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魔ローダーの決闘 決着、残された少女

「お、なんか敵がぼーっとしてやがるな、うかうかしてると半透明はシュンッて消えちゃうから、一気に周りのザコから順に叩き斬ってやるかっ!」

「セレネさんえらい嬉しそうですねえ」


 セレネはやる気まんまんで雷が激しく纏わりつき、妖しく光り輝く魔法剣を振り上げ走り出そうとした。


『……待てっ!』


 その時突然サッワの乗る魔ローダーレヴェルが、残った片手の剣を地面に投げ捨てると、そのまま掌を前に出し魔法外部スピーカーで語り掛けた。


「どうしたのサッワちゃん!?」

「お、降参かあ!?」

「もうセレネ、無視して早く叩き斬って頂戴!」

「フルエレらしく無い一言ですなあ」


 とにかく早く為嘉(なか)アルベルトの安否を確認したい雪乃フルエレは、いらいらして早く敵を片付ける事を望んだが、それが逆にセレネの気に障り、敵の魔法外部スピーカーによる会話に乗った。


『何だ? 早く言え』

「セレネ、時々その横柄な口調が出ますけど良く無いですよ」

「しゃーしぃー、敵だろいいだろが」


『そちらが持つ武器は強力過ぎる、その力無しで正々堂々と剣技のみでの一対一の決闘を望む!』

「はぁ何言ってるの? セレネ、無視して早くさぱっと叩き斬ってあげて!」

「フルエレいつもとキャラが違い過ぎですよ! 前は助けろ助けろ言ってたでしょ!」


『ふざけた事を言うなっ! 侵略して来ておいて何が正々堂々かっ!』


 セレネは怒り声で怒鳴った。


『何を言うかっ侵略して来たのはそちらでは無いか! こちらは国境内で大規模軍事訓練を監視していただけだっ!』


「えっそうなのか!? 砂緒知ってる?」

「私とセレネは同時に此処に来たのでしょうがっ! 知ってる訳ないでしょ、メラン本当なんですか?」

「……実はそうなの、亡くなったミミイが半透明を見てカッと来ちゃって、いきなり停戦中の国境超えて襲い掛かっちゃったの……」

「マジカー」

「え……という事は私達の方がむしろ侵略者?」

「やってる行動が悪役ぽいからすっかり悪者だと思ってしまったわ……どうしましょう」

「……でもフルエレさん砂緒さん、連中もこうなる事を望んでわざわざ国境地帯に挑発する様に並んで立ってたんです、それにミミイを弄ぶ様に殺したり魔戦車を踏んだり蹴とばしたり、滅茶苦茶なんです! あっ」

「なんですって!? 魔戦車を踏んだり、蹴とばしたり!?」


 フルエレは頭がくらくらして座りながら気を失いそうになる。セレネは確かにこちらから一方的に停戦を破った事に少しだけひけめを感じた。


『良いだろう、今話し掛けて来た魔ローダーと一対一で魔法剣無しで決闘を受け入れよう』

「サッワちゃん大丈夫?」

「ココナツヒメさま大丈夫です、ここで挽回します」


「セレネ、この決闘私が操縦します、後ろに立ってて下さい」


 突然砂緒が提案した。


「はぁ? 何でだよ負けたらどうする?」

「私も地味に剣の修行を続けたんです。必ず勝ちます」

「セレネ、負けそうになったら瞬時に交代して!」

「二人して……」

「砂緒ファイトッ! 兎幸(うさこ)は応援してるぞっ!」

「おお、兎幸見てて下さいっ! 行きます!!」


 砂緒は雷を消すと剣を構えた。


『参るっ!』


 サッワも片腕で剣を構え直した。

 カキーーン、ガギーーーン。

砂緒の蛇輪が切り掛かると、サッワのレヴェルも器用に片手で弾き返す。

 

「どうだっ!」

「くそっ」


 最初は片腕のレヴェルと砂緒の蛇輪は互角の状態で戦っていたが、次第に両手が揃う蛇輪の方が押し気味になって来た。魔ローダーの身体の動きや剣の強さは操縦者の実際の運動神経や剣の腕に比例する。それは実際に脳から出る剣を扱う筋肉を動かす為の神経伝達を読み取っているからだった。だから魔ローダーの操縦で運動神経は悪いがゲームは上手いみたいな論法は成り立たない。操縦する為に念じると言っても、全ては実際の体術の実力に確実に左右される。だから体術に優れるセレネや紅蓮が魔ローダー戦でも強い事になる。


「むっ何とか勝てそうですねえ、この相手大した事なさそうです」


 砂緒の蛇輪がどんどん優勢になって剣でサッワのレヴェルを振り回し始める。


「くっそーーーなんかさっきより動きが悪くなったのに俺が勝てないのかよっ!」


 じりじりと後ろに下がるサッワの魔ローダーレヴェル。


「そらっ!!」


 カキーーーーーーーン!!

遂にサッワのレヴェルは片腕の剣を弾き飛ばされる。


「まだだっ!!」


 そのまま畳み掛ける様に砂緒が切り掛かると残りの腕まで切り落とした。


「ぐわああああああ」

「サッワちゃん!?」

「サッワさまっ!!」


「情け無用! とどめっっ!!」


 砂緒はなおも素早く剣を振り上げると、肩口から袈裟掛けに切り掛かった。


「だめーーーーーーーっ!!」


 ザシュッ!!!

砂緒が切り掛かったと思った瞬間、またもや恐ろしい反応速度で砂緒とサッワの間に割り込んだフゥーの魔ローダーが代わりに肩口からバッサリと斬られた。


「なんですとっ!?」

「フゥーーーーーーーー!!」

「サッワちゃん、此処までよ、行くわよ手をっ」


 半透明の魔ローダー、ル・ワンは一瞬蛇輪がたじろいだ隙を見計らって、後ろに倒れ込んだサッワのレヴェルの手を握ると瞬間移動(長)を叫んだ。


「瞬間移動(長)!!」

「フゥーがフゥーーーがっ……」


 シュンッ!!

砂緒達の目の前で消え去る半透明のル・ワン。一瞬の出来事だった、直後に肩口から胸まで剣がばっさりと食い込んだままのフゥーのレベルが、後ろにグラリと倒れ込みながら突然ドカンと白煙を出して爆発した。魔法剣は消しているので、もともとの魔ローダーの機構で当たり所が悪くて爆発した物だった。


「どけっ」

「ブバッッッ!?」


 突然セレネが砂緒が鼻血が飛び出る程容赦無く座席から弾き飛ばす。


「そこだっ!!」


 セレネは一瞬で操縦桿を握ると、爆発した直後に弾け飛んだハッチの中から飛び出た何かを恐ろしい反射神経で掴み取った。


「……少女!? こんな少女が操縦してたのか??」

「まあっ信じられない……猫呼(ねここ)と同じくらいの年齢??」

「どらどら……うげっ美少女じゃないですかっ」


 砂緒は瞬間的に魔ローダーの掌に握られる青白い美少女を見て、今まで瞬殺して来た魔ローダーの中にも同様にこの様な儚げな美少女達が乗っていたのではないかと思い、血の気が引いた。


「とりあえず勝った! 勝どきを上げるぞ!!」

「待って! そんな事どうでもいいの、砂緒いつもの能力でアルベルトさんを探してっ早くっ!!」


 遂にフルエレがもはや我慢ならないという感じの泣き声になって砂緒にお願いする。


「ふぅうううううーーーーーーーーーはいはい」


 砂緒は深いため息をしてから操縦室のハッチを開くと有料双眼鏡の能力を全開にした。


「セレネ、あっちの魔戦車が転がっている辺りを慎重に歩いて下さい」

「……うい」

「ああっアルベルトさん無事で居てっ」


 フルエレは倒れそうなくらいにドキドキしながら胸の前で両手を合わせた。


「こんだけ色々人が死んでるんじゃ……もう駄目なんじゃないですか?」

「いくら砂緒でもそんな冗談許さないわっ」


 フルエレに言われてさらに意気消沈しながらも一応真剣に探し続けた。その直後だった……


(うげっ……生きてやがるじゃないですか!)


 砂緒の遠方視界に寝転んで痛々しくうめくアルベルトの姿が入った。そのまま砂緒は何も言わずちらっとセレネを見る。武術の達人のセレネも真剣に探しているがまだ発見していないようだった。


「うううーーむ、なかなか見つかりませんねえ」

「お願い……砂緒……本当にごめんなさい、貴方だけが頼りなの、お願い見つけて」

「……はい」

「砂緒、もう少し右の方を探してみるか?」


 セレネがアルベルトに全く気付かず、あさってな方向を探しに行こうと提案する。そのままその言葉に従うとアルベルトがうめく位置からどんどん離れて行くだろう。


「そ、そうですね……行きますか」


 砂緒はおずおずと操縦桿を握るとアルベルトの方向とは違う方向に歩き始める。


「お願い……お願いアルベルトさん生きていてっ!」


 魔法モニターに映るフルエレの顔はいつにもまして血の気無く倒れそうな程焦燥している。


「はぁはぁ……はぁはぁ……」


 砂緒の脳裏に、二人だけの部屋で眠ったり兎幸の博物館を発見したり砂浜で瑠璃ィに出会ったり、フルエレと出会ったばかりの初々しく楽しかった二人だけの日々が思い出される。


「砂緒どしたあ?」


 セレネが横で砂緒の異変に気付いて、そっと砂緒の手の上に手を重ねた。


「あっ、なんかあっちにラヴジルらしき物が蠢いている気がしますっ!」

「砂緒?」


 セレネは少しだけ砂緒の声が変になっている事に気付いた。


「えっどこ!?」

「あっちじゃないですかあ?」


 砂緒が蛇輪でアルベルトの倒れる場所にどんどん近づいて行く。


「あああああ、アルベルトさん!?」


 遂にフルエレの視力でも普通に確認できる場所まで来た。

 バシャッ!!

突然何を思ったか、フルエレはハッチを開けると飛び降りた。


「危ないでしょう!!」

「フルエレさんっ」


 砂緒とセレネは慌てて同時に少女を掴んで無い方の魔ローダーの掌を差し出してフルエレの落下を防ぐ。そのままぐいんとエレベーターの様にアルベルトの間近に彼女を降ろした。


「ああっアルベルトさんっ酷い怪我!? どうすればっあああああっ」


 抱き着く訳にも行かず、アルベルトの目の前でおろおろするフルエレをアルベルトはしっかりと視認した。


「ふ、フル……エレくん? はは、戦場の女神だね……うっぐはっ」


 アルベルトは力の限りなんとか頭を持ち上げて、フルエレに笑顔で応えた。


「待って必ず助けるわっ! でもどうすれば??」

「あのーーーフルエレ、ご歓談中申し訳ないですが、蛇輪には回復(強)がある事忘れてないですか?」


 砂緒が二人のやり取りを見ながら、凄く嫌そうに教えてあげた。


「あっそれだわっ砂緒ありがとう! アルベルトさん待っててすぐに回復するわっ!」

「うっくっ……ぐ……」


 安心した為か逆にアルベルトの容態が急激に悪化しつつ見えて、フルエレは急いで操縦席に戻った。その様子を怪訝な顔で無言で掴まれた少女が見ていた。

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