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魔法自動人形兎幸と魔ローンとフー・ファイター伝説

 深い林の中。森の中という程の鬱蒼とした深い緑の暗闇では無いが、人間が潜み隠れるには打って付けの場所だった。


「よーしボウズ落ち着け、決して焦るんじゃねえぞ」

「は、はい」


 苦み走った良い男という言葉がぴったりの顔に走った深いシワの数々が長い戦いの生活を物語るメドース・リガリァの隊長が、若い部下の隊員に繰り返し落ち着けと言い聞かせている。

 トントン

もう一人の隊員が若い兵士が肩に担いだ魔ァールPG-7という対魔戦車用ロケットランチャー的魔法兵器の後ろから魔法弾を込めて最後の合図に肩を軽く叩く。魔ァールPG-7は魔砲弾の中に結界突破の呪文も封じられた対魔戦車用にまおう軍で開発されメド国に流された新決戦兵器だった。


「ぎりぎりまで引きつけろ。遠けりゃ装甲魔導士の物理結界に弾かれる」

「はい」

「ふふ、同盟の敵さん俺たちが逃げ帰るとたかを踏みやがって、うかうか偵察の魔戦車なんか一両でよこしやがった。舐めてくれるぜ、ご挨拶にきつーい一発をお見舞いしてやるさ……」


 キュラキュラ……

林の向こうから無限軌道の不気味な音が響く……


「あーーーもうっY子さんは何処に消えたの!? こんな敵がいかにも潜んでそうな場所を通るなんて、敵が居たらどうするの??」

「大丈夫じゃないの?? 私なんて半分寝てるわよぉ」

「寝てちゃだめでしょ……」


 Y子こと雪乃フルエレ同盟女王の魔ローダー速き稲妻Ⅱの全力走行に置いて行かれ、林の中を北のチャイムリバー橋跡付近、メド国軍集結地点に向かうメランとミミイと好青年の魔戦車だった。


「まだまだ……」

「は、はい」

「……よし、今だ!! ってっ!!」

「はいっ!!」


 バシュッ!!!

三人が乗る魔戦車が最大限メド軍兵の潜む林に接近した瞬間、若い兵士がトリガーを絞ると魔ァールPG-7は無情にも側面の装甲付近に吸い込まれて行く……


「やたっ」

「や……」

「あた」


 三人同時に叫んだ直後、目の前の魔戦車処か風景も消え去り、自分達こそが後ろに吹っ飛んでいた。歴戦の戦士始め男達は衝撃と痛みで小刻みに震える体のままなんとか首を起こして魔戦車の居た付近をもう一度見た。そこには無機質な銀色の壁があった。とてもシュールな光景だった。


「……なんだこれは!?」

「銀色の壁??」

「……俺達幻を見てた??」


 魔戦車の前に瞬時に立ちはだかった兎幸(うさこ)の魔ローンだった。魔ァールPG-7対魔ローンの対決は魔改造された兎幸の勝利だった。


『ちょっと何をやっている?? ぼーっとしていたら今頃死んでいたぞ! ブラストに瞬時に反応して魔ローンを出した兎幸に感謝なさい』

『余裕余裕、あははははははは』

「酷い! 走って置いて行って、そんな言い種!?」

『反論するな! 側面防御結界と敵探知は装甲魔導士の担当だろうが! 今度は助けないぞ』

「むっかぁ……あいあいスイマセーーーン」


 プチッとミミイは魔法通信機を無理やり切ると、まだまだ怒りが収まらないという雰囲気だった。


「なにあれ聞いた!? 滅茶滅茶腹立つんですけど。フルエレさんてば本当は絶対に性格悪いわよね? あの天使の様な外見に騙されてる男共は馬鹿だわ。今度セレネさんに会ったら彼女に忠節を誓お……」


 良い調子で話していたミミイ王女がぱっと魔砲塔のメランを見上げると、眉間にシワを寄せて頭を抱えて首を振っていた。


「あっ」

「うっ」


 ミミイが前を向くと、振り返った好青年と目が合う。


「消す?」

「消しちゃダメ。走行速度が落ちるから……」

「ぼ、僕何も聞いてません!! ずっとメランさんの事考えてましたっ」

「あら、じゃセーフね」

「セーフなんだ」


 メランは他人事の様に応えた。


 シュッ

目の前から銀色の巨大な壁が消えた時、三人のメド国兵の前には既に魔戦車はいなかった。


「何だったんだ今のは?」

「分かりません……」

「ふっ……しかし俺達は生き延びちまったって訳だ……また死地に赴く為になっ!!」


 イケオジ歴戦の戦士はなんだか良く分からないカッコいいまとめで逃げた。こうした事が我々の世界同様フーファイター伝説として語り継がれるのだろう……


 ドシンドシンドシンドシン

速き稲妻Ⅱはさっきの出来事も気にせず再び走り出して加速する。


「ふははははははは、いっけぇーーーーー!!」

「フる、Y子ちゃんなんだか砂緒みたい!」

「えっそうかな、砂緒殿みたいか……」

「アッY子ちゃん前方馬車ッ!」

「キャッ」


 速き稲妻Ⅱはとっさにジャンプすると太陽を背にして、たーんと両腕を広げた。下から見上げる人々は何事かと驚愕する。


「うわっ何だ!?」

「でかい人だっ!!」


 ドシャッ

着地すると再び全速力で走り出す。



 セブンリーファ後川チャイムリバー橋跡南側。メド軍の魔ローダー部隊が全滅し、さらにはタカラ山監視砦が陥落して以降、戦意を喪失し北側に逃げ帰る大量の兵達が集結していた。その数は約五千名程にも上った。


「北側に先に逃れた指揮官達は何をしている? 一体いつになったら救援が来るのだ!」


 指揮官の一人がイラつきながら煙草を吸う。


「隊長! 川の北岸から魔ローダーらしき影がっ!!」

「何い、遂に来たか!!」


 サッワと入れ違いに城を出てしまっていたスピネルの魔ローダーデスペラードサイドワインダーカスタムⅢだった。デスペラード改は巨人が底引き網漁でもするかの様に何本ものロープを曳いていた。そのロープの先には大小様々なボート類が曳かれていた。さらにはそれに随伴する様に河川用の内魔艇も付いて来ている。


「味方の魔ローダーだ、助かった」

「おおおおおおスピネルさまだっ!」

「やったーーこれで北のSa・ga地域に帰れるぞ!」


 南側に展開するメド軍兵達は全員がメドース・リガリァ本国出身という訳では無かったが、殆どが北側のSa・ga地域出身の者達だった。帰巣本能でとにかく川の北側に戻りたい願望に満ちていた。


『諸君、女王陛下は君達を決して忘れた訳では無い。全員が戻れるだけの船がある。整然と整列して秩序を守って順に帰還するのだ』


 南側に到着したスピネルは魔法スピーカーで落ち着いた声で語り掛けた。実は全員分のボート等無いのだが、論理的には落ち着いてピストン輸送を繰り返せば結局は全員が戻れる。とにかくそう考えてパニックを起こさない様に努めて冷静にしているのだった。



「あーーーとても綺麗な場所ですねーーこんな場所をセレネと一緒に遊びに来たい物ですフフ」

「ふぅーーーーん?」


 セブンリーファ後川南側、メド軍集結ポイントから少し東の辺り、砂緒とセレネが乗る蛇輪は砂緒が川の景色を見たい等と言って時間を稼ぎ、Y子の速き稲妻Ⅱが間に合うように時間を稼いでいた。もちろんセレネはそんな事当に気付いている。

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