別れ
途中追加
69に追加する新部分を、誤って200部分に追加してしまい
直後に削除するという失態を演じてしまいました。
その後間違いなく69に追加しました。
―海と山とに挟まれた小さき王国の朝。
「Y子殿、おはようございます!」
「わっびっくりした」
城の中にいくつかある朝食が食べられる場所に向かうY子の後ろから、砂緒が何事も無かったかの様に元気に声を掛けた。
「おやどうしました? 幽霊でも見た様な顔をしてますね」
「貴方昨晩はどこへ消えたのよ!」
Y子は兜の顔を接近させ耳元で小声で砂緒に聞いた。
「あの、尖った部品が刺さりそうなんですが、それは攻撃ですか?」
「攻撃じゃない! それよりも何処に行ったのです?」
砂緒に言われ少し顔を離した。
「何処に行くも何も普通に寝てただけですが、起きた時にはお后様が……あ、いやこれは秘密なのですが」
「えっ……おか、いえお后様が宝物殿に??」
(真実の鏡の片割れを見たの?? 何処で砂緒は湧いたのよっ鏡はどうなったの??)
「いえ……その事は本当に秘密ですので、例えY子殿にでもこの先は言えませんフフ。では一番目立たない地味な兵士用朝食場に行きましょう」
「な、なんで一番地味な場所に行くと分かったのだ?」
「短い間の付き合いですがY子殿の行動様式は全て完全に把握しました」
「不気味ね」
「はい、良いですから行きましょう!!」
「あーーっ」
砂緒はY子の腕を掴んで無理やり朝食場に連れて行き、海と山と国の一般兵に混じってとても目立ちながら朝食を摂ったのだった。その様子はコーディエとセレネにばっちりと見られていた。
セレネは王様とお后様と朝食を摂り、いよいよ三人が海と山と国から離れる時が来た。
「おお、もう行ってしまうのか、もう少しおれば良い物を……」
玉座の間に再び集合した三人を前に王様が名残惜しそうに言った。
「いえ、我々はメドース・リガリァと争っている最中の身、此処で優しい貴方達に触れているとその事を忘れすぎてしまうのです。戦いが終われば必ずまた戻って来ます。それに北部海峡列国同盟からミャマ地域中枢国としての調整役の官僚達もやって来ます、お覚悟を……」
「え~~~、この国を乗っ取る気ではあるまいの……」
王様は眉間にシワを寄せて本気で嫌そうな顔をした。
「ば、馬鹿なっ御冗談を! 私がその様な事をするはずがありません」
「お、おいどんも、そげんこつにならん様にみちょっと、ごあんしんをば」
セレネに重ねてY子までも慌ててガラガラ声で王様の心配を和らげた。
「セレネやY子殿だけではありません、私が美しきお后様のこの国を牛耳る様な事には絶対にさせませんよ、ふふふ」
等と言いながら砂緒は無理やり片目を閉じて、バチバチとぎこちないウインクをした。
「や、やめなさい……」
お后様はうろたえて首を振った。
「な、何かな? 一体今の合図は何なのかな?? このワシに説明してみなさい……」
「な、何でも無いのよ、本当に何でも無いのっ!!」
「ふふふふふ」
「だからもうやめーーーいい!!」
ガシッ!!
突然Y子が砂緒を鎌が出ていない棒で殴った。
「王様、気にしないで良いですよ。どうせたいした事では無いと思いますので。あたしは彼の事を良く知っていますので」
セレネがバッサリとおかしな流れを断ち切った。
「では本当にもうお別れなのね、砂緒さんセレネさんY子さん……」
「はい。Y子殿、もう言い残す事はありませんかな?」
セレネが振り返ってY子に念を押した。
「無いごわす」
すると突然ふわっとお后様がY子が逃げる隙も与えず駆け寄りさらに両肩をしっかり掴んだ。
「……Y子さん、もしいつか夜宵という貴方と同じ歳くらいの女の子に出会う事があったら伝えて欲しいの、真実の鏡なんてどうでも良いと。国宝よりも占いの力よりも何よりも王様も私も夜宵と依世だけが大切なのよって。依世が去ったのも夜宵の所為なんかじゃない、どっちが先でもいいの、とにかく早く帰って来てって……お願いね」
お后様の目からはいつしか涙が流れていた。
「……………………………………ひゃい」
(帰れない……まだまだ帰る事なんて出来ないよ)
とても小さな声を出すのが精一杯だった。返事をすると深々と礼をしてY子は再び後ろに下がった。
(お父様お母様、必ず戻ります。今はさよならです……)
「そうなのね、それと雪乃フルエレ女王には、お身体を大事にして、貴方の思う道をお行きなさいと言っていたと伝えてちょうだい」
「ワシからもじゃ」
「………………」
するとスッと砂緒が出て来てY子の肩に手を置いた。
「ご安心をお后さま王様、Y子殿もフルエレも私が守りますゆえ」
「えっ?」
Y子とセレネが同時に砂緒を見た。砂緒は爽やかな笑顔だった。
「……所で夜宵殿と依世殿は今頃どこにいるのでしょうなァ? 今度真剣に探しに行ってみますぞ! お約束します!!」
余りにも目を輝かせて言い切る砂緒にY子とセレネは少しコケた。
「そ、そうじゃあ気を付けてね……」
「うむ、がんばるのじゃぞ」
いつまでもいつまでも名残惜しく別れが続きそうなので、セレネが代表して礼をすると後ろ髪引かれる思いで三人は蛇輪に乗り込んだ。
ヴィーーーーーン!!
中庭から金色の粒子を発しホバリングして飛び立つ鳥型に変形した魔ローダー蛇輪に向かって、お城の大きなベランダから王様とお后様がいつまでも手を振り続けた。脇に控えるコーディエはすぐさままた同盟軍と合流する事になっている。彼も飛び立つ蛇輪が小さくなるまで見送り続けた。
「ぐすっううっ、うぐっあうっおえっぐすぐすっううぅ~~~っ」
その間一人で下の操縦席に乗るY子は兜の下で泣き続ける。その様子は魔法モニターで上の操縦席に居る砂緒とセレネに筒抜けだった。
「戻ろうか?」
セレネが声を掛けた。
「いいの。セレネ……殿ありがとう。我を無理やり王様とお后様に会わせてくれたのだな」
「いいや、偶然のたまたまだ」
「違うでしょ、優しいから会わせてくれたんでしょっ!」
「違う、面白そうだったから連れて行っただけ」
「あーーーそーーーーですかっでも……ありがと」
「ありがと要らん!!」
言い合う二人の間に砂緒が割り込んだ。
「まあまあY子殿が何故泣いているのか分かりませんが、海と山と国は万民に郷愁を誘う何かがあるのでしょうなあ」
「……お前は幸せだな!」
「え、何です??」
セレネは呆れて砂緒を一瞬見ると、向き直して操縦桿を握ってスピードアップした。
―タカミー国、王城。蛇輪は一瞬で到着した。
「あーーーなんか美味い物食べて来たのだろうなあ! ほっとかれた我らは、メランやミミイと共に捕虜の選別やら兵力の割り振りやら、セブンリーファ後川南側に防御陣地の構築の計画やらつまらない事をやっていたぞ!」
いきなりイェラが不満顔でぶつくさ言って来た。
「イェラお姉さまがいらっしゃるので安心して留守に出来たのです。いつか必ず埋め合わせ致します」
セレネは頭を下げた。
「それでこれからどうするのですか?」
兎幸やメランミミイに挨拶して砂緒が訊いて来た。
「うん、まずはロミーヌからタカラ山監視砦に本陣を移す。その上で、イ・オサ砦とタカラ山とミャマ地域の中央それぞれに新城を築く。その間にも本格的にSa・ga地域侵攻の策を練るぞ」
「おお、豊臣秀吉の墨俣一夜城みたいで燃えますな」
「いや、一夜で築く訳では無いぞ……まーどうでも良いが」
セレネは砂緒がまた訳の分からない事を言い出したと思って軽く無視をした。
 




