表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

313/1098

丘の上のふたり、突然の……戸惑いのセレネ

「作戦開始っ!」

「オオオーーーッ」


 セレネの合図で兵達が気勢を上げてタカラ山監視砦急襲作戦は始まった。


「では我々はタカラ山に通じる道々を封鎖して行きます!」

「任せたっ」


 ミミイとメランを乗せた魔戦車が街道を進んだ。例によって地上にメドース・リガリァ兵は見られない。メランにとっては久々の魔戦車による出動だったが、ミミイ王女には新鮮に感じられた。


「何故、何故搭乗員三人全員女の子で固めなかったのかしら?」

「貴方がそんな事を言うだろうと思ったからよ……」

「まあっ」

「あの……僕が何か悪い事を?」


 メランに選任された魔戦車搭乗員の魔導士の男性が恐縮する。


「いえいえ、貴方は全然悪くないのよ、よろしくね」

「ハッ」


 既に魔ローダー搭乗者として有名になっていたメランの言葉に男性操縦者はほっとした。



「各街道、裏道封鎖完了!」

「よし、魔戦車隊、最大仰角で同時斉射開始!!」


 ドドーーン!! ドンドン!!

各位置の魔戦車が一斉に最大仰角で物理弾を斉射し始めた。全く砦に届く物では無かったが、脅しとしてしつこく撃ちまくった。事実上孤立する守備部隊には堪えるだろう。


「では行こうか……」

「手をお持ちします」


 砂緒が蛇輪に乗り込もうとするセレネの手をダンスパーティーの様にエスコートして取ろうとする。


「もう良いって! いつもの砂緒さんに戻って下さいっ!」

「……いつものってどんなのでしたっけ? よく考えたらセレネみたいに美人で魔法が使えて王女で総司令官の素晴らしい女性に、私の様に正体不明の目付きの悪い無位無官のゴミムシが相手してもらえるなんて奇跡的でありえないなって」

「ごめん本当にごめん、お願いだから元に戻って!? ゴミムシって??」



 しばらく待機して、魔戦車の魔砲攻撃が一段落した所で蛇輪は人間形態のまま翼を広げ、ゆらりと飛び上がるとタカラ山の中腹にある監視砦の上空に現れた。


「おおーー、なかなか良い所にあるね。下からじゃ分からないけど結構平坦部があるじゃん」

「ええ、では砦の前に行って説得しましょうか」


 蛇輪はすーっと砦に肉薄した。


「わーーー今度は魔ローダーが飛んで来た!? 撃て撃て!!」


 砦の部隊長が魔導士達に命令して魔法攻撃や魔銃の射撃が始まるが、当然全て蛇輪の前には全く効果が無かった。

 ドンドンドン!! ドーーンドーーン!!


「全く効果がありません!」

「構わん撃て撃て!!」


 砦の兵達はそれでも必死に射撃を続けた。


「あーあー、テステス。私達は話し合いに来た。ただちに戦闘を中断して平和裏に話し合いがしたい」


 セレネが魔法外部スピーカーの大音響で会談を申し入れた。しばらくして砦側からの攻撃がぴたっと止んだ。


「お、攻撃が止まったぞ」

「ですねえ脈ありですか」


「私はこのタカラ山監視砦の指令、タカラだ。話し合いに応じよう。しかしその前に平和的話し合いの証拠として魔戦車の魔砲射撃を中止してもらいたい」

「良いだろう。すぐさま中止命令を出す」


 直後に魔法秘匿通信でセレネが射撃中止命令を出すと、山肌に散発的に響いていた砲撃音は止んだ。


「セレネ、私の後ろに隠れて下さい。決して油断しないで」

「う、うんありがと……」


 セレネは女の子っぽく砂緒の背中に抱き着いた。そして二人はゆっくりと蛇輪から降りて砦の中に入って行く。



「それでは我々の身の安全は完全に保証されるのですな?」

「ええ、メドース・リガリァに帰還したい者、現地に残る者、我らに賛同して同盟軍に参加する者、全て完全に身の安全を保障しよう」


 しばらく沈黙が続く。


「では……指令のタカラの名において……」

「女王陛下万歳!!」

「きゃっ」


 ゴォオオオオ!!

いきなり周囲に控えていた兵士の一人が炎系の魔法をセレネに向かって撃った。


「危ないっ」


 さっと砂緒がセレネに覆い被さり魔法攻撃を無効化する。しかし実際にはセレネ程の高位の魔法使いともなると、一般兵如きの魔法攻撃など最初に掛けている魔法防御で完全に弾かれていた。セレネは砂緒に守られる感が嬉しくてきゃあっと言ったのだった。


「何だこの騒ぎはっ! ひっ捕らえろ! これは指令である私への反逆と同じだぞ」


 魔法を撃った兵士を周囲の兵士が抑え込み、喚き散らしながら連れられて行った。


「……これは我々の忍耐にも限界がありますぞ! 大丈夫ですかセレネ総指令?」


 砂緒は本当はこちらこそ早く降伏して欲しいのに、わざと上から目線で怒りを露わにした。


「私は大丈夫だ、この程度で和議を潰したくない……」

「こ、これは美しき指令どの……どうかお許しを。そなたらの和議のお気持ち、真剣であると理解しました。是非ともこのまま和議に応じて頂きたい」


 タカラ山砦のタカラ指令は立ち上がると頭を下げた。



 武装解除の知らせを受けて、同盟軍の兵達が続々とタカラ山監視砦に入城して来る。魔戦車こそ上に登る事は不可能だが、メランやミミイやイェラも上に登って来た。武装解除した守備兵達は一か所に集められてこそいるが、縄に掛けられる事も無く、約束通り身分を保証された。


「約束通りの平和裏な入城、感謝致す」

「いえ、こちらこそ理解のある指令の方で安心しました」


 セレネと砂緒とタカラ指令はすぐに打ち解けたのだった。それもタカラ指令がメドース・リガリァからの派遣軍人では無く、もともとの現地の有力者であった事が大きいと思われる。彼にとっては当地が平和になるのであればそれで良かったのだった。


「こちらをご覧下され、ここにはこんこんと清らかな湧き水が湧いているのです」

「おお、こりゃ凄い」

「こんな湧き水があるなら長期滞在にも最適だな」

「あちらに行くとセブンリーファ後川流域の平野が一望に出来ますぞ!」


 気をよくしたタカラ指令がセレネに喜んで教えた。


「うふんうふん」

「あ、ああ、そうか」


 砂緒が危険性を察知して咳払いでセレネに警告を発した。ひと目に付かない場所に誘い込んで命を狙われる危険性も万が一にもあるからだった。


「セレネさまっどうぞどうぞ、此処は私とメランさんで完璧に守備いたしますわっ、お二人でご一緒に行かれましてっ! おほほほほほ」


 突然現れたミミイ王女が二人で眺望を眺める事を激奨する。


「安心しろ! おかしな動きがあれば私が斬り捨てる!」


 イェラも剣を構えた。


「では……行きます? 引き続き総指令は私がお守りしますし」

「あ、ああそうだな。折角タカラ殿が勧めて下さっているのだ」

「おお、どうぞどうぞ、本当に良い眺めですぞ」


 度量を示す為にも二人は進んで行った。



「おおおーーーこれは凄い! セブンリーファ後平野が丸見えだなっ」

「確かに蛇輪で見てしまうのと全然違って美しく見えます。でも丸見えってなんですか、一望とか絶景とか言うべきでしょう」


 砂緒に言われて面白く無い。


「ふん、なんかムカ付く。丸見えで良いじゃないかっ」

「そんな事より此処で少し横になってみませんか? 凄く良い天気に良い景色です」

(へっ?)


 セレネが返事するまでも無く、砂緒は原っぱに寝っ転がった。セレネは仕方なく横に座った。


「確かに良い景色……ここは思わぬ良い場所を見つけたな」

「ふふ、セレネも景色に負けずに綺麗ですね」

「ちょっどうした? 壊れた??」


 喧嘩直後から急転直下の褒めちぎりに赤面するセレネ。砂緒なりにセレネに感謝を示したかったのだった。しばらくしてセレネも遠慮なく草の上に寝っ転がった。



「なんかさ、変な話だけどさ、もしお墓に入るならここが良いかなあ。ユティトレッドからは遠いけどさ、セブンリーフが全て見通せる様で安心するよ」


 砂緒ががばあっと上半身を起き上げる。


「止めて下さい。いくら胸が小さいからって世を儚んで命を絶つなんて許しませんよ」

「胸が小さいから世を儚んで命を絶つ訳じゃない! 失礼だなーそうじゃ無くてあくまで老後の話だよ。老後の後の話」


 しばらく会話が止まる。


「じゃあ、此処で一緒に手を繋いで眠ってみますか?」


 再び真横で寝転んだ砂緒の言葉にセレネは一瞬絶句した。


(へっ? 一緒に眠る……い、一緒にお墓に入る? そ、そそそそそ、それって、プププププ、プロポーズじゃ?? ちょ、ちょっと待ってよ。もっとロマンティックなのがあるでしょ! それに正式に付き合う前にいきなりプロポーズ!? 急よ、なんで今?? さっきまで喧嘩してたばかりじゃないのっで、でも変に茶化したりしない方がいい? どうすればいいの??)


 セレネは目をつぶり意を決した。


「……は、はぃ……わわ、わたしで良ければ……ふつ、ふつつかものですが、お、お願いします……」


 顔から火が出そうな程に真っ赤になりながら声を絞り出した。


「………………?」


 しばらくしても返事が無かった。


「ぐーーーーぐーーーーー」

「は?」


 セレネが思い切って砂緒の方を向くと、大口を開けて寝ていた。


「ホントに寝てるんかーーーーーい!」


 セレネは呆れて砂緒に言ったが、なおも大口を開けて寝ている砂緒を見てホッとした。ちょっと嬉しかったが、よく考えたらなおもフルエレとの間で揺れ動く砂緒がその様な事を言うはずも無かった。


「フフ」


 セレネは総司令である事も忘れて、しばらく眺望と砂緒の顔を見比べ続けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ