冥界への入り口洞窟、貝輪をそなえる
その後仮眠を終えた一行は旧都に入る事無く飛び立ち、高度を上げて来た行程と全く同じ、泡海を北上し陸地の北側を西に辿ってクラウディアまで戻って来た。
「ちょっと良いかなセレネちゃん、神殿建設予定地に降りる前に行って欲しい所があるんだ」
下の操縦席の後ろに立つ猫弐矢が突然言い出した。振り返る伽耶。
「う、兄者何でしょうか? またヌの話では無いですよね……」
「はわわ、砂緒それを言うなよ! いや言わないでよ」
また猫弐矢兄さんが変な事にならないか心配になった砂緒とセレネが上の操縦席で慌てる。兎幸は立ったまま無機質な表情でお菓子をポリポリ食べ続けていた。
「あはは心配しないで! 観光名所があるから見せてあげたいんだ」
「まあ、それはどんな場所なのでしょうか?」
伽耶が目を輝かせて喜ぶ。
「着いてからのお楽しみ!」
「素直に期待して良いのでしょうか……」
「う、猫弐矢さんはちょっと変な所があるしな、いやあるからね……」
「あの……さっきからセレネ何か雰囲気が変ですけど、どうしたのでしょう?」
「いやちょっと、お淑やかにしようかなと思って」
「……どうしたんですかセレネ、熱でもあるんですか?」
座席の後ろに立ったままの砂緒が真顔で心配してセレネの額を触る。
「熱なんか無いよ。いやだってお前、いや砂緒……お淑やかなお嬢様タイプが好きなんでしょ?」
「え……別にそういう訳では……何か見ました?」
「いやー砂緒こそ何か言う事ない?」
「い、いえー?」
「あはは」
「うふふ」
「もうすぐだ、西の北側の岸壁に降りてみて!」
「あっはいはい、あそこらへんかなあ」
砂緒と二人で謎の笑い合いをしていたセレネは、慌ててクラウディア西の北側の岸壁に降り立った。鳥型のまま蛇輪の操縦席から皆が降りて来る。
「ここに何があるのかなーっ?」
兎幸がお菓子を食べながら歩く。
「兄者殺風景な場所ですぞ、此処に観光地があるのですか?」
確かに砂緒が言う通り、蛇輪を着地させたのも一歩間違えば水没しそうな危うい場所だった。
「あはは、ここだよここ、此処に冥界への入り口と呼ばれている場所があるんだ」
「え、め冥界への入り口ですか!?」
「また変な場所を……」
「冥界ッ冥界ッ!!」
兎幸が異常興奮して飛び跳ねる。
「ほら此処! 斜めに歪んでいる洞窟の入り口があるだろう、これを奥に進むと冥界への入り口に繋がっているらしい……」
猫弐矢が指差した先に洞窟はあった。
「よし、早速入ってみましょう!」
砂緒がずんずん猫弐矢が指差した洞窟に入って行こうとする。
「待って! 今の話聞いた? 冥界に繋がってるって話でしょーがっ入っちゃダメでしょ」
セレネが慌てて砂緒の腕を掴む。
「冥界とかってどうなってるか気になりませんか? もう見たくて見たくて仕方無いです」
「いや駄目だろ、砂緒死んじゃうよ、やめなって」
「いーきーまーす」
「だーめーだー」
「おお、よく分からない戦いだな! だははは」
兎幸が指をさして笑う。
「ああっ、でも皆あんまりじろじろ見たらだめだよ!」
「え? 連れて来ておいて何ですか?」
「あーーーこの冥界への入り口を夢で見ちゃうと死んじゃうんだよ、怖いよね! あはははは」
猫弐矢があっさりと恐ろしい事を言う。
「何て所に連れて来るんですか!? 砂緒が死んじゃったらどうしてくれるんですかっ」
セレネが猫弐矢に詰め寄る。
「せ、セレネ嬉しいですが、そこまで気にする事は無いです、迷信でしょう……」
「いや、僕は迷信じゃないと信じているよ」
猫弐矢は真剣な顔で言っている。
「余計駄目でしょっ!」
「だから僕たちは古くから此処にお供え物をしてるんだ……」
猫弐矢は洞窟の入り口を眺めた。
「おお、そうだ兄者! 私はゴホウラ貝を大量に持っています。魔法剣作成のお礼を兼ねてそれを全て進呈致しましょう……」
そう言うと砂緒はコンテナの魔輪のボックスから、アイイから貰ったゴホウラ貝の残り半分を持って来た。
「これは……こんな良質な貝を何処で……これだけあれば貝輪が沢山作れるよ、しばらくお供え物には困らない……有難う砂緒くん!!」
猫弐矢は砂緒の腕を掴んでブンブン振る。
「えらい気前が良いな……アイイさんから貰ったゴホウラ貝、売れば結構な値段になったんじゃないの?」
「本当に貰って良いのかい?」
猫弐矢が戸惑う。
「いやいや値段以上の物が手に入ったから良いのですよ」
「ど、どうした砂緒……気持ち悪い事言わないで欲しいよ」
「じゃあ兎幸は画像としてこの穴を記録しとくね!」
「やめなって……」
セレネが兎幸を目隠しする。
「じゃあそろそろ帰ろうかっ!」
「猫弐矢さん一体何を見せたかったんですか?」
伽耶が怪訝な顔をして聞く。
「え? クラウディアには色々な物があるよーって。変かな?」
「い、いえ……」
伽耶はやっぱり猫弐矢も変な人だと思った。




