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ナメ国攻略! 群青色魔ローダーY子の通告

「し、しばしお待ちをっ!」

「は?」

「どうした砂緒?」


 砂緒は突然イェラとセレネに断ると姿を消した。そしてしばらくして戻って来た。


「炊き出し場から熱湯をもらって来ました。これで何の拘りも無いインスタント粉コーヒーを淹れますゆえ、少し待って下さい」


 そう言うと砂緒は持参して来たコーヒーカップに粉コーヒーと脱脂粉乳を入れた。


「砂糖はお好みで入れて下さい……はいどうぞ」

 

 イェラとセレネにコーヒーを渡す砂緒。


「お、おおう」

「気が利くでは無いか砂緒っ」

「私とセレネとイェラが居れば、そこはもう喫茶猫呼ティータイムなんです!」


 砂緒は胸を張った。


「……コーヒーだよな?」

「よく分らんが美味しいぞ。しかし勝手に脱脂粉乳を入れたのは減点だな」


 二人は先程までの荒々しい雰囲気が消え、静かにコーヒーを愉しむ美人さん二人に戻った。


(う、上手く行った!? これで二人の気持ちも落ち着くでござるよ……)

「安心しました、これでも脱脂粉乳を入れる配分などコツがいるのですぞ」


 セレネは目を閉じ静かに最後まで飲み切った。


「ふぅーーー落ち着いた。よし、大急ぎでタカミーを落としメドース・リガリァ兵共をセブンリーファ後川に落とし尽くそう!!」

「……よくぞ言ったセレネ! その心意気だぞ、さぁ出発しようセレネ!」

「はいっイェラお姉さまっ!」


 結局二人は再び腕を組んで決意を固めた。


(駄目じゃん……)


 

 砂緒とセレネとイェラの軍がグルメタウンの住民達から感謝されつつタカミーに向けて進発してしばらく後に、遅れてY子こと雪乃フルエレ同盟女王が大将を務める軍が同地に到着した。


「フル、Y子殿あちこちに焼けこげた跡が……ここで戦闘があった様です」


 メランが砲塔から顔を出しキョロキョロ辺りを見渡しながら魔法通信機でY子に伝えた。


「酷い……きっとセレネ総司令が強引にここで住民達の被害も考えずに戦闘を繰り広げてしまったのだろう……友軍の事とは言え心が痛む」

「しかし悪い大元は敵軍だという事はお忘れなく。致し方無かったのでしょう」


 Y子やメランこそ酷い決めつけで言っていた。


「でもなんかあちこちに救護キャンプ的なテントが建てられてる様な……住民達も私達の旗を見ても逃げ惑う様子も無いですよ?」


 横で通信を聞いていたミミイ王女が割って入る。


「きっとセレネ総司令が罪の重さに耐えかねて慌ててやったのだろう。しかしそんな付け焼刃で傷付いた住民達が癒される物じゃない……我らもこの罪を背負って行かねばなるまい」


 どこまで酷い決めつけだった。


「あれーーでもなんか子供達が笑顔で魔戦車隊員に手なんか振ってますよお??」


 すかさずミミイが言った。


「……ううっなんと哀れな……ああやって我らに媚びを売る事をもうあの年齢で覚えてしまったのか……なんて、酷い」


 酷いのはフルエレの思い込みだった。


「とは言え歓迎されてるなら問題無く通過出来ます。一刻も早く南下してナメに向かいましょう」

「おお、そうであるな、セレネ達の暴挙を止める為にも急ごう!!」


 Y子達は横眼で被災者達を眺めつつ、すぐさまグルメタウンを通り過ぎた。ちなみに兎幸(うさこ)は体力と魔力温存の為に眠っている。


「してナメ国はどの様に落とすのですか?」

「誰?」


 突然メランとミミイの魔戦車に同乗する駆動魔導士の青年が割って入った。


「あ、あれ駄目でしたか?」


 焦る青年。


「ああ、いいだろう。私は力押しは好まない。到着早々軍使を出し和平の交渉をしたいと思う」

「話し合いで済んだら魔ローダーはいらないんじゃない?」


 Y子の提案をいきなり小馬鹿にするミミイ。


「シッ、まずは言う事聞きなさい!」

「は~~い」


 すぐさまメランにたしなめられてミミイ王女は黙った。



 ―ナメ国、王城。

「シャル王様、我らの国に北の同盟軍が迫っております!」


 王に向かって家臣が慌てて報告する。このナメ国の王は、偶然雪乃フルエレのボディーガードの少年シャルと同じ名前だった。


「規模は?」

「はっ。魔ローダー一機、魔戦車二十両、騎馬歩兵魔導士など混成約二千名の部隊が随伴しています!」

「むう、メドース・リガリァに降った時と状況は同じだな」


 シャル王は考え込んだ。メドース・リガリァは初期にスピネルとサッワのコンビが運の悪い小国を選び出し、魔ローダーで見せしめに残虐な手段で城内全滅にしてその噂を流し、その後は恐怖にかられた小国群が雪崩を打つように降伏して行くという状況だった。このナメ国も城前にサッワの魔ローダーが迫る姿を見て即座に降伏したのだった。そんな有様だったから各国にはメドース・リガリァに恐怖心こそあれ忠誠心は皆無だった。今また同じように同盟軍の魔ローダーが迫り王は途方に暮れた。


「メドース・リガリァの様子は?」

「はっ先にユッマランド西の戦いで魔ローダー大量喪失以降、南側には派手な動きも本国からの指示も無くなり、さらにはセブンリーファ後川の橋が落とされる等して慌てて船で川を渡る為に集結中とも、各地に散らばったなどとも良くは分からない状況です」

「ふむうどうするべきか。同盟の女王とはどの様な者なのか? ただの新たな支配者なのか」


 王様は再び考え込んだ。



「シャル王様、遂に敵軍から和平の交渉をしたいと軍使が……」


 報告の第二陣が飛び込んで来る。


「ふん、魔ローダーで脅しながら和平の交渉等と……よし様子を見よう。軍使には王の体調が優れぬ、数日待つようにと、伝えてくれ!」

「ハッ」


 二番目の報告者は走って行った。



「遅い!! 何をしてるのよもうっ!!」


 またY子が女言葉に戻ってイラついている。


「フルエレー落ち着きなよ!」

「シッ我はフルエレ等では無い、Y子だっ! わかったか?」

「はーい」


 良く分からないという顔で起きたばかりの兎幸が返事する。


「Y子殿、軍使の返事が来ましたっ何か王の体調が優れぬとかで数日待つようにと」

「あらあら交渉する処か王様にも会えないのねえ」


 メランが報告すると強硬派のミミイが面白そうに嫌味を言う。ここで砂緒は結局ぶち切れて壁を壊して突進して行った訳だが……


(何よ……これじゃあセレネがどんどん先に進んで凶行を働いてしまうわっ! 早くしないと)


 Y子は誤解したまま焦りに焦った。


「どうするのですか?」

「仕方ないわ……警告を発した後に速き稲妻Ⅱで城壁をぶち壊すわっっ」


 和平交渉をすると言っていたY子がいきなり強硬手段に出ると言い出してミミイは笑いが止まらない。


「もうそのまま魔戦車突入させちゃえばいいじゃないですか! 敵兵なんて五百居るか居ないかなんでしょう」


 言葉を聞いてY子は兜の下でキッとした。


「あくまで交渉を進める為の脅しよ! まだ城に攻め入るって決まった訳じゃないのよ!!」

「はいはい」

「こらっ」

「ではもはや軍使は危険、我が魔法外部スピーカーで警告しよう」


 城を前に距離を取って布陣していたY子の軍の中から二十五Nメートルの巨大なプレートアーマーを着た人間の形をした魔ローダーが進み出た。


「濃い魔呂が動いたっ撃てっ!!」


 静観していた城壁から雨あられと弓矢や少数の魔銃、魔砲、さらには魔導士の魔法が撃たれる。しかし全て魔ローダーには効果が無く、パシパシと装甲に弾かれて行く。

 ズシーーンズシーーンガシャガシャ

不気味な音と共に速き稲妻Ⅱが城壁に迫って寄って来る。


「わわっ来た!」


 攻撃を連発していた城兵達がたじろぐ。


『あーあーテステス、すーはーすーはー、聞こえてる?』

「お願いフルエレさんこんな時まで緊張しないで」

「あらあら」


 魔法通信機を切りながらメランは頭を抱えた。


『ごほん、我は北部海峡列国同盟軍南方司令官Y子である。我が和平交渉の提案をサボタージュをもってして引き延ばそうとする姿勢は看過出来ない。よって最後の温情として警告を発する。これから十五分後に我が軍が突入する突破口を城壁に穿つ! その間に該当箇所の城兵は退避されよ!』

「ちょっ急にめっちゃ強硬になったっ」


 ミミイが魔戦車の中で通告を聞き、腹を抱えて笑い出した。


「……このまま城兵が無視し続けたら確実にもっと切れて城メチャメチャにするわよ、多分」

「まあそれはそれで時間が省けていいんじゃない?」


『十分経過、あと残り五分だっ』

「ボリューム大きいわよ。もう城壊したくて仕方無いんじゃないの?」

「そうね、魔戦車部隊に攻撃態勢取らせた方がいいわね」

「はいっ」


 同乗する青年が聞こえて返事をする。


『四ぷんっ』

「待てっまたれいっ!!」


 その時突然速き稲妻Ⅱが仁王立ちする前の城壁の上に立派な身なりの人物が現れた。シャル王だった。


「群青色魔ローダーよ待てっ」


 シャル王は不気味な禍々しい群青色魔ローダーに向かって少しでも聞こえる様に全力で叫んだ。


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