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スピネル、海と山とに挟まれた小さき王国攻め

 ―海と山とに挟まれた小さき王国、の外側。


「スピネル隊長、以前に我が国の先遣隊が撃退された結界というのがこれらしいです」

「ほほう、見事な物だな」


 魔ローダーの指が触った時だけ、波紋の様に半透明な結界が見えた。以前通常部隊が撃退された為に、修理成ったスピネルが乗る魔ローダー、デスペラード改Ⅱがわざわざ派遣されて来たのだ。

 ガシーンガシーン!!

スピネルがデスペラード改Ⅱの剣で結界を叩きまくるが一向にびくともしない。


「以前からそれがしは思っていたのだが、何の為に城や砦を攻めるのだろうか? こんなやっかいな物を攻める事は止めて、城の廻りに巨大なバリケードでも築いてその隙に都市や交易路を押さえれば良いのではないか?」

「いやーあのー海と山とに挟まれた小さき王国自体が都市をぐるりと壁で囲った都市国家になっているので、それをさらにぐるりと囲んでも敵はある程度の期間籠城出来るのでは……」


 普段から何を考えてるのか良く分からない、あまり本音を見せないスピネルに部下が恐る恐る意見する。


「では都市国家ごとぐるりと囲んで根気強く長期間兵糧攻めにすれば良いのではないか?」


 スピネルがちゃんと話聞いているのかという様な事を言う。


「いやーそれはー物凄く巨大な包囲網が必要になり、長期間維持するその費用だけで莫大な物になり非現実的かと。仮に余程我らが大勢力で可能としても、包囲網が巨大になればなる程抜け道が必ず出来て、そこから綻びが生じ補給がこっそり行われる可能性も高いでしょうし……それにこの国は海に面している訳ですし、大船団で海を封鎖する必要もあります。そもそも我々には船もありませんし」


 再び部下が恐る恐る意見する。


「ほほうなる程。つまり海と山とに挟まれた小さき王国は、たとえ中の戦力は小さくとも、この結界がある限りわれわれ程度の小部隊で落とす事は不可能なのではないかな? しかし平和国家のこの国からは攻めて来る事はまずないのだな」

「ですねえ」

「と、言う事はだな、最初の話に戻るがこの国を敢えて攻める必要性は全く無いのではないか? 私はこの攻城戦の中止を考える。どう思う?」


 部下は結局はこの結論が言いたかっただけなのだなと思った。内部に内通者を作るとか工作員を送り込んで結界を破壊する等のめんどくさい事はとにかくしたく無いようだった。


「いやあ私の口からは何とも」

「では国境に工兵に陣地を構築させて我らは撤退しよう」

「ハッ」


 そういう経緯でスピネル率いるメドース・リガリァの第二陣はあっさりと撤退した。



「王様、敵魔ローダーと部隊の大部分が少人数の兵を残し撤退して行きました」


 兵士が抱き合う王とお后に状況を伝える。


「嗚呼貴方、敵魔ローダーが撤退して行ったそうよ!」

「おお、なんという幸運! 降伏勧告の軍使が来たら即降伏しようと待ち構えておったが……」

「ああ、わたくしは自害する用意もしておりました……こんな事が知れたらまた砂緒さんやセレネさんに叱られそう……」

「そうだね、敵が帰ってくれて良かった良かった……」


 全く変わっていない王様とお后さまは胸を撫で下ろした。


「あの、少数の工兵が砦を築いておりますが……追撃は?」


 家臣がやれやれ感一杯の王様に敢えて聞く。


「滅相も無い! 見て見ぬふりしておれば良い」

「何じゃー? またココナの肩入れしておるメンド何とかか、余が追いかけて瞬殺してやろうか?」


 王様の横で魔王抱悶(だもん)がお菓子を食べていた。


「止めてちょうだい抱悶ちゃん! 城に侵入した以前と違って、撤退してくれたのだから波風立てないで欲しいのよ」

「まあ、おばちゃんがそう言うなら余が出て行く程でもないのじゃな、ハハハ」


 抱悶は再び笑いながらお菓子を食べ始めた。お后様は抱悶のかわいい黒い熊耳のついた頭を撫ぜ撫ぜした。娘二人が失踪した今となっては、時折易々と結界を潜り抜け城に現れる抱悶は大切な娘代わりになっていた。また両親が幼い時に死去した抱悶も王様とお后様にとても懐いていたのだった。



 ―メドース・リガリァ本国。以前に起こったユッマランドとの戦闘での魔ローダー破損のショックからも立ち直り、今やセブンリーフ大陸中部を殆ど制覇した大国として大変な賑わいになっていた。


「まあ、スピネル様が南西部への侵攻からのお帰りよ!」

「スピネルさまーーっ!! こっち向いてーーー!!」

「きゃーーーっ」


 寡黙で本心を見せないぼくとつな性格は兎も角、弁当屋の娘のコーディネートも受け、小奇麗になり元々の外見のイケメンが目立つ様になったスピネルは既に若い女性たちの注目の的だったが、スピネル自身はそうした声を一切無視していた。門から街に入ったスピネルは馬に乗って無表情のまま城に向かう。


「あ、スピネルッ! 今日もアレ用意してるの、べ、別に帰って来るの待ち構えてた訳じゃないのよ、けどお店のが偶然大量に余ってるから……」


 当の弁当屋の娘の声がして、瞬間的に顔を向けるスピネル。


「ああ、そうだな、もらっておこう」

「え、ええ貴方の部屋で……待ってるわ!!」


 弁当屋の娘は隠しきれない笑顔になった。


「何ー? あの子何者??」

「抜け駆けよーっ」


 周囲の娘達が嫉妬の目になった。



 メドース・リガリァ城内、サッワの大きな部屋の前。


「ほら、早く脱げよ! 今日はお前と一緒に風呂に入るんだぞ、へへへ」


 サッワが早速華奢なフゥーの手首を掴み、馬鹿殿さまみたいな事を言って困らせている。その周囲で美女部隊がやれやれという顔で見ていた。


「お、お許し下さいサッワさま、お風呂は恥ずかしいです……お願いします許して」


 サッワも好みから外れるこの美少女と本気でお風呂に入りたい訳では無く、こうして困らせる事が楽しいのだった。美少女に許してっと哀願される度にサッワに鳥肌が立った。


「おお、サッワではないか、もう怪我は治ったのか。もうそろそろ軍議であろう」


 スピネルがサッワの痴態を表情一つ変える事無く見ながら飄々と言った。


「あ、ス、スピネルさん……お久しぶりです。もう体は良くなりました」

「それは重畳、急ぐのだぞ」


 スピネルは美少女の手首を掴み引っ張るサッワの姿も、取り囲む美女達も一切気にせず通り過ぎようとする。


「待って下さいスピネルさん、僕はとうとうココナツヒメさまより美女ばかりの魔ローダー部隊を任される事になったのです、凄いでしょう。こ、こうなった以上はそ、そのスピネルさまと同格の部隊指令、今後は……サッワ殿とお呼び下さい」


 明らかに恐る恐る緊張しながらサッワが言うと、スピネルは一瞬だけ恐ろしく冷たい目になったが、直ぐにいつもの様に無関心な顔になった。


「それは無礼を致した、サッワ殿、もうすぐ会議ですぞ」


 一言言うとスピネルはすたすたと興味なさげに通り過ぎて行く。サッワは直ぐに尊敬するスピネルさんに見捨てられた様な気持ちになり、恐ろしくなってフゥーの事も忘れて後を追いかけた。


「す、スピネルさん待って下さい!!」



 実質的にメドース・リガリァを取り仕切る独裁者の貴嶋を中心に、多くの家臣や軍人が集まり軍議が開かれた。と、そこに突然盲目の美しい女王エリゼ玻璃音(はりね)が侍女達を従えゆっくりと入室して来た。どよめく議場。


「おお、何故女王が……」

「今日は今後の方針を決める重要な会議のはず、私も臨席します。ご安心なさい全て貴方の決める通りとしますから」


 既に男女の親しい間柄となっている女王と貴嶋が小声でひそひそ話し合う。女王は貴嶋の座る椅子の後ろに特別な椅子を用意され座った。


「今回は女王陛下自らご臨席なされる重要な会議である。既に皆が知る通り、敢えて攻める事無く放置した最弱国、海と山とに挟まれた小さき王国以外、我が国はセブンリーフ大陸中部地域を全て制覇する大国となった。これも全て女王陛下の御威光の賜物であろう、一同礼!!」

「女王陛下、おめでとう御座います!!」


 並み居る家臣達が全て起立して女王を賞賛し、そして着席した。


「うむ、皆も知る通り中部地域東には北部海峡列国同盟に所属するユッマランドが在り、我らと和議を結んでおる。そして北はその北部海峡列国同盟の中心国、新ニナルティナと境界を接している。そして南部には我が国との友好国であり何かと援助を頂いている、まおう軍のココナツヒメ領がある。こうした現状の中、そのココナツヒメ殿より五機もの魔ローダー部隊が送られて来た。これに修理が成ったスピネルとサッワの魔ローダーを加えれば、我が国は魔戦車隊やゴーレム部隊と合わせ、空前の戦力となった物と思われる。もはや我々が以前の様に北部強国からの侵略に怯える事は無いであろう」


 貴嶋が自信たっぷりに語った。


「もはや今の我々はかの百年前のウェキ玻璃音大王に匹敵する、いやそれ以上の権勢に至りましたなっ! 女王陛下、貴嶋さま万歳!!」


 家臣達が口々に賞賛した。


「うむでは、今後の我々の方針を策定したい。まずは現状を維持し新領土の守りに徹し中部の大国として発展を考える。次に中部小国群で唯一残った海と山とに挟まれた小さき王国を全力で征服する、そして最後は北部海峡列国同盟に攻め込む。これらの案が浮かぶがどうかな? 皆の忌憚の無い意見を聞きたい」


 会議場内がざわついた。


「北部海峡列国同盟に攻め込む……そんな事が可能なのか?」

「いやいや北部海峡列国同盟の新女王とやら、実は結構なアレで有名らしい。一国や二国切り取っても大した反撃は無いかもしれんぞ」


 砂緒の愛する雪乃フルエレは不名誉な言われようをしていた……


挿絵(By みてみん)

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