蛇輪厳しき決断、思わぬ……
セブンリーファ後川、チャイムリバー橋跡付近の集結ポイントで起きた、スピネルの魔ローダーデスペラード改Ⅲと蛇輪&速き稲妻Ⅱの乱闘、それにその後にやって来たシャル王のナメ国軍と同盟軍の勢いを恐れ、三千名程のメドース・リガリァ敗残兵が渡河を諦め西、より正確に言えば南西に向けて徒党を組んで逃亡を続けている。
「部隊長、俺達はこれからどこに向かえばいいんですか?」
「幸い後ろから魔呂や同盟軍が追って来ない、この隙に海に出るかロータスに入るかどちらかに一つだ」
「俺は海に出れば良いと思う海に出れば船の一隻や二隻あるだろう……」
「この先に大した港があったか? 昔この辺りは全部海の底で、アリリァ海の近くは湿地やジャングルが広がってるって話だぞ……」
「ではやはりロータス国に入るか? 後ろから敵軍が来ないのか?」
「いや、むしろロータス国に紛れて住民を人質に取って交渉を始めたり、そのまま独立国として生きていくって手もあるぞ」
「それだっ!」
「あそこも小国、城兵は五百居るかどうか……我らが束になってかかれば落とせない事も無い」
「魔戦車はやられたが、まだ騎兵や魔導士も居るぞ、それしか無い!」
「よーーし行くぞ!!」
「オオーーーッ」
それぞれバラバラに各小国から逃げて来た部隊であり全体として統制する者などもはやいなかったが、各部隊の指揮官が似た様な考えに至り、群れとしてロータス国に向かう事になった。
「むーーー、連中きっちり川沿に進むのでは無く、明らかにロータスとか言う小国に真っすぐ進んでますね……これは参った」
敗残兵達に気付かれにくい様に、上空高く飛ぶ鳥型に変形中の蛇輪は、砂緒の乗る操縦席だけハッチを開け、有料双眼鏡の能力で兵達の動きを偵察していた。
「ヤバイな……こりゃY子殿が嫌がる砂緒さんの雷で全員消滅コース一直線だな。サービスでもう今やっちゃっとく?」
セレネがハッチを閉めた砂緒に魔法モニター画面越しに言った。
「いや駄目でしょ、ちゃんと皆さんに相談しなきゃね」
「へェーーーえらい真面目だな」
「そうですよ、真面目ですよ、おもしろまじめですから」
「なんだよそれ……」
等と言いつつ、蛇輪は突き進む同盟軍に戻った。
「Y子殿、それにメランミミイ敗残兵共はロータス国に真っすぐ進んでいます。魔戦車部隊や各部隊長に通達して下さい。それで少しでも早く追い付いて野戦に持ち込みましょう。魔ローダーで踏んだり魔法剣や稲妻で消すのはY子殿の本意では無いので仕方が無いです」
「何で急に砂緒が仕切るんだよ? 作戦司令するのはあたしの役目じゃん」
「いいでしょ、こういうの好きなんです。愛人特権で許して下さい」
蛇輪は人型に変形して、同盟軍の一番背後を歩いて突き進む速き稲妻Ⅱの横に立つと、魔法通信機で各機に伝えた。
「メランミミイって何かモンスターの名前みたいだからちゃんと分けてちょうだい」
「あら、なんだか身も心も合体しちゃったみたいでいいじゃない!」
「良くない!」
「ねえセレネ殿、蛇輪で敗残兵の前に立ちはだかって挟み撃ちにするのはどうだろうか?」
Y子が唐突に提案した。
「踏んでも良いのであればどうぞ。踏めないのであれば折角集まって一網打尽にしやすくなっている物がちりじりに四方八方に逃げられて、収集付かなくなる。各地に潜伏されてゲリラ化されると厄介だから、このままロータス国まで追う方が良いと思うぞ」
「そ、そう……」
セレネに冷たく否定された。
―しばらく後。
「結構なかなか追いつきませんねえ」
砂緒が蛇輪のハッチを開けながら、有料双眼鏡の能力で遠くを見るが、まだ敵兵は見えない。
「魔戦車も魔ローダーも騎馬兵も全て疲れている歩兵達に進軍速度を合わせているからよ。シャル王の軍と同盟軍歩兵はナメ国からずっと進軍し通しだからね」
メランが冷静に分析する。
「……あたしとY子殿の喧嘩騒ぎに続き、だれかが時間掛けて説教大会をしたからなあ、それで時間が過ぎたのだろう」
「まっ、言うに事かいてセレネ様はメランが悪いと仰る?」
「……すいませんでした、それもあるかもしれないですね」
「メランさんは謝らないで頂きたい! 全てセレネと私が悪いのです」
「いや、全てY子殿が悪い」
「何ですって!?」
性懲りも無くまたまたY子とセレネが魔法モニター越しにいがみ合う。
「いい加減にして下さいセレネとY子殿。このままでは敗残兵共にロータス国に先に到達されてしまいます。此処は仕方なく魔戦車と騎馬兵と魔ローダーのみ先行して追撃するべきだと思います。どうですかセレネ総司令官殿?」
「う、砂緒の言う通りだな……歩兵には無理せず付いて来てもらおう」
「ちょっと……それだと結局魔戦車で魔砲を撃ちまくって、最後やっぱり砂緒が雷を使う事になるんじゃ?」
Y子が軽く抗議する。
「……ロータス国の城壁内に侵入されて無辜の国民を危険に晒したいですか? Y子殿」
「う、そ、それは……」
Y子は言葉に詰まった。
「では決まりだな、メランさんミミイさん魔戦車部隊と騎馬隊を先導して下さい」
「はいはい!」
魔戦車部隊から決定した方針が騎馬兵に伝えられ、一騎が離れて歩兵を指揮するシャル王に伝えられた。直後に魔戦車と魔ローダーがスピードを上げる。シャル王は小さくなりながらも大きく腕を振り続けた。
「だいぶスピードアップしましたが……」
ヴィーーーンと砂塵を上げて突き進む十両の魔戦車部隊を先頭に、魔ローダーが早歩きで進みその後ろを少数の騎馬兵が踏まれない様に走っていた。
「ちょっと見てみて」
「あいあい」
セレネに言われて再びハッチを開け、砂緒が有料双眼鏡の能力で前方を見た。
「ありゃーーーこれはマズい事になってますね」
「どした砂緒!」
「敗残兵共がもうロータス国の堀を越えて、城壁に肉薄してますね。よじ登るのは寸前かと」
砂緒が目を凝らして見ると、三千名程の敗残兵がリュフミュラン王城やニナルティナのハルカ城等に比べて随分貧弱なロータス国の城壁に梯子を持って迫っていた。さらには敗残兵の中の魔導士が大型攻城魔法すら撃ち始めていて、城壁や城内に巨大な火球が次々落下していた。しかし城内からは何の反撃も無い感じで、メド国兵達が梯子を掛けてよじ登り始めるのは時間の問題という感じだった。
「何て事……」
Y子こと、雪乃フルエレ同盟女王が言葉を失う。
「砂緒、城内からの反撃は?」
「いえ……それがうんともすんとも。セレネはどう思いますか?」
「逃げたかー。五百名程の城兵では無理も無いか……」
「………………」
二人の会話を聞いて何も言えなくなるY子だった。
「セレネさん砂緒さん仕方が無いですね、お二人がリュフミュランで使った稲妻の準備をお願いします!」
メランが苦渋の決断をする。メランはリュフミュランの戦いで蛇輪の稲妻を見た一人だった。それが速き稲妻Ⅱという名前に繋がっている。
「いや……ソレはあたしじゃ無くて、砂緒とフルエレさんな……」
「あ、そうでしたね」
「………………」
「ではもう少し接近して稲妻を出します! 騎馬と魔戦車部隊に停止の合図を」
「そ、そんな……もう少し様子を見ない?」
「いえ、それはもう駄目です」
「Y子さま仕方が無いです。わたし達は最善を尽くしましたよ」
Y子にとって理解者であるメランとミミイが揃ってセレネに同意した事でもはや諦めるしか無かった。
「なんか久しぶりですねえ……これしないとただの役立たずの変態ゴミムシと思われそうなので、一つ派手にやってみますよ」
「うむ、北の荒涼回廊の村落共同体地帯で飛び地に攻めて来たゴブリンオークコボルトの連合軍に使って以来だな」
ロータス国の城壁に迫るメド国敗残兵達に見えるか見えないかのギリギリの地点で蛇輪と速き稲妻Ⅱと魔戦車部隊が停止すると、蛇輪は上空に向けて両腕を広げた。
「……なんか呪文とか言ってましたっけ?」
「言ってないって。久しぶり過ぎて忘れたか?」
砂緒が無言で操縦桿に雷を送ると、みるみる辺り一面の上空を覆う様に雷雲が発生し、蛇輪から雲に向けて太い稲妻が吸い込まれて行く。雷雲のあちこちに眩い稲妻が横走りし始める。
ヒューーーーー……
と、同時にセレネの見つめる魔法モニター画面には、広大な攻撃範囲表示が広がって行く。
「うお、多いな。これ全部に一気に雷が落ちるんか?? ちょっとエグいな」
(やめて……)
Y子こと雪乃フルエレ女王はもはや魔法モニター画面を観る事が出来ず、目を閉じて祈った。
「どうした!? 急に雷雲が……??」
「何だこれは何が起こっている??」
「……おれリュフミュランやニナルティナで見たって言う奴から聞いた……」
「な、何だ?」
「この雲が突然出て来てゴロゴロ言い出したら凄いヤバイって」
「何い!?」
メド国敗残兵達も天候の異常に気を取られ攻城戦の手を一瞬緩めた瞬間だった。
「敵はひるんだ、今だ撃てっ!!」
「撃てっっ!!」
「弓兵、魔導士、魔銃隊、ってーーーーー!!」
城壁の各所から一斉に号令が飛ぶと、城壁の上から千名程の城兵がズラズラと並んで突然身を乗り出し、一斉にメド国兵に向けて雨あられと攻撃を開始した。
シャシャシャシャッ
ドンドンドンドンッ
ドオーーーン、ドゴォーーーン!!
「うぎゃーーー!」
「突然なんだ!?」
「退避―--ッ」
城壁目前のメド国兵達は大混乱となり右に左に逃げ惑い始めた。
ギギギギギ……
直後に今度は城門が開き始める。
「騎馬隊、突撃ィーーーーーーーー!!」
開いた正門から数こそ多く無いが戦闘意欲旺盛な完全武装の騎馬隊がいきなり怒涛の突撃をして来た。
「海と山と国の初めての戦闘、後世に名を残す戦いとせよっ!!」
「オオオーーーーー!!」
「げえっ騎馬隊!!」
突然逃げ惑う敗残兵の中に騎馬隊が突撃して来た事でさらに大混乱となり、メド国兵は次々討ち取られて行く。騎馬隊を指揮しているのは、海と山とに挟まれた小さき王国のコーディエだった。
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