どきどきの相部屋、花火の夜c
「この中心線からこっちは私の領地、そっちが砂緒の領地ね、絶対入らないでね。お休みなさい」
「はい、お休みなさいませ」
フルエレは満面の笑みでシーツを被った。
「フルエレ……」
「は、はいっ!?」
数分もせずに砂緒の声が。
「ここは西から敵国、南から魔王軍と、やはり立地条件最悪の所ですが、フルエレはここで良いのでしょうか?」
「え、いいよここで。それに砂緒と出会えて、ここに来て本当に良かった」
「そうですね、私も最初に出会ったニンゲンがフルエレで良かったです」
「……」
はーまずい雰囲気だなあと雪乃フルエレは心臓ばくばくしながら思った。
「フルエレ……」
「は、はいい!?」(今度はなにー?)
「髪の毛、触ってみてもいいですか?」
な、何ーっ!? 話が違うじゃないかと思ったが、緊張で声が出ない。
「ひゃ、ひゃい?」
勝手に手を伸ばし、フルエレのふわふわの金髪を撫で始める砂緒。
(これ……今度こそ……何展開!?)
フルエレの心臓が本当に飛び出しそうな程どきどきしていた時だった。
「この髪……魔輪に乗っている時から気になっていました。……材質的には何になるのでしょうか? 顕微鏡で見てみたい物です」
「はぁい?」
本当に物質としてフルエレの髪質に興味が出ただけの砂緒だった。
「はい、終了ー。はい、おやすみなさーい」
「はい、ではまた、おやすみなさいませ、くかー」
フルエレが赤面のまま呆れ顔で言うと、本当に素直に秒で寝落ちする砂緒。
ドドーーン、ドドーーン
突然、窓の外から大きな音。先ほどの激しい戦闘の記憶が蘇る。眠りこける砂緒をよそに慌てて窓に駆け寄る。大きな音の正体は花火だった。七華が言うささやかな贈り物とはこれの事だったのだ。
「わー援軍は出さないけど、花火は上げちゃんだ。やっぱり少しずれてるのかしら」
フルエレは深い眠りに落ちる砂緒を起こすかどうか迷ったが、そのままにした。
「……凄い綺麗……」
しばらくフルエレはお城と塔をバックに上がり続ける花火を、戦場で亡くなった兵達の鎮魂とこれからの順風満帆を祈って眺め続けた。