海と山とに挟まれた小さき王国に届いた参戦要請
「気を付けてね! 終わり次第拾いに来るからな!」
「はいはい待ってますよ~~」
何個めかのセブンリーファ後川に掛かる橋破壊。ようやくコツが掴めて来てあたかも買い物にでも出かける様にセレネが砂緒に手を振った。しかし橋を破壊するのにコツが掴めて来るというのもどうかとは思うがと砂緒は思った。
「っせーのっ!!」
警告放送を行い、橋上に通行者が居ない事を確認して蛇輪に乗るセレネが刃を逆さに握った巨大な鉾を石造りの橋の片側の端っこに突き立てた。
ガシィッ!! ガシイッ!!
巨大な氷をアイスピックでシャリシャリ突き崩すが如く、セレネは蛇輪の鉾で橋の端っこを突き崩して行く。
「これすっごい硬い。全然刃こぼれしないからいいぞ~~~」
等とセレネが絶賛する巨大な鉾だが、これは砂緒と雪乃フルエレが月面から持ち帰った物だった。彼女はその事をあまり知らないでただの武器だと思い絶賛している。
「お~~やってますね、ではこちらも……はぁああああああああ!!」
セレネとは反対側の橋の端っこに陣取った砂緒は、空手の型ポーズの様に両足を開き気味に中腰になると最大限硬化させて白く輝く拳を瓦割りみたいに道路上に渾身の力でぶつけた。
ドカーーーーン!!
物理的な衝撃以上に火薬でも仕込まれてるかの様に物凄い轟音を立てて橋が崩れ始める。砂緒は最初の失敗を繰り返さない為に、海老の様に必死にバックして後退する。その時反対側でもセレネが鉾で橋を破壊しまくり、中央部に小さな島の様にだけ橋の残骸を残して石造りの橋は両側から崩れ落ちた。
「ふぅ……だいぶはかどって来ましたよ」
砂緒は農作業でも終えた様に額の汗を拭った。
「お母さん、お買い物行けないの?」
「しっ何も言っちゃだめっ」
「人間じゃないよ誰?」
「何者??」
砂緒が大急ぎで後退した後ろには迷惑そうに見ている大勢の住人達が居た。
「うっ気まずい……申し訳無いです。全部セレネさんという人が悪いんですよぉー」
聞こえて無いだろうが小声で言った。砂緒にも気まずいという感情が芽生えていた……
「おまたっ! 乗って!!」
直後にぐわーっと凄い勢いで蛇輪が飛んできて、後ろの住人達は大急ぎで逃げて行く。セレネは巨大な掌で砂緒を掬い上げると、自分と同じ上の操縦席に放り込む。
「……めっちゃ睨まれてました。全く迷惑野郎ですよ凄く心が痛みます」
「砂緒にもそんな心が目覚めて来たんだなあ、凄く感動するよ。戦いが終わったら即修理するから簡便してくれやー」
「凄く……心が籠って無いです」
「……そうかな? 次はメドース・リガリァ軍が集結しつつあるポイントに一番近いチャイムリバー橋だ。もしかしたら兵士が監視してるかもしれん」
「ほほう」
程なくしてチャイムリバー橋上空に来ると既に橋の両端には魔戦車と兵員が居て橋を通行止めにしていた。川の南側各地に散らばる兵士が集結し次第一気に優先的に渡る為だろうか。
「やばい、もう居る! 取り敢えず中央部に鉾を刺しとく!!」
ガシーーーーン!!
言うや否やセレネは一気に人が居ないチャイムリバー橋の道路中央部に鉾を投げ刺した。突然の轟音と突き刺さる巨大な鉾の存在に橋の両側に陣取るメドース・リガリァ軍は色めき立った。
「走ってこられたらヤバイ、着地してそのまま踏んで崩しましょう!!」
「あーーフルエレさんに魔ローダーで人を攻撃したら駄目って言われてるんだな?」
「ち、違います……突如人類愛に目覚めてしまったのです……」
「ほうほう、まあいいやっ! 崩すっ!!」
ガラガラガッシャッッ!!
上空から急降下して鉾が刺さった橋の中央部に降り立っていきなり足裏で石造りの橋を壊して行く蛇輪。ようやく両側の魔戦車達が蛇輪に向かって魔砲攻撃を開始するが、例によって全く効果が無かった。結局そのまま両足で崩して行く。
「こんな感じで足で崩して行くと、足の装甲が傷だらけでしょうね……」
「あとで見てみよう。ま、背に腹は代えられん」
ゴシャッグシャッ!!
あたかも讃岐うどんを足でこねるかの如くに両足の裏で橋を滅多踏みにする蛇輪。
「あと五つ程も壊さないと駄目なんですか? うんざりしますねえ」
「これも勝つ為だ我慢してくれ……」
セレネも砂緒も人々の生活の場を無機質に壊して行くという作業に当初のきゃっきゃっとした雰囲気は消え失せていた。言うなれば市街地インフラへのピンポイント爆撃と似た様な作戦だった。
「よし終わりっ! 次行くぞ、気付かれたからなるべく短時間でやるっ!」
「ええっ」
蛇輪は両側から猛烈な魔戦車による魔砲攻撃を受けながら、変形中に砲撃を受けて故障があってはいけないと、人型形態のまま大きくジャンプして高く飛び上がり背中の羽を展開して羽ばたきある程度高度を上げてから瞬時に鳥型に変形して飛んで行く。
「指令、橋を完全に破壊されました!」
「致し方あるまい、すぐさま本国に連絡しろ!」
セブンリーファ後川北側に展開していた部隊が、遠方に見える反対岸の南側の兵達を見ながら即座に本国に救援の要請を出した。その後、砂緒とセレネはさしたる困難も無く、タカラ山監視砦以西のセブンリーファ後川に掛かる橋を全て破壊し終えた。
―海と山とに挟まれた小さき王国、王城。王様とお后様の元に同盟女王雪乃フルエレの許可を得る前に送られたセレネからの参戦要請の書簡が届いていた。
「貴方セレネさんからの書簡、なんて書いてあるの?」
玉座でじっくり読んでいる王様の横でお后様が内容が気になり、やきもきしながら王様を見つめていた。
「読んでみなさい」
「ええ」
王様はお后様にようやく書簡を渡した。
『謹んで申し上げます海と山とに挟まれた小さき王国の王様とお后様にはご機嫌麗しゅう存じます。砂緒と共に貴国を訪れた日々が懐かしく、楽しく過ごした事を思い出さない日はありません。さてこの度ぶしつけながら悪鬼の如きメドース・リガリァ国との戦役が始まり、セブンリーファ後川流域の民の安寧と平安の為に一刻も早くこの戦を終わらせる為、誠に勝手ながら何卒貴国の御助力を切望する次第です。どうか同盟女王雪乃フルエレ様の軍に轡を並べられる事をお願いします。(追伸)砂緒とは近頃益々ラヴラヴになってしまい困っていますVVvvv 北部海峡列国同盟軍総司令官セレネ・ユティトレッド』
書簡にはこの様な事が書かれてあった。
「まあ……大変ねこれは……」
「うむうう」
「セレネさんと砂緒さん何だか凄く強い魔ローダーを持ってはいたけど、まさか噂の女王の同盟軍の総司令官さんだったなんて」
「うむうう、また会いたい会いたいとは思っておったが、こんな形で新たな連絡が来ようとはな。どうした物か」
王様はそう長くは無い顎鬚を触りながら眉間にシワを寄せて考え込んだ。




