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サッワ強奪

「あーーー凄く楽しかったですねえ、セレネと色々な旅が出来て幸せでしたよ」


 セブンリーフの新ニナルティナ目前、黙々と蛇輪を操縦するセレネに向かって、後ろに立つ砂緒が必死に機嫌を取る様に話し掛ける。


「へぇー? まあね、途中までは……」

「え? う、うん……いやあ、私は終始楽しかったですよー、色々な人々に出会えてっ」

「でしょうね」

「……ほら、セレネさん笑ってごらん! にこっセレネが笑えば世界が幸せっテヘッ」


 砂緒が引きつった顔で、なおもしつこく食い下がる。


「キモッ」

「……うおーーーセレネ先生から久々のキモッが出たぞ! 嬉しいですねえー」


 兎幸(うさぎ)は下の操縦席で無機質な顔で口だけを動かし、ぽりぽりとお菓子を食べ続けている。その姿はまるで兎みたいだった。


「んで、ニナルティナに帰ったら砂緒どうするん? あたしは今回のレポートを持って一旦学校に帰るが。あーあたしが帰ってせいせいするだろ」


 しばらくの沈黙が続いた後、久々にセレネから話し掛けて来た。というよりも嫌味だった。


「せいせいする訳ないでしょ! セレネが居ない間ずっとセレネ泣いてないかとか寂しくしてないかとかずっと心配するんですよ! そういう事言わないで頂きたい」


 突然真剣な顔をして怒りだす砂緒にあっけにとられる。


「……そりゃ済まなんだ。でもあたしは三歳児じゃ無いんだから、そこまで心配される必要は無いよ。でもまーありがと……」


 またしばらくの沈黙が続く。


「もうそろそろ新ニナルティナの港の倉庫に着いちゃうぞ。フルエレさんどんな顔して出迎えるんだろうな、案外あら帰って来てたのー? とかだったりして」


「そんな訳無いでしょうきっとす、すなお……おお、砂緒……貴方が居なくて、貴方がどれ程私に大切な存在か気付いたの……もうどこにも行かないでッ抱きッッ。ふふふそれは僕も同じさ、フルエレが居なくて胸が張り裂けそうだった……もう絶対に離さないよフルエレ………………ざっとこんな感じでしょう、フフ」


 砂緒はオーバーアクションの歌劇風の振り付けで一人二役を演じきった。


「へェーそりゃ見ものだわ」

「まあまあ見てなさいって」


 砂緒はセレネの前にも関わらず、フルエレの事を思い出しにこにこ顔になっていた。砂緒自身が長期間街を離れた事によって、完全にアルベルトの事を都合よく忘れていた。そのままコンテナを離脱した機体はスーッと海に着水すると、静かに倉庫に入って行った。


「不思議なもんだな、少しの間旅をしてただけで帰って来るとこの街が新鮮に見えるよ」


 魔輪に跨って走るセレネは、新ニナルティナ港湾都市の賑やかな街並みを眺めた。


「しかし……神聖連邦の都、ナノニルヴァもデカかったですね。魔輪で走る距離から換算してもニナルティナより遥かにデカいのは事実でしょう」

「……だろうな」


 セレネは自分達が知っていた世界よりもさらに大きな世界がある事を思い知らされた。兎幸はセレネに後ろからしがみ付きながら、久々に見るニナルティナをキョロキョロ眺めている。


「さーそろそろ着くぞ」



 砂緒とセレネと兎幸は、久々のニナルティナ冒険者ギルドビルディングの地下一階、喫茶猫呼(ねここ)のドアを開いた。


「どうもっ皆さんの砂緒さんがご帰還ですよっ!」


 砂緒が意気揚々と店の中に入るが、店の中は非常にどんよりしていた。イェラはテーブルの上に座り、腕を組んで目を閉じて物思いにふけっている。猫呼は昔の様にテーブルに頬杖を着き、ソーダ水のストローを咥えてくいくい上下に動かしている。さらに見た事も無いよく分からない少年が一人壁にもたれ掛かっている。


「おっ砂緒帰ってたのか?」

「おかーえり~~」

「こいつが砂緒かよ」


 想像してたのと百八十度真逆の対応だった。兎幸は挨拶するタイミングすら失った。


「暗い……」

「砂緒、これのどこが感動の対面だよ……」


「え? 砂緒?? 砂緒とセレネが帰って来たの??」


 店の奥からフルエレがゆっくり出て来た。


「……はい、今帰りました」


 恐る恐るフルエレを見る砂緒。


「砂緒!! 待ってたのっずっとずっと帰って来てくれるのを待ってた!!」


 フルエレはすたたっと走り寄ると昔の様に砂緒に抱き着いた。


「あらまあ」


 セレネは真横で展開される感動の再会劇にうんざりする様に呟く。


「ほらほらほら!!」

「砂緒……待ってたの、お願い、今すぐユッマランドにセレネと一緒に飛んでちょうだい!!」

「は、はあ? あのわたくし今帰って来たばかりなのですが……」


 フルエレの突然の願いに呆然とする砂緒。


「お、お願いっアルベルトさんが心配で心配で堪らないの……こんな事砂緒に頼むのなんて酷いって、私の事好きで居てくれてる砂緒に酷い事言ってるのは分ってるの、けどこんな事頼めるの砂緒しか居ないの、お願い……お願いよ、ううぅ」


 フルエレはいつもの切羽詰まった時になる状態で、泣きながら砂緒に哀願した。帰って来てすぐ感動の対面どころか、いきなり泣きながら他の男の為に、一番嫌いなアルベルトの為に飛んで行く様にお願いされて、砂緒は情けなくて脱力した。


「あの、事情から説明して頂けると有難いのですが……」


 砂緒はもはや泣きじゃくるフルエレの肩を掴んで、一旦落ち着かせる事にした。



 ―ここで時間を砂緒達がお気楽に旅をしていた頃に戻す。


「ふう、なんてしぶといガキだい……来る日も来る日も拷問を受けて、誰に命令されたのか何に所属しているのか処か、自分の名前すら言いやがらねえ」


 新ニナルティナ、ハルカ城の地下牢で長期間投獄されているサッワを拷問し続ける男が吐き捨てる様に言った。


「ふふふ、僕に何をしても無駄さ、さっさと諦めて僕を殺せばいいさ」


 投獄されて以降、サッワは驚異的な豪胆さに目覚め、来る日も来る日も拷問に耐え続けた。


「ち、減らず口を叩くんじゃねえ!!」


 ドバシッと拷問係がサッワの頬を殴る。サッワの口から鮮血が吐き出される。


「へへへ、もはや気持ちいいくらいさ」

「舐めるなよ、お前みたいなガキ、本気で拷問すれば五分で落とす事なんて簡単なんだからな! それがお心の広いお優しい女王さまとやらのお達しで、手足や指を切り落とすのは駄目、目ん玉えぐるのもダメ、舌を切り落とすのもダメ、やけ火箸を押し当てるのもダメで、駄目ゝ尽くしで苦労してるんだっ! おらっ」


 また拷問係がサッワを強く殴った。


「ひゃはは、そりゃ一度お優しい女王さまとやらのお相手してあげなくちゃな、ひゃはは」


 サッワは苦しみが早く終わる様に常に必死に拷問係を挑発し続けた。強い拷問が駄目な以上、後は処刑だけだと思ったからだ。


「ははは、そうはいかんぞ。女王様は実は怖いお方なのかも知れんな。お前を此処に繋ぎっぱなしで、俺に殴らせ続けるのだからな……まだまだ続きそうだな、へへ」


 サッワは内心挫けそうになっていたが、その度に盲目の女王やココナツヒメの妖艶な姿を思い出して己を奮い立たせた。


「へへへへへへ……」


 サッワが不気味に笑ったのを拷問係が気付いた。


「何がおかしい? 気でもおかしくなったか??」

「へへ、お前みたいなブ男が絶対に相手にしてもらえない女王様の事を……」


 言いかけてサッワはついつい情報を漏らしかけた事に気付く。


「へ~~女王様だって? 初めてだな、お前が自分の事を話し出したのは。遂にお前も決壊する時が来た様だな。これまで毎日地味に痛め続けた甲斐があったもんだぜ」


 拷問係が不気味に笑ったのを見て、サッワは余計な事を言った事に後悔した。それに拷問係が言う様に、もはや忍耐と気力が尽きかけているかもしれないと感じ始めた。


(嗚呼、メドース・リガリァの女王様、ココナツヒメ様、お許し下さい……サッワはもう駄目かもしれません……お許し下さい……)


 地下牢の高い場所にある小さい窓から差し込む少しの月明りを見上げて、サッワの目から久しぶりに涙がこぼれた。


「おっ子供らしくピーピー泣き出す兆候か? おらおら」


 サッワとは逆に気力が回復した拷問係は容赦無く殴り続ける。


 ガラガラガラッゴワッシャッッ!!!


「何だ!?」

「??」


 巨大な音に拷問係が叫んだ直後、地下牢の床に魔ローダーの巨大な手が現れ、さらに鉄格子や石で出来た壁を壊して突き破り、魔ローダーの上半身が現れた。

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