。



「サッワこっちよ!」

「う、うん」


 カレンに連れられて、トリッシュ王国の城壁を駆け上がるサッワだった。


「おお、カレンちゃん! そいつは誰だ??」

「メドース・リガリァ本国のちゃんとした軍人さんよ!」

「子供じゃねえか!」


 城壁に陣取るトリッシュ国の義勇軍の連中から奇異な目で見られるサッワだった。


「気にしないで!」

「気にしてません」


 言いながらカレンは並べてある武器を見せる。


「魔法は?」

「撃てないよ」

「じゃあ、弩と魔銃どっちを使う??」

「じゃあ魔銃で!」

「はい」


 カレンは立ててある魔銃からガチャッと一丁をサッワに渡す。


「使い方は?」

「……知っています」

「ごめん」


 すぐにサッワは小さな紙の箱に入っている魔力が込められた魔法弾をライフル型の魔銃に込めていく。魔銃は魔法カートリッジに入っている魔法力で推進力を得て、さらには同時に魔法力で炸裂する仕組みだった。だから基本は撃ち手は魔力が無くとも扱う事が出来た。


 ドーーン ドドーーーン!!

方々から傭兵をかき集め四千人ほどに膨れ上がっている、衣図ライグの西リュフミュラン軍の魔戦車と魔導士部隊が攻撃を開始する。すぐに魔導士の大型攻城魔法が城壁のあちこちに落下して被害を出し始めた。


「きゃーーーーっ」

「大丈夫だから。滅多に当たらないよ……」


 怖がるカレンをサッワが軽く抱きしめた。間近でカレンの顔をみて何故だか凄くドキドキしたサッワだった。


「あ、ああ、ありがとう……そ、そうね。も、もういいわ」


 そう言って離れたカレンも薄っすらと赤面していた。

 ドゴーーーーン!!!


「ぎゃーーーーー!!」

「きゃーーーーー!!」


 等と言っている内に凄く至近に大型攻城魔法の火球が落着して、見ていた近くの男達が吹き飛ばされた。


「や、やっぱり怖い、サッワくん怖い。どうしよう」

「ちっくそーーここからじゃこっちの攻撃は届かない!」


 城兵が悔しがる様に、こちらには魔導士が圧倒的に不足していた。一方的に攻撃を続けられるトリッシュ国だった。


「駄目だ、このままじゃどんどんこっちに被害が出てしまう。撃ってみる!!」

「えっここからじゃ無理だよっ!」


 サッワは止めるカレンも無視して城壁の銃眼の石に魔銃を固定して構えた。ボルトを引き、一発の魔法カートリッジを装填すると、魔銃ライフルの照準を非現実的なくらいの長距離に設定して一番近くにいる魔導士に照準を定めた。


「はぁはぁ……揺れるな……呼吸……」


 呼吸の脈動と共にかすかに揺れ動くサイトのリズムの中に魔導士の姿をかすかに捉える。

 ドンッ!!

サッワはサイトの中心に魔導士の身体を捉えた瞬間を逃さず、トリガーを絞る様に引いた。撃ち出された魔法弾丸はスーーッッと定規で引かれた様な綺麗な線を描き、大型攻城魔法を撃ち続ける魔導士の心臓辺りを正確に貫いた。

 バシャッ! ドサッ!!


「な、何だ!?」


 いきなり血を噴き出して倒れ込んだ魔導士に周囲の兵士が驚く。


「バカなっ当たってる??」

「えっえっサッワくん凄い!!」


 魔法双眼鏡を覗いていた城壁のカレンの居る区画の部隊長が驚きの声を上げる。


「どんどんやる!!」


 再びサッワはボルトを引いて、空魔法薬莢を排出すると、新たな魔法カートリッジを装填した。そして再び遥か遠くの魔導士に狙いを定める。


「……死ねっ!!」


 バシャッ!!

 サッワがトリガーを絞ると、再び吸い込まれる様に一直線にあり得ない長距離の敵魔導士の身体を弾丸が貫いた。


「そんな馬鹿な!? 魔銃ライフルの射程外の敵が何で??」

「凄いよ、凄い! サッワくん凄い!!」


 カレンが我が事の様に飛び跳ねて喜ぶ。


「カレン危ない、しゃがめ!」

「あ、はい……」


 部隊長が驚くのも当然だった。本来なら当たるはずも無い魔法弾丸が当たるのは、サッワが無意識に魔ローダーを動かす膨大な魔力を魔法カートリッジの推進と炸裂に乗せていたからだった。要は魔法剣の魔銃版であった。いつしかサッワは魔銃強化の能力を得て、初速も射程距離も威力もアップしていた。


「次ッ!!」


 ドンッッ!!

また遠くの魔導士が倒されて行く。衣図ライグの軍の中では謎の長距離攻撃にパニックになり掛けていた。


「お、おい、誰でも良い、魔法スコープ付きの狙撃魔銃ライフルを持って来て、この御方に渡せっ!」

「は、はいっ!」


 部隊長がサッワの能力に目を見張り、慌てて狙撃魔銃をサッワに渡す。


「い、いけますかねーなんて……へへ」


 すぐさま渡された狙撃魔銃を見てサッワが各部を調整する。


「大丈夫です、ありがとう! これでもっと敵を殺れる!」


 すぐさま魔法水晶球が込められた魔法スコープを調整して再び魔銃ライフルを構える。


「もっと遠くの敵を討つ!!」


 ドンッ!!


「まだだもっと撃つ!!」


 無表情でボルトを引き魔銃弾丸を込めると、さらに無表情で次々に敵の魔導士を撃ち続けて行く。その度に衣図ライグの部隊内で魔導士達が倒れて行く。


「次は魔戦車だ!」


 今度はキューポラから頭を出した瞬間の魔戦車部隊長に狙いを定め、躊躇無く撃つ。パンと魔戦車隊長の頭が吹き飛び、ダランと後ろに倒れた上半身が力なくぶら下がった。


「す、凄い……何者!?」

「だからメド国本国の軍人さんです!」


 何故か誇らしげに自慢するカレンだった。



「駄目ですぜ~~何故かどんどん長距離攻撃されて魔導士が死んでってる! どうしやす大将??」


 衣図ライグの横で痩せた馬に乗る、伝令役のラフが焦りながら聞いた。


「魔戦車の乗員までやられたのは痛いな。あの作戦は?」

「へい、順調に進んでますぜ」

「おおーそりゃ良いな。ならじゃ、一回派手に突撃してから撤退するぜ!!」

「え、何故ですか? このまま素直に撤退すりゃいいじゃないですか~~?」

「いや、このままやられたままじゃあ癪に障るぜ、それに敵を油断もさせる。よし突撃ィーーー!!」


 その号令を合図に衣図ライグの巨馬と立て直した魔戦車三両を先頭に衣図ライグの軍が突撃を開始した。


「なんだ? 連中狂ったのか? 城壁が頑強な内にいきなり突撃して来たぞ!!」

「数が多いので城壁に取り付かれるとヤバイです。全力で弓と魔銃と魔法で迎撃しましょう。それと敵がひるんだらこちらからも打って出るべきです!」

「そ、そうだな! 上に言って来る!!」


 サッワの進言を聞いて、城壁の部隊長がさらに上の司令官に相談に行った。それからは城壁から一斉に弓矢や魔銃魔法の攻撃が始まり、全く敵を寄せ付け無くなり、さらにそれが一旦止むと城門が開き、少数の五百程の重装騎馬兵が突撃する様子を見せた。


「よしここらで撤退するぞっ!!」


 その様子を見て衣図ライグはあっさりと反転して撤退して行った。



「凄い、凄いなアンタ! いやサッワさん」

「い、いやそんな事ないよ……」

「謙遜しないで、さすがメド国の軍人さんよ!」


 衣図ライグが撤退する様子を見て、周囲の城兵達から賞賛され、揉みくちゃにされるサッワを見て、カレンは鼻高々だった。

余談ですが、この物語の舞台がセブンリーフ大陸と言うのは、高良大社にある「八葉石・八葉の石畳」という遺跡から着想を得た物です。物語内容とはあまり関係ないのですが、〇州各地にこれと同様の神籠石と呼ばれる物があって、それで七八〇とゴロが良いので、セブンリーフ大陸と名付けました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ