クラウディアに別れ
一行はようやく神殿建設予定地に帰って来た。職人達の話では明日魔法剣が完成すると聞き、一行は今晩は仮宮殿で泊まる事になった。
コンコン
砂緒の部屋のドアがノックされる。
「あれ、セレネどうしたんです? 眠れないのですか?」
砂緒の言葉を無視して部屋に入って来る。
「明日、もう帰るんだぞ……」
「うん、そうですねー」
「そうですねーじゃ無いだろう。このまま何も無くて帰って良いの?」
セレネが目を合わせずに、思い詰めた様に問い掛ける。
「何も無いのが一番じゃないですかっ!」
「そういう意味じゃ無くてだな……こ、今晩一緒の部屋で眠る?」
「いやーーーそれは問題があるでしょう、どうせ明日からもまた同じ建物で暮らすのですよ、一緒でしょう」
「一緒じゃない! 帰ったらフルエレさんが居るだろうが……もう宙ぶらりんで過ごすのは辛い」
セレネは砂緒に抱き着いた。
「セレネ……だめですよ……」
「何故?」
「怖いんです……今でさえ大好きなセレネとそんな事になったら……きっと一日中セレネの事で頭がいっぱいになる……そうなるのが怖いんです」
「ど、どうして、それでいいじゃん」
無神経な砂緒の意外な答えにドキドキするセレネ。
「そうなったら、フルエレを守る事に支障をきたします……」
「何だよそれ……そんなのもうどうでもいいじゃん! フルエレさんの事は諦めろよ」
ガチャッ
その時突然、砂緒の部屋のクローゼットから、大きく成長した胸の形もはっきり見えるタンクトップにショートパンツ姿の兎幸が出て来た。
「砂緒ーーー何時まで隠れてればいいんだよ! 早く一緒にお風呂に入ろっ! ……あれセレネも入るの?」
その言葉に一瞬セレネも砂緒も凍り付いた。
「あれ、兎幸錯乱してますね? どうして此処にいるんです?」
「………………おい? これは何か説明してよ」
「一緒にお風呂にはいろーーー!!」
「しーーーっしーーーっ兎幸、空気読んで」
冷や汗の砂緒が必死に首を振る。
「何であたしは何時も拒否られて、兎幸先輩は良いんだよ……」
「馬鹿ですね、兎幸は魔法自動人形ですよ、変な気なんて起きませんよ!!」
「砂緒、さっき魔改造された時に、身体はバイオ材料に置き換えられたって言ったよ? 忘れたのー? だから砂緒見たい見たい言ってたじゃないかっ! バカだなあ」
兎幸がとても悪い情報を伝えてしまう。
「いや、これは本当に違うんですよ、さっきセレネに言った事が事実なんです! 本当にセレネの事を一番大事に思ってるんですってば!」
「……そんなの理解できないよ」
これは本当に素直に砂緒の最低な本心だった。七華に、彼は知らないが死亡した璃凪と、恐ろしい事に一夜をともにした相手と大事にしたい相手とを砂緒は別けて考え、特にセレネには何故か勇気が出なかった。
「……それにただお風呂に入りたいだけの、子供の様な純真な兎幸先輩を騙してそういう事したら犯罪だからな……」
「うっ、そうです、その通りです。反省して寝ますから許して下さい」
砂緒は光の速さで土下座した。兎幸は不思議な顔で砂緒とセレネを交互に見ている。
「兎幸はいいんだよ、前からずっと砂緒もフルエレの事も大好きだよー?」
「もういいっ、勝手にしてよっ」
セレネは半泣きで出て行った。
「あーーあーーー泣かせたっ!」
「兎幸が変なタイミングで出て来るから……」
この期に及んで人のせいにする悪質な砂緒だった。
―次の日。
砂緒達が食事を終え、猫弐矢に呼ばれて出ると、遂に魔ローダーサイズの魔法剣が完成していた。
「どうだね、凄いだろう! これが魔法剣だよ、早速デモンストレーションしてよセレネちゃん!」
「いや……今日は調子悪いからパス」
「え?」
セレネは元気が無く声も小さい。
「あ、セレネはなんか調子悪いみたいですね、すす、すいません兄者」
「そうなのかな? そんなので今日これから飛び立って帰れるのかい?」
猫弐矢と伽耶が心配そうな顔をする。
「はい……大丈夫ですから、出来れば早く帰りたいです」
「本当? 凄く元気無いよ」
「はい、大丈夫です」
(あわ、あわわわわわわ、セレネがリセットされてしまった……)
「そ、それじゃあ名残惜しいが砂緒くんセレネちゃん兎幸ちゃん、お別れだねまた来てね。それと砂緒くん、忘れずに大切な妹を里帰りさせてね!」
「皆さん私を此処まで連れて来て下さって有難う御座います。この御恩は決して忘れません」
伽耶が深々と頭を下げた。
「お、おお兄者、マブのダチの猫呼は必ずお連れしますぞ! それまではしばしお別れでござる。ほ、ほらセレネさんも何か言って。」
「ほい、ではまた」
セレネはぴっと手を上げて直ぐに横を向いた。
「兎幸ここも猫弐矢も気に入ったよ、いつかここで暮らしたいなあ……そうだ兎幸、その猫耳欲しいな!」
「もともとウサ耳ついてるのに、さらに猫耳まで装着したらカオスでしょ」
セレネが冷めた突っ込みをする。
「おお、兎幸ちゃんみたいな可愛い子がクラウディア人になってくれるなら大歓迎だよ! 今度来たら猫耳を進呈するよ!」
「わーーい!!」
兎幸は飛び跳ねた。
「あーーーいーーーなーーーわらしもクラウディア人の証の猫耳が欲しいのーー!!」
調子にのって砂緒まで猫弐矢にお願いする。
「お、砂緒くんみたいなおもしろ可愛い弟が出来るなら大歓迎だよ! 砂緒くんには魔力が無くても動く特注品を開発しておくよ!」
「わーーーーーーい、兄者ありがとう!! あっ」
じとっとした目をして見ているセレネに気付いて砂緒が静かになる。
「そろそろ本当にお別れします。ううっ兄者さらばですっ必ず妹さんを連れて来ますぞ!!」
「うん、また来てねっ! 猫呼の事よろしく頼むよっ」
「ばいばーーい」
砂緒と兎幸は大きく手を振り、セレネは無言で軽く会釈すると、そのまま三人は蛇輪に乗りクラウディアの地から飛び立った。




