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……先輩、再降臨!!


「くっそーーーーーバカ兄役立たずがぁ!!」

「酷いよ砂緒くん、こんなの無理だよ……」


 体質なのか相性なのか魔力の量なのか、砂緒は改めてフルエレとセレネの凄さを悟った。


「動け動けっ! くっそーーーーフルエレが居れば……兄者なんとかなりませんか?」

「無理だ……済まない」

「役立たずが!!! もういい」

「酷い……」


 二回も役立たずと叫んで、砂緒は猫弐矢を放置して外に飛び出る。


「セレネ、必ず助けます!! 絶対に助けます!!」


砂緒はあざ笑う様にパタパタ飛び続ける竜に向かってジャンプするが、当然全く届かない。


「砂緒……くっ……いやっ」


 既にセレネは涙を流しながらエロ竜マタマタの副腕攻撃に耐えている。


「絶対に絶対に助ける!!」

「もう良いよ……砂緒、もういいから帰って!!」

「は?」

「猫弐矢さんも伽耶ちゃんも帰って……私の自己責任だから……くっ」


 猫弐矢は息絶え絶えで斜めに寝転んだ蛇輪の操縦席から転げ落ちると、慌てて伽耶が走り寄る。


「大丈夫ですか!?」

「だ、大丈夫だよ……そ、それより肩を貸してくれ。僕たちが此処に居ても何も出来ない。それより僕たちはこの場から離れて、二人の判断に任せよう……もうどうしようも無いんだ」

「そ、そんな……」


 しかし猫弐矢の言葉通り、二人にはもはや何もすることが出来ない。猫弐矢の言葉はせめてセレネと砂緒二人の名誉を守る為に腰抜けと思われようとも此処を去る事にしたのだ。伽耶も結局猫弐矢の言う通りだと思った。


「砂緒さんセレネさんごめんなさい、猫弐矢さんを少しでも早く治療したいから……連れ帰ります!」

「済まない……」

「………………」


 力なく猫弐矢は伽耶に肩を貸されて去って行く。砂緒は二人を見ず言葉も掛けずに無視して諦めず竜に向かって行く。


「くっそーーーー待ってて下さい必ず助けます!!」


 崖によじ登ったり、木に登ったり、到底手が届く訳が無いのに何度も何度も必死に竜を攻撃しようとする砂緒。


「くっそーーーーーーーーー!!」

「もういいって、砂緒、もういいから、キャラ崩壊してまで必死にしてくれて」

「そんなん駄目だっ!! 絶対に助ける!!」


 諦めずにさらに何度も何度も攻撃を試みようとするがやっぱり届きそうにない。


「はうっ砂緒がそこまで……やってくれたってだけで嬉しいよ。もう本当に良いから帰れ。これ以上は見られたく無い……くっ」

「そんなのダメですよ、絶対に諦めて欲しく無い」

「もうあたしが良いって言ってるんだから……少し我慢して無かった事にするから」

「我慢して済む話じゃないでしょう!? セレネが傷付くじゃないですかっ! そんなの我慢ならない」

「……新品じゃ無くなってしまうから?」

「そんな訳無いでしょ! 新品とかそんな事じゃ無いでしょ!!」

「じゃあ、何なんだよ」

「セレネ自身が嫌で傷付くでしょ、それが耐えられない……助けられないなんて情けない……」

「うっはうっ……あはは、あたしゃがこんな程度で傷付く訳ないじゃん……」

「嘘付かないで下さい、人一倍繊細なセレネが傷付かない訳無い……助けられないなんて情けない……どうすれば……ううっ」

「お前泣いてるのかよ、立場逆だろ……もう良い……帰れ! 戻ったら後で優しく抱いてくれよ……はうっ」

「くっそーーーーーー!!!」

 

 砂緒はしゃがみ込んで拳で地面をガシガシ叩いた。いよいよセレネの全身を這い廻る副腕の動きが激しくなり、服を引っ張り破りにかかって来た。

 ビリッビリッ

悲しむ二人の感情を弄ぶ様にゆっくりセレネの服を破きにかかる竜。


「ほ、本当にもう……帰ってくれ……これ以上は見られたく無い……早く帰れ……」

「そんな……そんな嫌だ……セレネ」


 キィイイイイイイイイイイイインンン

突如甲高い音が響き渡る。


「?」

「??」


 砂緒とセレネは一瞬状況を忘れて周囲をキョロキョロ見た。


 ギュウイイイイイイイイイイイイイイイイイイインン


「何だ!?」

「うっ……何よ……はぁはぁ」


「うさこ……キィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイック!!!」

 

 ズバーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!

凄まじい轟音と共に、エロ竜マタマタの喉元から突然飛び蹴りのポーズの兎幸(うさこ)が突き破り飛び出て来る。

 シュタッ

そのまま兎幸は綺麗なフォームで着地した。同時に地面に巨体を落下し始めるエロ竜マタマタ。巨大な掌から解放されたセレネは、力なくビリビリの服のまま落下して行く。


「セレネッ!!」


 砂緒は立ち上がって落ちて来るセレネを全力で受け止める。思わず泣き顔で砂緒の首にすがり付き背中を抱き締めるセレネ。


「ごめんセレネ……」

「馬鹿ぁ、怖かったぞ!!」


 いつも通り泣いて砂緒に抱き着くセレネだった。


「月よりの使者、兎・幸・降・臨!!!」


 兎幸は二人の様子を伺いつつ言った。


「あ、貴方は、もしや喫茶猫呼に短期間だけ在籍していたという……伝説の兎幸先輩!?」

「兎幸……生きていたのか」


 砂緒はビリビリの服のセレネに上着を被せると、しばし久しぶりに会う兎幸の顔をじっと見つめた。


「私……まだ……現役、店員さん……だよ」

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