どきどきの相部屋、花火の夜b
「でも衣図が怒るのも無理は無いわ、あの丘の向こうの王都のかがり火の中に、塔みたいなのが見えてるでしょう? あれは王様の像なの。あんな大きな物立てるくらい財力があるのに、私達に援軍も出さない。本当に嫌悪するわ」
「確かに大きな建造物ですね。一度観光してみたい物です」
砂緒とフルエレは遠く見える王都の石造りの城や、塔の様に巨大な像に思いを巡らせた。
「それにしても……貴方達をみんなと一緒に陣で野営させたり、雑魚寝させたりする訳にはいかないけど、本当に二人でここに泊まるの? いいの?」
リズが二人の顔をちらちら見比べる。
「ご安心下さい、我々二人は今日出会い、既に二人共あられもない姿を晒した仲なのです」
「へ!?」
「誤解さーれーるー。やーめーてー」
フルエレが顔を真っ赤にして遮る。
「違うんです。襲われそうになってた所を砂緒に助けてもらったんです。砂緒は変な事する様な人間じゃないんです!」(ゴーレムだし……)
「そ、そうなのね、二人が大丈夫だと言うなら大丈夫ね。部屋は沢山あるし」
「あ、そうです、これお返しますね」
フルエレが腕輪を外して返そうとした瞬間、腕輪は音も無く崩れ去った。
「きゃっ何これ……ごめんなさい、壊れちゃった」
「耐用年数だったのかな、いいの気にしないで!」
笑顔で許すリズは、館の鍵を渡すと去って行った。
「蜘蛛の巣がー蜘蛛の巣がー」
ほうきをぶんぶん振り回しながらランプ片手に暗い館を進み、ようやく寝室らしき場所にたどり着くフルエレ。中央には立派なベッドがあった。
「ふう、今日はいろいろありがとう、砂緒に出会えて嬉しかった。明日もよろしくね」
満面の笑顔になると、パタンと扉を閉めた。
「ふう、なかなか良いベッドですね、私もちろん初めてこういう場所で寝ます物で」
「エー、なんでここに居るの?」
何故か勝手にベッドに入り込む砂緒の姿を見て、飛び上がる程驚く。
「今寝るといいましたよね」
「そうじゃなくって、それは私のベッド、砂緒は隣の部屋で寝るの」
「あーーーそういう物なのですか、それは失敬した」
そそくさと何の拘りも無く、部屋を出ようとする砂緒。
「あ、やっぱり待って……」
ぴとっと砂緒のボロボロの軍服の裾を握る雪乃フルエレ。
「今日は……ここに来て最初の一日目だし、一緒にこのベッドで眠りたい。絶対変な事とかしないよね」
「変な事……? 安来節とか佐渡おけさとかですか? 流石に私も寝ながらそんな事はしないでしょう」
「うん……やっぱり良くわかん無いけど安心した」