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サッワ、空腹で気力尽きる

「はぁはぁ……お腹空いた……」


 貴嶋の家臣から一人でオゴ砦を奪取して来いなどと事実上の放逐の様な命令を受けたサッワは、どうして良いか分からず、かと言って逃亡兵になるという事も無く、意地になって一人で命令を実行するべく、セブンリーファ後川南側Sa・ga地域を東に南に迷走しながら彷徨っていた。


「失敗しちゃった、お金はあるのに食べ物を買うのをわすれてしまった……」


 サッワは鞄の中に大量の金貨を持っていた。魔ローダー操縦者として高額の給金をもらっていたが、多くは飲み食いと近付く者達に気前よくバラマキで使い果たし、その残りを袋に入れて持っていた。と言っても普通の一般人がおいそれとは持てない様な金額ではあった。


「……もういいや、寝よう……女王さまごめんなさい、僕はもう疲れたよ……」


 グーーー

 そのままサッワは地べたに仰向けで寝そべったまま動かなくなった。




「……きて……起きて……大丈夫?」


 次の瞬間、サッワは自分を揺り動かす女性の声が聞こえてゆっくりと目を開けた。辺りは既に日が沈み掛け暗くなる寸前の状態だった。


「……んんん、だれ?」

「しっかりして、トリッシュはもうすぐそこよっ! さ、早く起きてちょうだい!」

「ううーーーん、フゥー?」


 女の子の優しい声がして、てっきりフゥーと勘違いしたサッワは、はっきりと覚醒した。


「フゥーって誰? とにかく暗くなる前にトリッシュに入りましょう、さ、起きて!」

「……はい」


 サッワはようやく状況を思い出し、優しく起こしてくれた女の子の好意に甘えて後ろをついて歩く。



 ギギギギギ……

起こしてくれた少女が高所の門番に合図をすると、トリッシュ国と思われる城壁の門がゆっくりと開く。そのまま門をくぐると、城壁内の街の建物の部屋に案内された。


「さ、入って」

「あの、いきなり外部の人間を入れていいの?」


 サッワが不審な顔で聞くので、いきなり少女が笑い出した。


「あははははは、おっかし~~メドース・リガリァの軍服を着て、制式剣を履いてて、それで入れていいのって、どういうつもり??」


 サッワはメドース・リガリァを出た時に、軍服と制式剣を付けたまま出たのだった。それはサッワにとって、世話になった母国へのせめてもの恩返しの気持ちだった。けっして後ろ足で砂を掛けて出て行くという事はしたくなかった。例えそれが放逐される様な無茶な命令であったとしても。


「あ、そうだったね」

「ちょっと待ってて」


 少女はそう言うと、サッワを不用心にも部屋に置き去りにしておいて数十分放置した。


「ごめんごめん、こんな感じの物しか無かったけど、食べる?」


 少女はスープとパンを持っていた。


「う、うんありがとう、頂くよ」


 しばらくサッワは夢中で食べ続けた。


「それで何しに来たの? メド国の軍人さん」

「うん、一人でオゴ砦を奪取に来たんだ」


 大真面目に言い切ったサッワに少女は一瞬キョトンとした。


「あはははははは、本当に面白いわね君! 私カレンて言うの、貴方名前は?」


 少女がバシバシサッワの背中を叩きまくりながら自己紹介をしてくれて名前を聞いてくる。


「……僕はサッワさ。こう見えてもメドース・リガリァの貴嶋さまとも直で会える軍人なんだ」

「も、もういいわよ、信じる信じるから。それでオゴ砦を一人で奪取する命を受けたのね」


 その時、ガチャリとドアが開いて部屋に中年の男が入って来る。


「おお、その子が軍服着て地面で寝てた子か?」

「あ、ラン隊長、やっぱりメド国の制式な軍人さん……だと自称しています」

「自称じゃないよ本当だよ。オゴ砦を取り返す為に来たんだ」


 サッワは隊長と言われる男の前でもはっきりと臆する事無く言い切った。


「ハハハハハハハ、その心意気や良しだな。それで持ってた鞄は点検したのか?」

「い、いいえ」


 いきなり隊長が言い出した事を聞いて、サッワがどきっとして鞄に視線を送った。


「駄目だぞ、敵の工作員かもしれん、子供相手でもちゃんと調べろ」

「は、はい……サッワくん、見ても良い?」


 助けてくれたカレンに言われ、仕方なく鞄をラン隊長に渋々渡すサッワだった。


「む……大きな麻袋以外何も無い……しかもズッシリと重いな」

「……」

「開けるぜ」


 サッワに断りも無く袋を開けると、中の大量の金貨を見てラン隊長の目が輝いた。


「こりゃすげーーー!! なる程増援をよこす代わりに軍資金を持って来たって訳か。ご苦労だな、これで武器が購入できるぜ」

「いや……それは……僕の」


 サッワの声も無視してラン隊長はサッワの最後の貯蓄を全て奪った。


「………………」


 しかしサッワは何故かそれ以上騒ぐ気にもならず、そのまま奪われるままで諦めた。


「い、いいの?」


 優しい性格なのか、カレンがサッワの物ではないかと聞いてくれた。


「ううん、いいんだ。オゴ砦奪取が任務だから、それが軍資金になればいいんだよ」


 サッワはシャクシュカ隊が全滅し、メド国を放逐された以降、何か全ての事から解放された様に半分抜け殻の様になっていて、全財産を取られても怒る気になれなかった。


「俺はトリッシュ義勇軍のラン隊長だ。君は?」

「僕はサッワです。メドース・リガリァの軍人です」

「どうする?」


 言われて一瞬サッワは迷ったが、一人でオゴ砦に突撃しても無駄だろうと思い、此処に留まる事にした。


「僕も義勇軍に参加しても良いですか?」

「ああ、大歓迎だぜ」

「私もそれが良いと思うわ!」


 カレンが笑顔でサッワを歓迎した。


「じゃ、決まりだな。サッワはしばらくカレンの部下となってもらう。荷物運びでも見張りでも何でもやらせろ」


 隊長が勝手にカレンの部下と決めた。


「そ、そんなメド国のちゃんとした軍人さんに失礼よ」

「いいえ、僕はここの新入りです。助けてもらったカレンさんの部下でありがたいです」


 サッワは取り敢えず隊長の言うままに従った。そのまま隊長は金貨の袋を持って出て行った。


「じゃ、じゃあサッワくん取り敢えず城壁内を案内するわ!」

「サッワでいいよ」

「じゃあ私もカレンでいいわよ!」

「うん」

「あはっ行こっ」


 カレンはサッワの顔を見て、少しはにかんで笑った。


「こっちが市街区で、あっちが王城とか貴族の住む区画、あそこが工房で此処に軍隊が居るの」


 小さいながらもトリッシュ国には一通りの施設が揃っている様だった。カレンは笑顔で魔法ランプで照らされる夜の城壁内のあちこちを案内してくれた。


「義勇軍って……今戦況は一体どんな状況なのかな?」


 サッワは数日あちこちを彷徨っていて、情勢がどうなっているのか知らなかった。


「うん、それが……セブンリーファ後川南側の一帯は全て同盟軍の手に落ちてしまって……それも全て魔ローダー部隊が油断して全滅した事が原因らしいの……」


 カレンが深刻な顔をして心が痛む。


「そ、そうなんだ。困ったね」

「それで、たった一機残った魔ローダーが、南側から戻って来る兵士達を救いに行って、半分程は救出されたみたい。けれど残りの西に向かった人々は皆殺しにされたって……怖いわ」

「スピネルさんだ……皆殺し……酷いね同盟の奴ら」

「うん……」


 二人して深刻な顔をして黙り込んだ。当然西に逃れた逃亡兵達は皆殺しになどされておらず、雪乃フルエレと海と山とに挟まれた小さき王国の活躍で三分の二程が捕虜として生き残った訳だが、そんな正確な情報は伝わってなどいなかった。

 カンカンカンカン!!

突如黙り込む二人の沈黙を破る様に、城壁内にけたたましいアラート代わりの鐘の音が鳴らされる。


「何だ!?」

「奴が来たのよ!!」

「みんな戦闘配置に付け! またオゴ砦の衣図ライグが夜襲して来たぞ!」


 大声で警報を発する人間が走り回る。平和だった夜の町の中は一瞬で逃げ惑う人々で大騒ぎになった。


「サッワくん、城壁に急ぎましょう!」

「サッワでしょ。うん行こう!!」


 サッワはカレンに導かれるまま、城壁の戦闘配置に走った。


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