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聖都上空に飛来する未確認飛行物体、蛇輪

 ―旧聖都、深夜


「いつになったら砂緒さん達帰ってこられるのでしょうか……」


 猫弐矢(ねこにゃ)が顔パスと言う通り、旧聖都に残された神殿の公的施設に宿泊する事にした二人だが、深夜になっても一向に戻ってこない砂緒とセレネがさすがに心配になって来た。


「伽耶ちゃん、あの二人ってお金を持っているのかなあ」

「かなあじゃ無いですよ、猫弐矢さまって結構いい加減なんですね」

「いやあ、魔輪で飛んで行ったし細かい事相談する時間も無かったんだよははは」

「はははって……」


 きっと猫弐矢は私、伽耶を栢森(かやのもり)に連れて行く事で頭がいっぱいだったのだなと思った……

 キィイイイイイイイイイイ


「うっこの音は何だろう?」

「乗って来た蛇輪という乗り物の音ではないでしょうか……」

「あの……猫弐矢さま、外で不思議な物が飛び回っていると騒ぎになっておりますが……」

「う?」

「まさか」


 宿泊している館の人が恐る恐る聞きに来る。


『ねこにゃーーー!! 伽耶ーーー!! 出ておいでっ!! 兎幸(うさこ)だよ』


 その直後、蛇輪の魔法外部スピーカーで兎幸の大声が辺り一帯に響き渡る。


「うわっ兎幸さんだっ」

「ご近所迷惑ですよ、神聖連邦の役人にばれたら大事だよ、でましょう」


 二人は顔を見合わせて慌てて外に出ると、魔法サーチライトを付けた鳥型に変形中の蛇輪がヘリみたいにホバリングして館の上を漂っていた。


「何してるんですか兎幸さん! それは隠しておくと言ったでしょう!」

『砂緒が帰って来ないから心配! 保護者として迎えに行くのっ! 猫弐矢と伽耶は来る??』

「そんなので飛んでっちゃ目立つでしょ!」

『うんわかったー来るの? 留守番するの?」

「駄目ですね、あの人聞く耳無いみたいです。ウサギの耳は飾り物でしょうか」

「仕方ない、ストッパーになる為について行こう!」

「はい!」

「兎幸ちゃん、僕達も行くよ! 降りて来て!!」

『降りる場所ないから、館の前の道路に出て! コンテナ空いてるから、そこから乗り込んで!!』

「殆どすくい網漁みたいな滅茶苦茶言ってます!」

「仕方無い身構えるんだ!! コンテナが来たらジャンプだ!!」

「ええ!?」


 慌てる二人を無視して本当に開いたままのコンテナをぶら下げた蛇輪が地上すれすれに迫って来る。スピードこそゆっくりとホバリングしているが、一歩間違えば大事故だ。


「行きますよ、えいっ!」

「わわっ!!」


 二人がジャンプすると金魚すくいの様にひゅいんと移動してコンテナの奥に転がりこませる。コンテナの中で猫弐矢は伽耶の身体をしっかり抱き締め、二人でごろごろ転がって壁にぶち当たる。


「ぶっ!!」

「大丈夫ですか猫弐矢さま!?」

「ははは、大丈夫だよ、伽耶ちゃんこそ大丈夫かな?」

「は、はい……」


 抱き締められた事を考えて遅れて赤面する伽耶。

 ガチャッ!!

蛇輪がスピードを上げた事によって、あるいは兎幸が機体を振った事によってかコンテナのハッチが閉まった。



 ―聖都ナノニルヴァ、繁華街もさすがに殆どの店が閉まり魔法街灯だけの寂しい状態となっている。そこを帰宅を急ぐ人、閉じた店の前でたむろする若者など深夜独特の雰囲気となっていた。


「やばいですね……魔輪は最初に捕まった時の駐在所的な建物の前に置かれたまま、しかも警備兵が十人以上集まっています……どうしましょう」


 砂緒は姫乃殿下と別れた後もセレネが見つからず途方に暮れていた。よく考えなくとも巨大な聖都ナノニルヴァで都合よくばったり会える事の方があり得なかった。だから唯一の二人の目印となる最初に捕まった場所から離れられないのだった。


「うう、あちこち警備兵が走り廻っていますし、歩いて旧聖都に帰る訳にも行かず、本当にどうしましょうか」

「お、砂緒くんお困りかな?」


 突然後ろからセレネが話し掛ける。


「うはっセレネ居たんですか? 探していたのですよ……」

「そりゃここしか行く当てが無いからなあ」

「しかし魔輪があんな状態で……あれが無いと山を越えるのがめんどくさいし、第一フルエレが悲しみますよ」

「おーーフルエレさんかあ、もう魔輪にも関心無いんじゃね? アルベルトさんばっかで」

「………………どうしたんですかセレネ、なんだか変ですよ」

「さぁ? 砂緒はなんか良い事でもあったか?」

「え? 何なんでしょうか」

「あそうだ! 再会の記念にキスしてみよっか?」


 そう言ってセレネはいきなり路上で顔を近付けて来る。しかし砂緒はすっと顔を背ける。


「どしたどした? キス好きの砂緒さんではないですか」

「今こんな時にする事じゃないでしょ、本当に変ですよセレネ……」

「砂緒何か言う事無い??」

「無いですよ、そんな事よりどうやって魔輪取り返すか考えましょう」

「へェー」



「距離的には近いから、やっぱり飛ぶと早いね! もうナノニルヴァだよ」


 猫弐矢が小さい窓から外を見る。


「兎幸さん一体どうやって二人を見つけるつもりなのでしょうか?」

「さあー」

「さあって……」

『砂緒ーーーっ! 出ておいでっ! 迎えに来たよっ!!』


 突如大音響が響き渡る。


「兎幸ちゃん滅茶苦茶だなあ、はははは」

「はははじゃ無いです!」


 兎幸は明るい場所をしらみつぶしに大声で呼び続けた。



 ウウウーーーーーーーウウウーーーーーーーー!!!

華麗な金銀細工が施された緑の屋根の多層塔を誇る、ナノニルヴァの巨大な宮にけたたましく魔法サイレンの音が響き渡る。ナノニルヴァの街の住人から次々と未確認飛行物体(UFO)が飛来していると通報が殺到していたのだ。


「姫がご帰還されたと思ったら一体今度は何なんだ!? 何が飛んでいるんだ?? 聖帝陛下と姫乃殿下の地下室へのご避難は済んだのだな??」


 慌ただしく人々が城の中を走り回る中、貴城乃シューネが高い多層塔のテラスから夜空を眺める。


「シューネ様、住人の目撃情報によると箱を抱えた銀色の巨大な鳥だそうです! 私も見たい」

「こら邪叛(やはん)モズ! ふざけている場合じゃないぞ。お前は桃伝説(ももでんせつ)に乗るんだ、私も金輪(こんりん)で出る!」

「シューネ殿、瑠璃ィ(るりい)様の魔ローダー、桃伝説に乗っても良いのですか?」

「良い! 居ないヤツに気を遣うな! 先程姫殿下が妖しい連中にさらわれかけた所だ、何が起こるかわからんぞ!!」

「おお、実は一度乗ってみたかったのです。して桃伝説の魔ローダースキル、絶対服従も使用して良いのでしょうか……?」

「やれ! 最初から全力で押さえるんだ!!」

「ハハッ腕が鳴ります」


 怪しい鳥の仮面を付けた怪しい家臣、邪叛モズは走って行った。それを見てシューネも足を引き摺りながら機体置き場に急いで向かう。



「あ、あれ……商店街の大きな橋の駐在所の警備兵達が示し合わせた様に走って行きましたが……何があったのでしょうか?」

「もういいじゃん何でも、早く盗んだ魔輪で走り出そうぜ」

「いや盗む訳じゃないでしょ、あれは私達の物です」


 そう言って、そもそもあの魔輪はニナルティナ軍から盗んだ事を思い出した。しかし躊躇無く魔輪を確保する二人。


「さ、さっさと旧聖都に帰りましょう」

「おー、私が運転する訳?」

「セレネに決まっているでしょ、何で意地悪ばかり言うのですか」

「さー」


「何だかナノニルヴァの宮の辺りが大変な事になっているらしい!」

「不思議な物体が飛び回って大騒ぎらしいぞ!!」

「俺たちも見に行こうぜ!!」


 若者の会話を聞いて二人は顔を見合わせた。


「兎幸は何やってるんですか~~?」

「心配して迎えに来てくれたんだろう……文句言うな」

「私はなるべく神聖連邦と事を構えたくないんですよ!」

「なんだよチキンチキン言ってた癖に、えらい変わり様だな? 何かあった??」

「い、いえそういう訳では。とにかく城に向かいましょう!」

「あいあい」



『やっぱり降りて探さないとだめかなあ?』


 等と言って、兎幸は蛇輪を鳥型から人型に戻し落下するコンテナを見事にキャッチして着地する。夜のナノニルヴァに魔ローダー蛇輪が降り立った。


「キャーーーーーー」

「うわーーー兎幸ちゃん僕たちの事忘れているでしょ」


 コンテナの中でジャンプして床に叩き付けられる二人。


『そこの銀色、止まりなさい!! 武装を解除して中の操縦者はハッチを開けて手を上げなさい』

『ほえ?』

「うわーーーーいきなり見つかってる!!」

「兎幸ちゃん逃げてッ」


 兎幸が振り返ると、魔法モニターにはいかにもヒロイックで格好の良い魔ローダーが立っていた。しかしその魔ローダーが異様なのは、姿こそプレートアーマーを巨大化しているという共通点は同じだが、装甲の色が全身度ピンクであり、数多くの魔法街灯と魔法サーチライトに照らされて、小脇に箱を抱えた鏡面仕上げの蛇輪とド派手対決になっていた。


『そこのメッキ仕上げ、今すぐ止まりなさい、でなければ貴方の自由を奪いますよ!!』


 度ピンクの魔ローダーに乗る邪叛モズは片手をゆっくりと掲げる。


『なになに? 何が起こるのー! 凄い面白そう!!』


 蛇輪の兎幸は一向に怖れる事無く、ゆっくりと近付いて来る。


『おお、馬鹿で良かったです! これで絶対服従が使えるっ!』


 そう邪叛モズが言うと、桃伝説の掌からピンク色の玉がふわふわと何個も飛んで来る。


『なんだろーーー?』


 兎幸が耳をぴくぴくさせながら玉を眺めているので簡単に当たりそうになる。


『もうすぐっ!』


 邪叛モズが期待に胸を膨らませた直後だった、蛇輪の背後から三つの謎の塊が出現し、蛇輪に接近する玉に次々当たっては、ピンク玉をシャボン玉の如く消して行った。


『なにっ!? 何だあの物体は!? 何故絶対服従の影響を受けない??』


 邪叛モズが驚くのも無理は無かった。蛇輪の周囲をふわふわ飛ぶ物体は、兎幸のUFOであり、しかも兎幸が魔改造された時に装甲強化され、さらにコピーされて数も増えていた。


『あ、UFOちゃんお帰り!!』


 この蛇輪の状態は魔改造された兎幸が搭乗した時だけ発動する、攻防一体の魔ローン形態だった。兎幸が意識しなくとも三つのUFOがランダムにヒュンヒュン飛び回り攻防一体の動きを繰り返す。しかも作成された魔法言語体系が地上の物では無いので、正体不明の桃伝説の魔ローダースキル絶対服従とやらも効果が無かった。


『ならば剣でっ!!』


 カキーーーン、コキーーーン ガッガガッ!!

桃伝説が剣で切り掛かるが、全て攻防一体のUFO魔ローンに弾かれる。


『なにこれオモローだはははははははは』


 蛇輪の中で兎幸は指をさし爆笑してお菓子を食べ始めた。そのままふんぞり返り、魔改造された時に大幅に成長した胸が揺れた。


挿絵(By みてみん)

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