ラグジュアリー感を考え内装に凝ったらお金尽きる
「ひ、暇過ぎです……」
豪華な革張りの椅子に座る、頭にブリムを着けたメイド姿の雪乃フルエレは、これまた豪華な彫刻が施された木製の長方形のテーブルに突っ伏する。各テーブルの上には煌びやかなステンドグラスの魔法力ランプが灯っており、各窓にはレースのカーテンがかけられている。いつの間にか冒険者ギルド内はほぼ純喫茶の様相になっていた。
「フルエレ、私はもうこのお店の余り物のウェルカムドリンクとハートマークの入ったオムレツとやらは飽きました。違う味の物が食べてみたいのですが。贅沢は言いません、城で出た食事を出しなさい」
何故かウエイターの恰好をした砂緒が黙々とフルエレの正面で食事をしている。
「貴方……食べるのは苦手と言ってなかったかしら……」
―数日前。
「ひ、暇過ぎです……」
メイドさんの恰好をしたフルエレは、冒険者ギルドの巨大なコルクボード前のカウンターに突っ伏する。コルクボードには『草引き依頼』『屋根の修理』『結婚式への出席』などの言っては悪いが冒険と無関係な依頼ばかりが少数貼られている。これはもう冒険者ギルドでは無くて、シルバー人材センターの範疇だった。
ガチャッ
「あ、お客様いらっしゃいませ冒険者の方ですか?」
「おおお、雪乃ちゃん、朝採り野菜を置いて行くから、使ってくだされ」
「あ、有難うございます!」
再び突っ伏するフルエレ。
「わざわざ野菜を無料でもらっておきながら、あからさまにがっかり顔をするのはおよしなさい」
「してないしてない笑顔でした!」
「フルエレ……何故ニンゲンが寄り付かないか分かりますか?」
「え、何故なの?」
理由は明白だった。ここは続く戦乱による過疎化と、営業再開したばかりでまだ人に知れ渡っていないだけ、それが最大の理由だったが……
「貴方はお客様のラグジュアリー感を考えた事があるのですか!?」
「ら、ラグジュアリー……感ですって!?」
砂緒の突然の言葉に雷に打たれた様な衝撃を受けるフルエレ。
「そうなのです。例え目的外のお客様であっても、いつまでも居たくなる、そんな滞留時間を伸ばす、その為にはラグジュアリー感が重要なのですよ!」
「た、滞留時間ですって!?」
確かにフルエレがホール内を見渡しても、味気ない丸椅子が数個並ぶだけ、とてもラグジュアリー感等とは無縁な場所だった。
「早速王都に家具を買いに行きましょう!」
「はい!」
そして店内には豪華な革張りの椅子とテーブルが運び込まれた。衣図ライグの計らいで多少他の者よりも多めにお金を配分された二人だが、かなりの打撃だった。
「まだ足りませんね。椅子とテーブルだけでは。安心感を与えるインテリア等も導入しましょうか」
「え、えーお金が……そろそろ」
自信満々の砂緒だが、デパートだった時に中の人々が言っていた事をオウム返ししているだけだった!