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宝物殿のふたり 下 砂緒、再誕!!

「セレネですが、あの子も一生懸命過ぎてY子殿に辛く当たる様に思えるかもしれませんが、実際にはとても優しい子なのです……どうか仲良くして欲しいですね」


 Y子こと雪乃フルエレは砂緒と久しぶりにいい感じで二人きりだと思った束の間、いきなりセレネの話題を振られて少しがっかりする。


「セレネ殿の事は気にしていない。それよりも、雪乃フルエレ女王から少し聞いた事があるが、砂緒殿がこの世界に出現して最初に会ったのが、フルエレ女王がまだただ一人で旅していた時だと聞く」


 こんな時にまでセレネの話題を聞きたくないので違う話題を振ってみる。


「実は……違います」

「え? 違うのですか」


 Y子は驚いて聞き返す。


「はい……実は最初に会ったのはフルエレと旧ニナルティナ兵の三人、つまり合計四人の人間と最初に会ったのです、そこは正確に言っておきたい!」


 Y子は再びコケた。


「い、いやそれはそうとして、親しくなった人間、仲間のメンバーの中ではフルエレ様が最初に会った人間なのだろうという事だ! 疲れるな」

「時々言われます。何を隠そうフルエレと最初に会って……一発で好きになってしまいました。もちろん最初はそういう感情が良く分かっていなかったのですが……お恥ずかしい」

「……そうなのですか。今も?」


 Y子は兜を付けている事を良い事に思い切って聞いてみた。


「………………それは」


 何でも無神経に言ってしまう砂緒は珍しく口ごもった。そんな状態ではY子はしつこく聞き続ける事は出来なかった。


「もちろん好きなのですが、相手の問題もあるので。もはや私は以前の無邪気でピュアピュアな私ではいられないのです……それにセレネの事も大事に思っていますが、自分でも自分が良く分からない時があるのですよ、どう思います?」


 どう思います? と言われても困る質問だった。それにフルエレ本人なら兎も角Y子がこれ以上ズケズケと立ち入るのは如何にも不自然だった。


「それは砂緒殿ご自身の問題だな、我にはどうしようも無い」

「ははははは、正にその通りでごわすなっ」


 再び無言が続いた。


「……しかし私は此処に居ると何故だか母の胎内にでも回帰した様な、不思議な気持ちになるのです。と言っても元々コンクリと大理石の塊なので母の胎内など知らぬのですがねフフ」

「不思議ですね……何故でしょうか」

「………………」

「?」


 砂緒から言葉が聞こえなくなって、Y子はふと横を見た。


「スーーーーーー」

「ワーーーーーーー寝てる!?」


 見ると既に砂緒は静かに眠っていた。


「どうしよ、あまり此処にも長居は出来ないのだけど……」

 

 カラン……


「カラン?」


 Y子が一瞬目を離した隙に自身の真横で不審な音がして再び砂緒を見た。


「砂緒どこっ?? ゲッ!? ていうか割れた真実の鏡が何故???」


 Y子が全て口で言った様に、砂緒の居た棚には誰も姿も形も無く、その代わりにその場にあの日無くなってしまった国宝真実の鏡の片割れが忽然と出現していた。


「どういう事……何故??」


 Y子は薄明りの中、割れた白銅鏡(ますみのかがみ)の真実の鏡を左手に持って、兜を被った自分自身をしばし映して見た。


「どうしよう……これが戻って来たのは良いけど、砂緒は何処に消えてしまったの?? もう一度これに願えば何でも願いが叶うのかしら?? 依世を戻して欲しいとか……」


 コツンコツン……


「!!」


 再び宝物殿に足音が響く。砂緒が突然瞬間移動したとは思えないので誰か新たな入室者だと思った。


(どうしよう……たとえ半分でも真実の鏡をまた持ち去るか、此処に置いてお父様とお母様を少しでも安心させるか……)


「動くなっ誰かな?」


 その声はセレネだった。


「怪しい者では無い、Y子だ。此処の宝物を見物に来ていたのだ」

「ほほう、Y子殿か、貴方とは二人きりで本音で色々話したいと思っていた。どうかな兜を脱がれては?」


 Y子はセレネが近くに来るまでにそっと真実の鏡を棚の真ん中に据え置いた。


「話す事などありません。我はもう部屋に帰ろうと思う。此処にはこの海と山と王国の宝物類が沢山ある、勝手に触ったり持ち去ったりしない様にな」

「貴方こそっ!」


 セレネに言われながら、返す言葉も無く、Y子はコツコツとセレネを置いて宝物殿から早足で立ち去った。


「ふーーん、宝物殿ねえ。何ゝ国宝真実の鏡?? 割れてんじゃん!」


 等と言いながらセレネは真実の鏡の片割れを右手で持ち上げた。


「むふっかわいいっ……むんっ」


 セレネは一人になると何時もやっている様に、白銅鏡(まそみかがみ)に向かって笑ったり怒った顔など百面相をしてみた。ふいにその鏡に砂緒からもらった宝石のイヤリングが映り込んで月明りにきらっと光った。


「砂緒……」


 真実の鏡を棚に置くと、砂緒にもらったイヤリングをしばし触り続けた。


「行こっと」


 そのままセレネは宝物殿を出て用意された寝室に向かった。



「何故でしょう……此処に来ればまた夜宵に会えそうな気がする……そんな訳は無いのに」


 そう言いながら深夜になってお后様が一人でやって来た。少し前までY子、つまり夜宵が居たのに完全にすれ違いだった。お后様は夜宵が姿を消してから、よく此処に一人で居た娘を偲んでやって来る様になっていたのだった。


「ぎょーーーっ!! 真実の鏡が何故?? しかも割れています……どういう事なの」


 娘と良く似たリアクションで、棚の中央に突然戻って来た真実の鏡の片割れに驚いて腰を抜かし掛けるお后様。


「もしかして夜宵が? 夜宵が戻って来た??」


 お后様は口に手を当てて辺りをきょろきょろと見渡した。


「ん~~~~~~良く寝ましたっ」

「はっ?」


 きょろきょろ辺りを見渡していたお后様が再び真実の鏡を置いていた棚を見ると、何故か全裸の砂緒が横たわって、腕を伸ばしてあくびをしていた……


「きゃーーーーーー」

「いやーーーーーーーーん」


 お后様は目を隠し、砂緒は大事な部分を隠した。


「おお、おおおお后様、なんという事を……まさか寝ている私を全裸にひん剥き、とても口では言えない様な事を……そこまでそこまで私の事を……い、いえ覚悟は出来ていましたが、王様と雌雄を決する時がこうも早く来ようとは」

「違いますっっ!!」


 お后様は顔を真っ赤にしつつ即座に否定した。


「はて、では何故?」

「こ、こちらが聞きたいくらいです。今此処に割れていましたが国宝の真実の鏡があったのです! それを少し目を離した隙に振り返ると全裸の砂緒さんがっこれを着なさい!!」


 お后様は近くの別の国宝に掛けられてあったビロードの布を砂緒に手渡した。


「ふうううううううわあああああああ、何故だか力がみなぎるうううううううう!!」


 ビロードの布を器用に体に巻いた砂緒はあたかもスーパーパワーが沸き上がるかの様に、髪を逆立たせ両手を高く掲げた。しかし能力的には先程までと全く一緒だった!


「砂緒さん、こんな所を夫に見られると、いくら温和な夫でもブチ切れてしまわれるでしょう、早く寝室にお戻りなさい……」

「はっ!? は、はい……この事は二人だけの恥ずかしい秘め事として胸にしまっておきます」

「その言い方に問題があるわっ。とにかく急ぐのよ」

「はい!」


 二人はそそくさとそれぞれの部屋に戻った。


「でも……折角戻って来た真実の鏡、何故消えてしまったのかしら……」


 お后様は首を傾げた。

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