不安、衣図ライグとメランの合流
―新ニナルティナ、ハルカ城。サッワが魔ローダーで暴れ半壊した部分もそのままにされている。
「ライス殿、先程合同軍事訓練の為にユッマランドに向かう魔戦車隊を中心とした我が軍が、城を横切って行きました。かなりの規模に思います」
事実上の蟄居謹慎の為、ハルカ城代となっているライスが報告を受け振り向く。
「ほほう、ようやく実行されるか。して魔戦車隊の規模は?」
「ははっ、三十両程かと」
「おお、かなりの数が揃ったな」
「魔ローダーこそありませんが、その他にも魔導士や重装騎馬隊や魔銃装備の歩兵が合わせて二千人程も随伴しています」
「おおよいではないかアルベルト殿、奮発しましたな。どうやってあの娘を説得したのかな、ははは」
ライスは書類を書きながら笑った。ココナツヒメの魔法レーダーが部隊を探知したのは、これからすぐ後の事だった。
アルベルト率いる訓練部隊はなるべくなるべくメドース・リガリァを刺激しない様に、東側の山あいに沿って進んだ。しかしアルベルトは重大な事を完全に失念していた。
ドドーーーン!! パパーーーン
山あいに沿って進む訓練部隊の目前に、突然魔法攻撃や魔銃の攻撃が炸裂した。山間部から撃ちおろす様な警告射撃だった。
「敵襲!! 敵襲!!」
「警戒しろ!!」
すぐさま各部隊の部隊長達が攻撃のあった東の山間部に狙いを定める様に命令する。
「待てっ! 撃つな!! 何か変だ、西からでは無く、東からの攻撃はおかしい!!」
魔戦車の砲塔から上半身を出したアルベルトが、慌てて各部隊長達に攻撃をしない様に命令する。
「その部隊止まれーーー!! 何者か素性を言え!!」
アルベルト達が積極的に反撃をして来ない事を確認して、林の中から見るからにガラの悪い大男とその手下的な、やはりガラの悪い男共が出て来る。
「アルベルト殿、山賊か何かでしょうか」
「我々は新ニナルティナの部隊だ。これからユッマランドに訓練に向かう所だ、君達こそ何者か?」
アルベルトは魔戦車から降りて、部下達にも正体不明の相手にも勇気のある所を見せた。
「ほら見ろ、そりゃ方向的にニナルティナしかねえわなあ」
「だれだよメドース・リガリァとか言ったやつはよお!」
いちいち言葉遣いが山賊ぽくって内心びくっとするアルベルト。
「だから君達こそ何者かな?」
「おお、これはスマンね、俺は衣図ライグだ。西リュフミュランの領主って所だ」
(あーーーーーーーー!!)
大男の名前を聞いてアルベルトは今更ながら重要な事を思い出した。新ニナルティナは、有未レナード公の故郷である、ニナルティナの東地域レナード地方と、南側の一部をリュフミュランに割譲していたのだった。そこにリュフミュラン王家と対立する衣図ライグが、半ば強引に盤踞していた。衣図ライグは元々の出身地であるライグ村と併せ、大きな勢力に成長していたのだった。
「ああフルエレくんや砂緒くんと共に戦ったという……」
(つまりこの者が友軍を撃破していた仇敵の大男……)
アルベルトの脳裏に捕虜となった、つらい記憶が蘇る。
「あーーなんだよ早く言えよ! 砂緒や嬢ちゃんのダチかよ、あの二人のダチなら俺のダチだな!! ま、過去の事は水にサラッと流して仲良くしようや! ははははは」
衣図は調子よくアルベルトの肩をバシバシ叩いた。
「い、いや痛い、痛いです」
「おおそうだラフ、隠れてるメランちゃんに出て来る様に言えや」
「へい!」
言われてスリか盗人にしか見えないヒョロっとした男が走り去って行く。
バサッガサッ!!
しばらくして山あいの森の中から、突然青い魔ローダーが起き上がって出て来た。
「おおおーーーいい! フルエレさん元気ーーっ? 何とリュフミュランにユティトレッドからSRVが送られて来てましたっ! こいつ弱そうなので、全然しんどくないですよっあれーーーフルエレさんは何処ですか?」
ユティトレッド魔導王国の量産型魔ローダーSRVから、黒い魔法帽子を被った魔導士の少女メランが顔を出して叫ぶ。
「此処にはフルエレくんは居ないよ!」
アルベルトは大声で叫んだ。
「えーーーーー? 訓練部隊なんでしょ? あの方、普段は大人しいけど、いざとなったら真っ先にぶっこんでいくタイプですよ!? 変だなあ……」
「い、いやあ元気にしてるよ、心配しないでっ!」
「は、はぁ?」
メランは以前、フルエレから彼女の壊れた魔ローダー、速き稲妻Ⅱの修理を急ぐ様に頼まれていたので、てっきり大きな動きにはフルエレが参加している物と思って首を傾げた。
「と、言う訳で僕達は敵じゃない、速やかに此処を通してもらいたいんだ」
アルベルトはあまり関わり合いに成りたく無くて、さっさと用件を言った。
「おおっそうだっ! 良い事思い付いたぜっっ、その合同訓練とやらに俺たちも行こうぜ!」
「そりゃいいですぜ、面白そうだ!!」
「よしラフ馬を曳け!」
衣図ライグが勝手に言うと、配下のガラの悪い男達が盛り上がって賛同する。
「い、いや、余り大事にしたく無いので、今回は遠慮するよ」
「ああ? 何言ってんだ? 遠慮する事ねえんだぜ、俺たちゃ砂緒とフルエレが繋ぐダチじゃねえか」
衣図ライグが巨体でアルベルトに絡みつく。
「い、いやお気持ちは有難いが今回は我が軍だけで計画的に進める事にするよ」
「ああ? まさか俺たちの好意を無下にすんのか??」
ガラの悪い部下達があからさまにガラの悪い態度で難癖を付ける。
「イケメン司令官さん! この人達見た目は完全に山賊だけど、悪い人達じゃないですよ! 私も行きますからご安心を!」
揉めそうな場面を見て、メランが必死に取りなそうとする。
「……では、今回の合同訓練は我が軍が主体で行う以上は、指揮権は完全に我が軍にあるとするが、それで良いならばっ」
「まっいいんじゃねえか、良し決まった!」
アルベルトはまた一波乱あると思ったが、衣図ライグはあっさりと承諾した。
「いいんですかい? なんでニナルティナなんかの配下に?」
「安心しろ、戦場の主力は魔呂だ。こっちに魔呂がある以上は最後はこっちがメインになるだろ」
「ああ、なる程、さすがですぜ」
衣図ライグとラフがこそこそと会話した。衣図ライグが合図すると、山の中からぞろぞろと男達が出て来た。総勢で五百名は居た事にアルベルトは驚いた。
ユッマランドのエリアに入ると、村々の人々から熱烈歓迎を受けた。
「おおお、有難い! 新ニナルティナから大増援だよ!!」
「この人達が戦ってくれて、昔みたいに自由に国外にも出れる様になれるんだね」
「がんばれーーーっ!」
魔戦車三十両、人員二千五百名に魔ローダー一機の大部隊となった訓練部隊を、人々は完全にメドース・リガリァと戦う為の増援だと誤解して手を振った。
「アルベルト殿、何か壮絶に誤解されておりますな……」
「雰囲気に飲まれない様に、各部隊長に自重する様に伝えてくれ。我が同盟女王にもくれぐれも大事にはしないと言ってあるからね」
当然、衣図ライグは彼が知るフルエレが同盟女王になった事はまだ知らない。
「あのさあ、同盟女王の雪乃フルエレとあの雪乃フルエレって同じ人物なんだよな?」
「大きな声では言えないがそうだが……」
「おお、やっぱりそうか! そりゃすげえや、ははは」
そのまま大歓迎の中、村や街を通って遂にはユッマランドの王城、クラッカ城前の大広場に至った。そこにはユッマランド側の訓練部隊と、美魅ィ王女の魔ローダーザンザスが剣を地面に突き刺し仁王立ちしていた。
「おお、ここにも魔ローダーがあったのかい? 見事なもんだぜ」
衣図ライグが歓声を上げた。その直後、仁王立ちするザンザスが片膝を立て、自動制御の掌を使って気合の入った戦闘服を着用した美魅ィ王女が降りて来る。
「今か今かとお待ちしておりましたっ!! 合同軍事訓練を実行して頂き、同盟女王陛下と貴軍には感謝のしようもありません。我が父王も同様に申しております」
王女は跪くと、戦闘服に形式的に付けられたスカートをぴらっとめくって、ティアラの輝く頭で礼をした。
「いえ、こちらこそ度重なる要請にも関わらず、遅れた事重々お詫びしたいです。私は一介の司令官、王女である貴方に跪かれる事は身分不相応です。どうかお立ちを!」
アルベルトも慌てて跪くと胸に手を当てて王女に礼をした。
「なんだこりゃ、めんどくせえな」
二人の感動的な対面を見て、衣図ライグと配下の荒くれ者たちがあくびをした。
「どうか……どうかこれを……御覧下さい」
美しい美魅ィは突然腰にぶら下げた小袋をアルベルトに渡した。怪訝な顔をして受け取るアルベルト。
「これは……?」
「どうぞお開け下さい」
言われてアルベルトはおずおずときんちゃく袋を開けてみる。中には小さいコロコロと転がる小片が入っていた。
「何……ですかな?」
「我が愛する美しき侍女、璃凪の遺骨で御座います。彼女はこの日を心待ちにしていた事でしょう」
(うっ……)
アルベルトは一瞬絶句した。
「ええ、彼女の遺志を受け継ぎ、この地に平和を構築致しましょう! で、訓練区域は何処になりますかな?」
アルベルトは紐を絞り直したきんちゃく袋を、一礼してゆっくりと彼女に返した。そして何とか声を絞り出して話題を換えた。
「はい、ここからどんどん西に向かい、国境ギリギリで挙行したいと思います」
「え?」
てっきりユッマランド国内中央部か南端で行われる物と思っていたアルベルトは慌てた……




